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シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉖

群馬県編② インハウスエンジニアがチャレンジすることの大切さ

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授
細田 暁 氏

現場が近かった八ッ場

 細田 八ッ場には何年おられたのですか。

 下山 3年です。


事務所から現場が近かった

 細田 1年目の終わりくらいに試行の話があったのですね。その前の現場の経験は。

 下山 伊勢崎の土木事務所にいました。

 細田 担当していた内容は。

 下山 道路と河川の改良を担当していました。河川改修の際にも橋の架け替えがありましたが、ボックスカルバートへの架け替えでした。

 細田 そのころの仕事のやり方と試行とではだいぶ違うのですか。

 下山 良い道路・構造物を造ろうと仕事はしていましたが、材料と工程的なもので、八ッ場の現場のようには突き詰めていません。コンクリート構造物を緻密にしたほうがいいという発想までにはなっていませんでした。

 細田 八ッ場では現場に通う機会も増えたのですか。

 下山 八ッ場は事務所と現場が非常に近い特殊な場所でした。他の事務所は町をいくつか束ねた事務所だったりして、違う町に行ったりするのですが、八ッ場は事務所から現場まで5、10分の距離にあったので、すぐに行けるという地の利もあって、行く回数が増えました。


「学」をうまく使おう

 単なるルーチン化は避けなければならない

 細田 これから群馬県はシステムの本格運用に入っていくわけですが、すべてのシステムはできた直後は立派でも、時間が経てば劣化するものです。とはいえ、品質確保の取り組みをこれから立ち上げていくときに、みんなが意義を感じながら推進していくためには、いろいろな課題があると思います。実際に試行を経験された下山さんから見て、課題や上手くやっていくためのアイデアがあれば教えてください。

 下山 立ち上がりのときからも建設企画課で鹿沼大成や神尾崇が熱心に取り組んでいたのですが、そういった人が本課にいなくなっても、続けることができるようにすることが肝ですが、単なるルーチン化は避けなければなりません。

 細田 品質確保は難しくて、与えられた条件が同じであればルーチンでもいくかもしれませんが、施工方法が変わったり、材料が変わっていったり、人が減っていったり、予算が減っていったり、これからは資源もなくってくるので、たぶん制約条件がどんどん変わっていくため、さらに困難さは増していきます。そういう難しい分野であることを認識してほしいですね。

 情熱と気迫を持つ人が群馬県にはたくさんいると思うので、「学」をうまく使った方がいいと思います。山口県も我々を上手に使っています。心ある「学」の人間はルーチンになった時点で全くやる気がなくなります。そうでない取組みにしか関わりたくないし、山口県や群馬県のコンクリート品質の向上に対する取組みは間違いなくルーチンではありません。私個人は、維持管理の品質確保、維持管理の耐久性確保、維持管理をした後の構造物がちゃんと品質ができているのか、耐久性を発揮するのか、新設よりも実は維持管理の方が相当難題で、真のターゲットだと思っています。国を挙げてのチャレンジだと思います。


任せるのではなく関わって一緒に作る

 若いインハウスエンジニアの方向付けが大事

 ――(編集部) 床版をみて、もう少し丁寧にやってみようと発想が浮かんだことはすごいと思います。それは、他の現場でも下山さんがそういう問題意識を持たれていたからですか。なぜ、こういう発想が浮かんだのですか

 下山 床版の現場をやったことがないのが一番です。施工業者の人はいつもどおりにやっていて、それが普通らしいのですが、イメージが床版なので表面の仕上げが丁寧でなければならないという先入観がありました。

 ――(編集部) 自分でNETISを調べて、JS工法を持ってくる。ここまでやるインハウスエンジニアはなかなかいないと思います。例えば、以前の伊勢崎の土木の現場でも、同様の取り組み姿勢だったのですか

 下山 以前の現場でもなかったとは言い切れないですが、中央長野原橋は試行の流れの続きでやっている現場であり下部工もアグレッシブに取り組んでいたので、床版の仕上げも品質の確保に拘りました。

 細田 人間って本質的に簡単に変われないから、もとからそういう人なんだと思います。

 下山 伊勢崎土木にいたままで、試行の担当にもならずにいたら、そこまで考えず、大手がやっているのだから任せようという発想で終わったかもしれません。

 細田 どなたにも聞きたいのですが、県職員は大事な仕事だと思います。技術力が向上していくこととか、そもそもその前提にある意識が向上していくことは大事だと思いますが、それについてどう思われますか。

 下山 ずれるかもしれませんが、今の若い人たちはみなさん技術力があると思います。少なくとも意識は持っていて優秀だと思っているし、あとは方向付けだけだと思っています。

 細田 順調に育っていきますか。細分化や余計な仕事が多くて、人が育ちにくい時代になっていて、なかなか難しいと思っています。


中間的な人員が必要

 ピンチのときほど対話が必要

 下山 昔は、所属長と係長クラスの中間にもっと人がいて、(人員的な)余裕がありました。昔、自分が新規採用職員の頃はあの人たちは普段何をしているのだろうと思ったことがありましたが(笑)。肝要な時には現場を見てくれて、相談にも乗ってくれた人達でした。そういうのが大事なのではと最近思っています。今の係長さんは、昔中間の人たちがやっていたこともやっているし、逆にその上の次長さんクラスも同じように昔の中間の人たちがやっていたようなことまでやっていたりして、地元説明会も係長よりもちょっと上の課長クラスに出てもらうこともあったのですが、今はすぐ次長になってしまいます。次長は現場につれていかれるし、入札の指名も作らなければならないとか、ゆとりがない。そういう意味で、技術力を高めるためには、中間的な人員が必要なのだと思います。

 これは危機対応についても同じで、災害が発生したときに指揮する人が次長と所長しかいないのでは何日も続けば持たないと思います。人的ゆとりがないと厳しいと思います。

 細田 勉強する時間もなくなりますからね。そういう時こそ対話が必要です。一人で勉強しなければならないと思うから苦しいですが、知っている人と情報交換をすると、話しているだけで勉強になるし、ヒントがいっぱいもらえる。ピンチのときほど、対話が必要になると思います。

 下山 あとは説明責任でつくる資料が増えていく一方なので、必要ではあると思いますが、取捨選択して減らすことも考えていかないと、勉強する時間も生まれないと思います。

 細田 それこそが働き方改革ですね。時間を減らせとかではなく。仕事のやり方を変えていくような議論が足りないと思います。ありがとうございました。
(2018年8月9日掲載)