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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊸コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その5) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.11.01

4.確実な予防保全に向けた調査方法について

 今回の調査・分析は、現在法制度化された定期点検の近接目視および打音調査が主であったことから、化学的劣化現象として挙げられる中性化や塩害の実態を把握することは不可能であった。
 ここで、海岸地域に位置する供用開始後18年経過した鉄筋コンクリート・ラーメン橋において、中性化および塩害に関して非破壊試験を併用して詳細調査を行い、寿命予測した事例を説明しよう。
 実施した調査内容は、塩害は塩分分析等、中性化現象はフェノールフタレイン溶液による調査を行うことで、供用道路橋の余寿命の判定をした。調査・分析した結果は、上部・下部構造ともに、コンクリート表面から50mmの範囲で塩分量が1.2kg/m3 を超過しており、全ての表面近傍(0~25mm)調査箇所で、塩化物総量規制値である0.6kg/m3を上回る塩化物イオンを検出した。現時点では鉄筋位置(50~75mm)での塩化物イオン量は0.14~0.26kg/m3であることから、鉄筋腐食発生限界である1.2kg/m3を超過していないことが確認された。さらに、斫り調査を行った結果、内部鉄筋は健全であることを確認している。
 次に、中性化現象であるが、表面より平均11~21mm の深さまで中性化が進行していた。塩害、中性化の試験結果をもとに、実測主桁の鉄筋被り51mmに対して鉄筋腐食が始まるまでの残存期間は、部材別に9~39年と判定することができた。
 ここに示した事例のように、非破壊試験、特にコンクリート特有の化学反応を捉えるには、塩害、中性化、アルカリシリカ反応を定量的に、そして的確に捉えることが必要で、それを可能とする試験法を積極的に活用することが適切であることを再認識した。
 5年に1度の頻度で実施している定期点検は、現状では近接目視点検が基本であり、先にも説明したが、中性化や塩害等、潜在的な劣化因子の浸透状況を判断することは困難である。化学的反応が原因で変状発生し、それが内在している場合、鉄筋腐食やこれにともなうひび割れ発生、剥離・剥落等の変状が顕在化するまでは、見かけ上健全と評価されてしまうこととなる。
 変状が顕在化した時点で局所的な補修・補強を行った場合、マクロセル現象等、電位差の異なる部位間での微弱電流の影響によって、さらに対策した周辺部位の鉄筋腐食が促進される事態も懸念され、大規模、広範囲の再補修が必要となる場合がある。ここに示すような状況に対し、被りコンクリートの防食性能を補う表面被覆等の予防処置、例えば、含浸タイプの劣化防止材の塗布等を早い時点で講ずることによって、鉄筋腐食に至る劣化因子の浸透を制御し、構造体の健全性を長期間保持できる可能性が高まるはずである。
 それとともに、現在積み残している要対策箇所や近い将来懸念される多数橋梁の同時期補修・補強、架け替え要請に対して予防措置、長寿命化が可能となり、維持管理、大規模修繕、再構築予算の平準化が可能となる。
 全国の国や地方自治体の道路橋は、80年以上供用されているコンクリート橋をはじめ、種々の年代の鉄筋コンクリート橋や橋台・橋脚となっている。各エリアで、代表的な構造物を抽出し、塩害、中性化および凍害の進行状況と鉄筋被りを工学的に確認し、経年劣化の実態や表面被覆された構造物における劣化進行状況を正確に把握したうえで、計画的な予防保全の枠組みを構築する必要があると考える。
 今年度末には、法制度化された全国の定期点検結果がほぼ出そろい、4段階評価された全橋梁のデータを分析することが可能となる。集まったビッグデータを使って、戦略的予防保全型管理を進めるために必要な調査対象橋梁を次のように考えた。
 現行の点検基準で規定された4段階評価において、Ⅱランク(予防保全レベル)以下の橋梁と建設年次の古い橋梁の中からモニタリング橋梁を抽出し、それらを統合し、同じ調査方法によって詳細調査する方法である。まずは、同じ要領で近接目視した橋梁を変状別、ランク別、経年別、環境別等に区分し、その中から代表橋梁・モニタリング橋梁を抽出、非破壊試験を併用した詳細調査を行う考え方である。

 

 定期点検によるコンクリート橋の総合評価ランクは、回数を追うごとに悪化する傾向にあるが、中性化や塩害、アルカリシリカ反応の進行との相関性が明らかになれば、比較的簡便な非破壊試験を併用した判定で対策の優先順位を決定できるものと考える。特に、塩害が懸念される海岸線に近い橋梁、感潮河川にある橋脚・橋台、さらには冬季に凍結防止剤等を散布する橋梁で桁端からの漏水が認められる鉄筋コンクリート下部工についても、例えば、写真-10に示すように鉄筋腐食等変状が顕在化していなくとも、被りコンクリートの塩分量を調査し、潜伏期間中にしかるべき対策を講ずることで、容易に構造物の長寿命化が図れるはずである。最後に、鉄筋コンクリート構造物の長寿命化について話を進めよう。


写真‐10 ラーメン式橋脚躯体に発生した鉄筋腐食:1956年8月建設・井筒基

5.今回の調査結果を活かす長寿命化への取り組みについて

 鉄筋コンクリート橋の使用性能、耐久性能、耐荷性能は、引張抵抗要素である鉄筋の健全性に左右されると考えられる。しかし、現在使われている定期点検要領における各部材の判断基準は、必ずしも鉄筋の健全性に与える影響度合いを十分評価したものとは言えない。
 特に構造的な拘束にともない発生する拘束ひび割れは間隔が50 cm未満となることも多いが、鉄筋露出、主鉄筋が剥き出しになって早急な手当てが必要なものが放置された状態となっている場合が見受けられる。このような状態のまま放置することは望ましいとは言えず、現場で点検を行った時に応急的な防錆処理を並行して行うのが望ましい。
 今回の調査で特に感じたことは、耐久性保持に関して最も重要な劣化促進因子は路面からの漏水である。現場施工の構造部位で構成されている限り、局所的な脆弱部やひび割れを内包していることは避けられず、メンテナンスの段階でいかに劣化の進行を遅らせられるか、直接的には内部鉄筋の腐食を防げるかということがテーマとなる。中性化や飛来塩分、凍結防止剤散布による塩害劣化に対しては表面被覆が有効な抵抗手段と考えられるが、ひび割れに浸潤する漏水や遊離石灰析出、内部鉄筋の腐食に対しては橋面の防水性能を高めたり、伸縮部からの漏水を断ち切ったりすることが、コンクリート躯体の長寿命化に直結するものと考える。
 長期的な耐久性向上策としては、高機能舗装の採用や埋設ジョイントの採用等、橋面の防水、伸縮部の止水に有効な対策が実施されている橋梁もあるが、写真-11に示すように橋梁下面や橋台部の変状は放置されることが多く、未措置のまま次の定期点検でも健全度ランクが同一評価で継承されるケースも散見される。

 


写真‐11 路面から伸縮装置を流下し、堆積した土砂、雨水の状況

 変状原因をなくすために行った橋面上の改善工事(例えば、伸縮装置交換、橋面防水等維持工事として行われる)の改善影響度を的確に評価する手段として、特定した部位の健全度判定を一旦クリアにし、変状の進行度にどの程度改善されたかを評価できるように、部分的なモニタリングゾーンを設置する等の対応策も有効である。
 私の経験では、道路橋の総合健全度ランクは点検を重ねるごとに健全度が悪化する方向にシフトしていく傾向が多数ある。確かに、健全度が低いランクの部位や部材に対しては、詳細調査を順次行い、早期対策が必要な箇所は、補修・補強を行うのが望ましい。しかし、先に示した拘束ひび割れで説明した事例のように、すぐに対策が必要でない場合もある。対策不要と判断した変状については、要観察措置とし、先送りしている事例もある。要観察箇所をいたずらに増加させることは、早期措置ランクの橋梁が無対策のまま放置されることになり、結果、Ⅲランク(早期措置レベル)評価橋梁の総数に加算される結果となる。このような状態が続くと、最悪、管理者の健全度に関する感度が鈍ることになりかねない。
 そこで、このような悪循環、感度低下とならないためには、現在点検・診断した結果や評価基準を見直し、継続的に要観察措置となっている橋梁の健全度ランクをランクアップさせる等の処理を行うことが望ましい。
 このような措置を適切に行うためにも、経過観察に指定した変状は、現場でもそれと確認できるよう、的確なマーキングを行う等の工夫が必要である。
 以上が、鉄筋コンクリート構造物、道路橋の上部構造および下部構造の変状分析結果と長期耐久性を目指す予防保全型管理導入に向けた私感と提言である。

 これまで、5回に渡って「コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上」について連載した。今回の連載が多くの読者に読まれ、実橋管理に私のエキスが活かされることを期待したい。
 インド・カルカッタの鉄筋コンクリート道路橋崩落事故の原因は、未だ公式資料が出されてはいないが、私が前回公開したような変状が、我が国の道路橋には起こらないことを祈るばかりである。構造物の崩落事故は、技術者の注意が綻んだほんの小さな間隙をついて発生する。
 定期点検を最新の技術や考えを持って行うことは維持管理・メンテナンスの基本的なレベルで、それを基に適切な措置を効果的に行わなければならない。特に、技術者が計画を策定することばかりに注視し、健全度に関する感度レベルが低下すると想像力や判断力が減少し、事故の発生確率が異常に高くなることを忘れてはならない。
(次回は2018年12月1日に掲載予定です)

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