道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第51回 新たな構造、形式にチャレンジするには ‐過去に学び、現代に活かすポイント‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2019.09.01

1.“独創のコツ”と“人材育成のポイント”とは?

 私にとって数学は、学生の時には全く興味が湧かず、ひょっとしたら嫌いな分野でもあったのかもしれない。このような理由から、学生時代、これから話す世界的に著名な数学者『広中平祐』氏に関する知識は無い。ましてや、私は『広中平祐』氏の知り合いでもなければ、お目にかかった事もない門外人である。広中先生が世界的な偉人である事も知らない私であるから、並外れた数学者としての能力や世界的な数々の功績を細かく知っているわけではない。国内外で著名で、コマーシャルにも頻繁に出ていた『広中平祐』を知らない、その無知な私が、ある時ふと目にした資料の中にあった、『広中平祐』語録を読んで感動を受け、『広中平祐』氏の虜になった。それは、中年、私がアラフォーになってからである。

 広中先生(以下、失礼とは思うが先生とした)を知らない人もいると思うので、先生の略歴を紹介する。日本の数学者として、数学の世界ではノーベル賞にも匹敵すると言われているフィールズ賞を、国内で2番目に受賞した学者である。広中先生は、京都大学理学部で修士号取得し、その後ハーバード大学で博士号を取得されている。今や代数幾何学の分野では基本と言われている、『特異点解消』の研究でフィールズ賞受賞され、私がこの夏数年ぶりに行った私が大好きなNEW YORK マンハッタンにあるコロンビア大学教授、そして魚介類が美味しく、文学的な雰囲気一杯のBostonのハーバード大学教授、京都大学教授を歴任されている。

 私が感動した広中先生の名言を紹介しよう。一つは、“「独創」のコツ(アイディアを活かすには)”「第一には、結果がどうであるか分からないのに、コツコツ努力すること。第二には、ここぞという時の打って出ていく勇気、博打根性といってよい。この両方を持っていなければ、せっかく持っている力も出し切れない」(図‐1参照)である。

 確かにそうだ。第一のフレーズ、結果がどう出るか分からないのにということは、目的を絞って限られた範囲内で学ぶ意識ではなく、視野を広く持って学べということだと私は理解している。とかく私利私欲が先行し、目的を限ってその分野のみ学んでいると、肝心な時に役立たず、自らの主張が出来ない。成果を期待するのではなく、視野を広げて種々な分野の事柄を学ぶ姿勢は、分野を超えて、世界的、嫌、宇宙的に大きく広がる知識を身につける事が出来、意識しなくても新たなアイディアがどんどん湧き出てくる。

 次のフレーズ、博打根性とは、言い方は悪いが正に本質を突いた言葉であると、私は思っている。多くの知識を持っているのに、それを外に向かって打ち出せず、自分をアピール出来ない人が数多くいる。有益な知識を自らの蔵にしまい込んで、自己満足しているのだ。要は、第一フレーズ、コツコツ努力する事と、第二のフレーズ、博打根性で打って出る事、この二つが無いとアイディア(独創)を創り出し、そのアイディアを的確に示し、相手に認めさせる事が出来ないと言う結論である。具体的に話をすると、組織が行き詰った時、斬新な考え方を求められた時、関係している技術者は皆、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、蓄えた知識や経験をベースに勇気をもって持論を打ち出す事が必要なのだ。ここで、この名言を実感した私の経験談を話そう。私が米国で、初めてお会いした『篠塚正宣』先生との出会いとその後の行動も正に、先に示した名言の実行であった。

 ニューヨーク・マンハッタンのホテルで開催された国際的なコンファレンスで、私にとって雲上人である『篠塚正宣』氏にお会いした時、これまでに培ったスキルを基に周囲の人を押しのけ、博打根性で自分の考えを話したからこそ、その後、篠塚先生(これ以降申し訳ないが、篠塚先生とする)と親しいお付き合いをし、教えを乞う事ができた。ここに紹介する篠塚先生は、京都大学で学位を取られた後、コロンビア大学で助教授、教授、そして、アメリカで初めて設置されたニューヨーク州・バッファローの地震工学研究センター初代所長を務め、コロンビア大学のEGLESTON MEDALを受賞される他、アメリカ土木学会の種々な賞を受賞されている。

 米国で初めて設置された地震工学センターの初代所長に日本人、これを聞いただけでも私にとっては、震え上がる存在であった。これだけ著名な研究者、学者であることから、当然、国内外に先生の教えや感銘を受けた人は数多い。篠塚先生と親しくなってから、先生のカルフォルニア・オレンジカウンティにある自宅(入り口にゲートがある特別なエリア内、室内が明るいセンスの良いピンクの館)に3度ほどお邪魔したが、先生は自らの優れた能力をひけらかすことなく、何時も笑顔で接していただいた。そして、少し嗄れ声で「髙木さん(決して髙木君とは言わなかった)の考えている事、それを実現するには・・・・・が必要ですね。私も微力ながら協力しますよ、何時でもいらっしゃい、歓迎しますよ」であった。昨年11月に亡くなられた『篠塚正宣』先生から得た貴重な技術は、次の機会に譲るとして、今回は先生の知識を垣間見る事が出来る資料を図‐2を、参考に示す。

 これは、先生が中国、韓国に行く時日本立ち寄られた際、同時期に開催された『リモートセンシング国際会議』において講演していただいた時の資料である。表題は、『Comments on the Emerging Role of Remote Sensing in Post-Disaster Response』 直訳すると『災害後の対応におけるリモートセンシングの新たな役割に関する提案』となるが、篠塚先生のリスクマネジメントに関する素晴らしい意義ある講演であったことを申し添えておく。

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