道路構造物ジャーナルNET

㊴技術力の研鑽

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2019.02.16

1.はじめに

 ついにやってくれました。恐れていたことが起こった。詳しいことは語れないが、地元コンサルの瑕疵。これも、瑕疵とするかどうかがまた揉めると思うが、結局は甘えの構図なのである。しかし、甘えなのか? 本当は市役所が馬鹿にされているのかもしれない? コンサルは技術力が自分達にあると思っている(大手も地元も)。
 役割分担が分かっていない。無理なことには手を出さず、できることをやればよい。これから、この国の、この町の財政が厳しくなり、これまでのように待っていても仕事はなくなる。役割分担をしっかり考え、連携していくことが大切である。
 維持管理の時代では、これまでのように1橋1橋をやっていく時代ではない。特に役所側は多くのものを監理しなければならない。ここで重要なのが「シクミ」と「ツール」であるが、現在の議論を見ていると「ツール」の話ばかりである。UAV、AI、DB、ロボット化であるが、これはあくまでツールであり、使う側の問題の議論が抜けていることが気がかりである。

2.近年の傾向への懸念

 最近の傾向を見ていると非常に不安を感じている。官も民も「ソフト偏重社会」に陥っている。ここで言う「ソフト」とは2つある。いわゆる、コンピューターソフトの活用に頼りすぎているのと、技術者が困難な構造系ではなくデザインや景観に走ることである。職員も「まちづくり」をしたがる。
 先に、地元コンサルの状況を書いた。地元コンサルの技術力、能力がその自治体の能力であるからである。これはコンサルだけではなく、地元建設会社に関しても同様であるが、これまで自治体がきちんと技術力を研鑽し、当たり前のことを習得し、民間企業と議論して、事業を実施してきたか? 長年、甘やかして、地元で金さえ回ればよいのか? 今後は、その結果が大きく問われる。その地域の既存の構造物を見れば一目瞭然である。
 さらに、構造物に関する知識が足りていない。最近の傾向を見ると、先生方も材料系の先生が多くなってしまっている。桁を壊したことのない技術者が増えている。これは致命的である。ものの壊れ方が分からなければ、設計も維持管理もできないので、ぜひ桁を壊すのを見る機会を得て欲しい。私は、卒論でも壊したし、アルバイトでも壊した。就職してからも企業の委託実験を担当して壊してみた経験が非情に役に立つ。


壊れ方が分からなければ設計も維持管理もできない

 かつて、韓国に赴任した際に、まず、さまざまな構造物、舗装の状況、縁石の出来具合などを見て、技術力を推測した。さらに、コンサルの技術者と胸襟を開いて話し合った。昼飯を一緒に食べ、夜は飲みに行ったし、休日は自宅に招かれたり、ドライブに行った。同じことを、実はここでもやっていこうとしたが、「公務員○○規定」などがあり、皆それを気にしている。韓国では3週間、向こうのコンサルの技術者から質問攻めにあったが、3週間後、私のことを「ボス」と言い出した。
 これでやっと仕事は円滑に動き出した。彼らは、日本人以上にプライドが高い。特に技術に関する点においては、真摯というか熱心というか、かなりの考えを持っている。韓国の道路公社とコンサルが激論というか、かなりの言い合いをしていたことを何度か記憶している。日本で言うと、道路橋示方書の中身の解釈に関する議論であったが、それぞれの考えを言い合っていたが、かなりの激しい口調であった。


韓国で経験した高速道路のPFI事業

 こういう場面は現在の日本では見かけない。やれるとすれば、大手コンサルのしかも特殊な人間だけである。かつては結構、こういう技術的議論があったような気がする。あまりの激しさに、コンサルを注意すると、「こういう議論ができることが技術者のレベルの高さを訴える場なんです」というようなことを言っていたのを覚えている。確かにそうだ。
 しかし、技術に関して議論するというのは、実は相当な実力がいる。現在の日本のコンサルを見ていると、自慢というか知識のひけらかしにしか思えない。なんというか(?)重みがないのである。これは、現場経験や修羅場の経験が足りないからである。
 そのような中で点検の第一ステージが終わり、第二ステージに向かう中、議論は手抜きの点検に向かっている。恐ろしいことである。

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