HOME連載一覧現場力=技術力(技術者とは何だ?)

連載詳細

⑧長大橋技術大国へひた走る-中国雑感-

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長
角 和夫 氏

 令和2年1月下旬、中国湖北省武漢市から新型コロナウイルスの感染拡大の報が全世界に発信された。それがこの3か月の間に全世界的な感染症に発展した。中国はスケールが大きいだけに怖い。昨年の12月に1週間、上海、浙江省及び陝西省への出張の機会があった。また、2016年の秋には2週間、北京市、河北省石家荘市及び上海への出張の機会があった。忘れないうちに「長大橋技術大国へひた走る」中国についての雑感を記事にしようと考えた次第である。


1.はじめに

 戦後復興を成し遂げ、高度経済成長期~バブル期・バブル崩壊期を経て現在米国、中国に継ぎGDP世界第三位となった日本。一方、人口13億人を擁し、この四半世紀の間にあっという間に世界第2位の経済大国となった中国。学生時代は世界を二分した米国とソ連が超大国であったが、ソ連の崩壊とともに米国一国が超大国に。米国を除く国連常任理事国と日本・ドイツが大国と一般的に言われているようである。

 それでは、国力とは何で評価しているのか。国力とは色々な指標の組み合わせで評価されている。基本指標は、人口と領土。それに軍事力や経済力を数値化したものが組み合わさったものである。基本指標の人口があるが言い換えれば「国力=人力(知力)」でもある。イギリスの高等教育専門誌THE(Times Higher Education)は、2020年のTHE世界大学ランキングを発表している。アジアトップは中国の清華大学(世界23位)、2位は北京大学(世界24位)、5位に東京大学(世界36位)が入っている。日本の高度成長期からバブル期において中国から多くの留学生が日本を訪れた。大学・大学院や研究機関、コンサルタント、ゼネコン、ファブ等で技術力を身に着けて数年後には出身大学や企業等に帰って行かれた。

 「嘘のような本当の話」で支承メーカーの技術屋さんが言っていた。「中国人は、支承を1個だけ注文し、国内の工場で同じものを大量生産(コピー)する。支承の性能よりは形状重視だと」。そういう話をしていたのは一昔前。今では材料(素材)から製品まで独自の技術で生産しているのが実情である。日本は高度経済成長期、高速道路の建設等のインフラ整備をきっかけに技術先進国になった。一方、中国はこれから益々高速道路等のインフラ整備に突き進む。日本では事業仕分け以来、費用対便益(B/C)で高速道路の新規建設を判断するように方針転換をした。しかし、B/Cが1に満たない路線についても現在はなし崩し的に税金投入による無料区間として整備を進めている。中国はどうか。北京の交通運輸庁との会議に出席した際の説明では、「とにかく大都市、中小都市をとにかく高速道路でまず結ぶ」。とてつもない道路整備計画である。東シナ海沿岸には島々を結ぶ海上連絡橋、内陸部では長大河川を跨ぐ長大橋、山間部には渓谷を跨ぐ長大吊橋など。日本は橋を作ることにより技術先進国になった。中国も同様である。違うのは、これまで欧米の長大橋を模して技術先進国になった日本と、欧米・日本を模しながら新たな技術開発を進める中国との勢いの差である。最近、阪神高速グループの依頼で中国各省への研修が多くなった。数回の中国出張など気づいたことを中心に紹介する。世界中が新型コロナウイルスでてんてこ舞いになっている中、中国の驚異を実感して頂ければ幸いである。


2.最初の付き合い~蘇通長江公路大橋(スートンブリッジ)~

  中国の橋との関わりは蘇通長江公路大橋(スートンブリッジ)(2008年開通、支間長1,088m)が最初である。福岡県庁から本四に復職し、当時の理事からスートンブリッジのセミナー(2001年度の「蘇通長江公路大橋技術研究討論会」)に出席するので「鋼管杭基礎」に関して質問事項や指摘事項をまとめて、と頼まれたのがきっかけである。鋼管杭基礎に関しては、関空の鋼管杭基礎の設計や福岡県北九州空港連絡橋の基礎(約20,000トンを採用)の設計や施工に関しての経験(ジャーナル2月号連載記事)をもとに色々指摘した。当時、斜張橋では世界一の中央支間長を目指すスートンブリッジへの敬意と期待を込めてのことであった。その一方で福岡県に出向する前に担当した多々羅大橋(中央支間長890m)をあっという間に凌駕される何ともいえない悔しさがあったのも事実である。この思いはノルマンディ橋(1995年完成、支間長856m)の設計者であるDr.ビルロージュが「多々羅大橋は物真似だ」と言われていた、というのに似たものだろうか。当時、当分の間、スートン橋を超える斜張橋は現れないだろうと思っていたが、わずか数年後にとんでもない橋が出現した。ロシアウラジオストックに建設されたルースキー島連絡橋(2012年開通、支間長1,104m)である。抜きつ抜かれつの時代も当分の間小休止になるであろう。


 話を元に戻すと、スートン橋のレポート(土木学会論文集F2009.5)を目にする機会があった。1991年のF/Sでスタートし、2002年に最終審査終了(事業承認)。2001年設計業務入札、2003年6月主塔基礎工事着手。2006年9月主塔(RC)工事完了。2006年7月中央径間桁閉合。2008年6月開通。工事着手から開通まで5年という短期間で世界最長支間長を有する斜張橋を完成させている。長大斜張橋固有の問題、つまり、構造非線形性、主桁の座屈、長尺ケーブルの振動及び耐震性等、検討・解決すべき課題はあるが、これまでの技術者達が解決してきたことなので特には触れない。画期的なのはこの橋に導入した構造ヘルスモニタリング(SHM)である。多数のセンサを設置して橋梁をモニタリングしている。その目的は、①安全性や信頼性の向上、②長寿命化、③突発的な災害や異変の回避、④ライフサイクルコスト(LCC)の低減、⑤未知ファクタの予測、ということである。なお、ヘルスモニタリングについては持論があるので次回以降に述べさせてもらうこととする。