道路構造物ジャーナルNET

①吊橋主塔が揺れる、箱桁橋が揺れる!

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2019.10.01

その2 箱桁橋が揺れる!

 道路橋示方書の適用範囲(支間長200m未満)を超える長大橋や特殊な形式の橋では、設計(地盤・構造・耐風・耐震・景観等)や施工に関する委員会が設置されるのが通例である。一般的には、委託者側が資料を作成し、学識経験者や行政の参画する委員会で審議することになる。例えば、長支間を有する鋼床版箱桁橋(関空連絡橋、アクアライン、門崎高架橋等)や吊橋・斜張橋等の場合である。
 委員会では、設計断面での二次元風洞試験(剛体模型)や三次元風洞試験(弾性体模型)の結果により耐風安定性について審議する。必要に応じて断面形状の変更や制振対策を計画する。
 関西国際空港連絡橋(以下、「関空連絡橋」という)は、海上中央部に道路・鉄道併用トラス橋を、りんくうタウン側および空港島側には鋼床版箱桁橋を配置している。耐風設計上問題となる空港島側箱桁橋は、道路・鉄道併用のトラス橋から徐々に両サイドの道路桁2本と中央の鉄道桁1本が三次元的に位置を変化させ、終点の空港島内では同一平面上に着地するものである。
 このため、三次元風洞試験により耐風性検討が行われ、曲げ・ねじれの渦励振と曲げの発散振動であるギャロッピング振動や乱流中の応答であるバフェッティング振動の発生が確認された。致命的となるギャロッピング振動に対しては、鋼床版箱桁橋では一般的な対策である主桁ウエブに設置した下部スカートで制振した。
 また、曲げや捩じれの限定振動(渦励振)に対しては、箱桁内に設置したTMD(Tuned Mass Damper)による付加減衰で制振した。TMDの設置対象は、空港島側の2および3径間連続鋼床版箱桁橋(道路橋)と3径間連続鋼床版箱桁橋(鉄道橋)(図-5参照)である。


図-5 関西国際空港連絡橋TMD配置図

 この限定振動の発生メカニズムは、上流側の箱桁断面から剥離した気流が下流側の箱桁を強制的に揺らすことによる。実橋の構造減衰やTMD(図-6参照)の効果を確認することを目的として起振機による振動実験と動態観測を実施した。起振機の実験では、TMDロック時、解放時の減衰、振幅を計測した。自然風では、風上側のTMDを作動させ、下流側のTMDをロックさせた状態で桁振幅と減衰を計測した。
 1990年11月30日、台風9028号(空港連絡橋のデータ、最大風速約18m/s)(和歌山に上陸、空港島に設置していたプロペラ式風速計の羽根がぶっ飛んだ、瞬間風速60m/s以上の強風)接近時に2径間部の振動を観測した。

 この結果を耐風分科会に報告し、鉛直振動が確認されたこと、必要な減衰が付加されたことを報告した。その後、出身母体が同じであるアクアラインの課長さんにもこの一件を報告し、御社の鋼床版箱桁橋においても必要な対策をすべきではないでしょうか、と進言した。これは、関空連絡橋やアクアラインの耐風設計を担当したM社からも進言がなされた。しかし、「国内・国外でこれまでに桁橋が揺れたことはない」という委員の発言やコスト削減に追われていたこともあり、アクアラインには必要な対策が取られなかった。
 当時の委員会としての判断は、道路橋耐風設計便覧(平成19年改訂版、15P参照)に記載されている。抜粋すると、①構造減衰や気流の乱れの違いにより実橋においては必ずしも有意な振動が発生するとは限らないこと、②桁の架設完了から供用開始までかなりの期間があることから、実橋の動態観測により有害な振動が確認された場合には制振対策を施すこととする、である。
 結局、工事中においてもトラックの走行により振動が発生、供用開始前の1994年12月から1996年1月にかけて一定の条件下において鉛直たわみの渦励振が生じ、風速16m/s前後で最大振幅54cmの一次モードの振動が生じた。また、風速23m/s前後では二次モードの振動が発生した。このため、鋼床版のデッキに開口部を設け計16基のTMD(図-7参照)が桁内に設置された。


(左)図-6 TMD構造図(関空連絡橋)/(右)図-7 TMD構造図(東京湾アクアライン橋)

 委員会としての苦渋の判断であったことは容易に理解できるが、関空連絡橋等での振動事例や検証結果を重く受け止め、現地架設当初からTMDを設置するという判断が必要だったのではないだろうか。委員会の学識経験者の発言は重い。「当初からTMDを桁内に入れない」という判断は、あるいは委託者側のコスト縮減の意向が反映された形か、それは他社(当時、関空の設計係長)の私では分からないが、結果的に無駄な費用を投入することとなったのは確かである。
 これまでもいろいろな委員会が設置されてきたわけだが、委員会の設置目的を分類すると、①学識経験者のお墨付きを頂く、②委員会(産・学・官)で諸問題を洗い出し、解決していく、の2タイプがあると考える。オーソドックスなのは①であろう。
 福岡県に北九州空港連絡橋という海上2kmの海上橋がある。このPMを私がしたのだが、委員会の手法は②である。忖度無しで自由に技術論を語り合い、必要な検討、実験を実施し、施策に私が移す。例えば、風洞実験。大学に風洞実験を委託するのが前提ではなく、必要な実験が何で、どこの風洞で実験が可能か。できなければファブリケーターで、ということになる。亡くなられた京大のS教授や九産大のY教授、退官された九工大のK教授、弘前大の同い年のH教授。私が信頼している「耐風設計」のプロの方達である。
(2019年10月1日掲載 次回は11月1日に掲載予定です)

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