道路構造物ジャーナルNET

第55回 「設計」は何のために行うか?

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2020.07.16

3.新技術導入への技術者考

 そもそも役所のコンサルの使い方が、あまりよろしくない。他人に仕事を依頼する難しさというものをもっと考えるべきである。そもそもは、日本のコンサルの生い立ちに問題があると、私は以前から考えている。これに関しても、官側の責任が大きい。
「技術力」というものも非常にあいまいである。私は、それは「対応力」であると思う。未知のものに対して如何に対応できるか? というのが、能力を測る指標であると考えている。技術士は本来、そういった未知の課題を科学技術を駆使し解決できる者のことであるはずである。ルーチンワークでできるような簡単な作業を「設計」と言って威張っているが、これは確かに設計ではあるのかもしれないが、役務に近い。業務の難易度を分析して業務相当なコストを払えるようにすべきだ。「技術経費」はどのように組み立てられているか考えたことはあるか?
 さすがに実際に使えない図面を作るために、わざわざコンサルに委託していないとは思うが、現実はそうなってしまっている。最近、イラっと来たのが、「再委託」の問題である。「別に再委託は悪いことではない」と誰かが言っていたが、再委託は本来ダメで、全体の業務との比重に問題がある。力仕事など、設計で言えば単純な計算や図面描画、材料集計などの役務はOKであるが、業務の全般にわたるところを再委託に出すというのは、実際にはやられているが、本来はNGである。そして、まず再委託の承認は監督員からもらっているのか? 業務がそれで終わってしまうのか? それはもはや設計ではなく役務だ。
 よく最近、維持管理において「新技術とのマッチング」という話が出てくる。これが、現状では「マッチングしない」「マッチングしても一度しか使われない」と言われるが、これは当たり前なのだ。
 では、なぜなのか? 土木の世界で仕事をしてこなかった開発企業が、コンサルに相談して、役所に導入しようとしても、役所のニーズとは違っているし、導入上の仕組みの課題が理解できていないので、導入が進まないのだ。この部分を皆わかっていない。
 結局、日本の純粋な民間の方々は、役所についての勉強が足りない。諸外国では官と民との人材の行き来が激しいので、双方の仕組みなどの理解が、おのずとされている場合が多い。仮に、読者の方が新技術の提案をしたいのであれば、コンサルに頼るのではなく、役所、それも理解してくれそうなところに正式に行き相談したほうが良い。必ず聞いてくれる人はいる。それをどう探すかである。なかなか見つからないかもしれない。もともと日本の役所は閉鎖的なのだ。ここが問題なのだ。しかし、アンテナを高くして探せば、なかには私のような変り者もいる。
 テールアルメの新工法のものが最近完成した(写真-1)。数年前に崩落し、テールアルメ委員会や国総研、土研の方々、先生方に見ていただいたが、完成した。本邦初の形式である。テールアルメ協会の方々には大変お世話になった。


写真-1

 実は、崩れた壁面の裏込め土の調査を行った段階で、明らかに、よろしくない裏込め土を使用したことがうかがえるものが出てきた。本擁壁は、当初の建設は富山県によるもので市に移管されたものだった。
 今回の新形式の設計はテールアルメ協会の方が行っている。これからは、トンネルや擁壁やのり面、斜面と様々な構造物が老朽化してくる、今までのやり方で大丈夫か?


崩落後の調査の様子

 知り合いの社長さんの言葉でよく思い出され、反省材料なのは、「(新技術を)100件、持って行っても、評価してくれるのは1か所か2か所だと初めから思っていれば、あきらめもつく」というものだ。また、民間にいた時に新技術の提案パンフレットを作り、役所に持っていき、課長さんに説明して、帰りに部屋の入口で振り返り、お辞儀をしようとすると、その方がちょうど、渡した資料をゴミ箱に捨てるところで、目が合ってしまった。お互いに、ばつが悪かったが、それが普通である。相手の心に響かなかったのだな! と、反省し次は頑張ろうと思った。
 皆さん、こういう経験がどれだけあるかだが、私はそういう経験が山ほどあるので、できるだけ何とかしてやろうと考えている。しかし、「嘘つき、詐欺師」はだめだ! 北陸でよく使われている技術などは、国総研や土研との共同研究に如何にもかかわったように資料に書いてあったが、知人の国総研と土研の人間に確認したら、憤慨していたので嘘だとわかった。私が知人によく言われること、「植野さんは、必ず裏を取ってくるから怖い!」

4.まとめ

 今回も思いつくまま書いたが、コンサルタントの問題は、役所側にいると、大きな問題である。結局は、経験の少ないものが分かったふりしているから判断を間違う。これは双方。  現場で作った経験は? 何に苦労してどう解決したのか? 本気になって、議論して解決していったことはあるか?  1つの組織に所属して、順調に暮らしていると、物事の本質や自分の立場が見えにくい。東京に行くと、多方面の方々に、「地方自治体の置かれている状況や真の課題がわからない」と聞かれるが、それは当たり前で、経験していないからである。これも、一般的にはコンサルに聞いているようであるが、真実は分からないだろう。さらに外圧や妨害などの、修羅場をいろいろ経験してみなければ、本物の情報は伝わらない。
 富山での6年間、正直、なかなかうまくいかなかった。役所特有の障壁によるものである。私の存在そのものが、気に食わない職員もいた。地元企業などは、もっとひどいものである。しかし、実はそれは、私にはすぐに見抜けていた。それがわかっていたので、こちらもそのように対処した。あからさまに叩き潰せばよかったのだが、まあ、少し遠慮した。市長に遠慮したというところだ。これは、相手側の選択肢なので仕方がない。私のモットーは、前にも書いたが「水月」である。
 しかし、富山に行っていたことは、大きな宝である。経験できない経験であった。今後のインフラ・メンテナンスにおいて一つの実験的事例として役立つと思うのだが、なかなかそういう話は出てこない。  どうして富山に行ったのか? 何のために行ったのか? どう対応し判断したのか? 何を見切ったのか?
 皆さん、立場立場があるので触れたくはないのだろう。しかし、いつまでも理想論や綺麗ごと、机上論を言っていると、地方自治体そのものがもたなくなる。
 このような世の中になり、私自身も今のような状況にいるので、インフラ・マネジメントの新たな方向を模索していきたいと考えている。実は数年前にやろうとした道だった。現在、こんな私のことを心配してくださる、土木界の大御所の方々がいる。ありがたいことである。人間とは、わがままなもので自分勝手である。自分を認めてくれる方々とは、誠意をもって付き合ってまいりたい。
(2020年7月16日掲載。次回は8月中旬に掲載します)

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