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連載詳細

-分かっていますか?何が問題なのか- ㊵コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その2) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

はじめに

 私の連載は、自らが関連した事故や私の記憶に残っている重大事象を柱にし、毎月連載内容を絞り込む過程で仕入れた話題を入れ、読者の方々に役立つようにと執筆している。私の連載も今回で記念すべき40回を迎えることとなった。思い起こせば第1回目は、小林一輔先生が書かれた「コンクリート構造物の耐久性、コンクリート工学、Vol23、1985」から始まり、新設道路橋に発生した想定外(私は以前から指摘していたが)の変状を明らかにした。初回の趣旨は、どうしたらこのようなマイナス事象を無くすことができるのかについて、読者の皆さんに考えて頂こうと思いであった。さて、初回を含めて39回(正しく言えば、その前に鋼道路橋の防食について5回連載しているので、44回となるが)長き3年を超えて、専門技術者のあるべき姿、抱えている課題などを執筆し続けているが、私の連載を読まれている方々はどのように思い、感じているのであろうか? 私の意図する思いが正しく伝わっているのであろうか? 

 今回私は、自分の執筆した各連載を読み返してみて、まあなんと分かりにくい表現、粗悪な文章であったのかと反省しきりである。私の、お世辞でも褒められる文章とは言えない未熟な国語力への批判はさておき、私が連載している本旨が読者の方々に役立っているのかを改めて問いたい。私は、国内のインフラ関連技術者の問題点、抱えている課題を種々な場面を題材に、公正(私は官民中立的な立場で、可能な限り公正にと思ってはいるが、行政側の立場を崩していない、切り込んではいないとの話もある)・公平な技術者像を描き執筆しているつもりであるが、皆さん如何でしょうか? 私は、当連載をマネジメントしている井手迫記者の立場を思い測ると、「髙木さん、記事もマンネリ化しているようだし、そろそろ終わりにしましょうか!」と切り出したせないのでは、とも思っている。

 しかし、毎回執筆していて私が感じるのは、昨今、よくもまあ話題提供に値する事件や事故が起るな、との半ば諦め感で話題集めをしている。さて今回は、前回から始めた「鉄筋コンクリート橋の耐久性」の影響因子について説明する、それでは「その2」を提供しよう。いやその前に、読者の皆さんが期待している? 何時もの話題提供、連載36回で解説したJR西日本新幹線台車枠の亀裂発生中間報告が出されたので、その話を少ししよう。


1.新幹線台車破断事故調査報告からわかる技術力

 2018年(平成30年)6月28日(木曜日)の読売新聞朝刊に、国の運輸安全委員会から出された調査結果報告書に関する記事が載っていた。新聞の表題は、「のぞみ亀裂前日拡大」-運輸安全委圧力データ解析-である。亀裂発生の主原因は、以前の記事にもあった台車枠整形のために行われた作業ミス、人為的なヒューマンエラーが確定的となった。私が注目したのは、「製造元の川崎重工業で鋼材の削りすぎなど不適切な作業が行われていたために亀裂が発生、拡大したと推定。車両に残されたデータから、亀裂が発覚前日から拡大した可能性を指摘した。・・・運輸安全委の実験で、設計通りなら亀裂が底面の端に達するまで35年程度かかるが、薄ければ5年程度で到達することが判明し、同委は、削りすぎによる強度不足を指摘した。・・・」と書かれていた記事と「台車枠の亀裂と広がったメカニズム」の図解(図‐A参照)である。

 私はこの記事を読んで、供用中の主要幹線道路に架かる鋼道路橋に発生した重大な疲労亀裂発生事故を思い出した。重大な疲労亀裂とは、あってはならない主桁下フランジの突き合わせ継手溶接部を起点として発生、進展した事故である。当時の私は、鋼材の疲労亀裂についてほとんど知識もなく、あれやこれやと思い悩み、疲労の第一人者であった東京工業大学の三木教授(現東京都市大学学長、現在も立ち位置は変わらないが)に相談し、アドバイスを何度も受け何とか危機を乗り切った、私が技術者として大きく変革出来た重要な事象である。

 この事故については、本連載の第6回で詳細に解説しているので、時間があれば読み直すと理解が深まるのでお勧めしたい。あの時に行った桁破断事故の原因調査も、写真-1に示す破断した下フランジとウェブの破面調査を、三木教授から紹介された橘内教授(当時労働省試験所)に依頼し、溶接部の不良から発生した疲労損傷であることの確定と原因を明らかにした。その時、橘内教授から見せられたのが写真‐2に示す電子顕微鏡による破面調査結果、ストライエーションである。「これが切り取っていただいた部材のストライエーションです。疲労亀裂で破断に至った履歴が明白ですね」と橘内先生は話された。私にとっては、学生の時に見た鋼材断面のようで、恥ずかしながらどこが疲労亀裂なのかも全く分からなかった。破断した部材が熱処理した鋼材であったから、ストライエーション自体が複雑で分かりにかったのだ(破面調査を行っている技術者には、簡単に判別が出来ると聞いている)。私の不可解な表情を見て取った橘内先生は、分かり易い他の事例を参考に、写真の細部を丁寧に何度も指し。私が理解するまで説明してくれたことが記憶に残っている。その時の不勉強な私の反省からも、ここで何時も基本的な知識のおさらいをしよう。今回のテーマは、疲労破面調査である。

 一般的に金属疲労によって発生した破壊現象は、その破面を調査するとどこが亀裂発生の起点か、作用した力はどの程度か、どのように進展していったかが分かる。破断した破面の調査は、目視で確認できるビーチマークや電子顕微鏡を使って確認できるストライエーションなどで行う。図-1に示すようにビーチマークが容易に確認できる場合は、疲労破面(ある程度の時間軸で亀裂が進展する)と急速破面(一気に進む、脆性破壊や延性破壊など)を確認し、急速破面から疲労破面に向かって逆方向にビーチマーク(縞模様)をほぼ直角な方向にたどり、縞模様の間隔が細かくなり見え難くなった先が疲労亀裂発生の起点である(図‐1参照)。疲労亀裂の進展速度を明らかにするには、ストライエーション(Striation)を電子顕微鏡で調べ、縞模様(ストライエーション)の間隔を測ることで当該箇所の亀裂進展速度(応力拡大係数K値σ≒7√πa:応力集中による亀裂端の力学的厳しさを表す数値も分かる)が算出できる。今回の台車枠破断事故においても、台車枠がなぜ破断寸前となったかについて、その原因を明らかにするために、破面調査を行ったに違いないと私は考える。

 破面調査について、より細かく説明しよう。破面調査は、巨視的と微視的に分けられ、金属が破壊した時、破断面に破壊過程の履歴が残ることから、破面の特徴から破壊原因を推定するために行われる。破壊現象が疲労で生じたのか脆性的に生じたのかを判断する目的で行うのが、ルーペや顕微鏡を使って調査する巨視的調査である(図‐1参照)。一方、金属破面の特徴、亀裂発生の起点、作用力等をミクロ的に調べる微視的調査は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いるのが一般的である。疲労亀裂の発生・進展過程で確認される模様をビーチマーク(ハマグリなど貝殻表面の模様に似ているので名づけられた)と呼ぶ場合が多いが、決定打ではない。ビーチマークは、断続的に荷重の大きさが変化しながら破面進展する場合に発生するが、疲労現象は荷重が変化しない場合にも起こるので注意が必要である。そこで、疲労現象か否かを判定するのにつかわれるのが、先に示した走査型電子顕微鏡であり、疲労特有のストライエーションの調査である。

 図‐2に示した鋼材のストライエーションは、私が体験した主桁破断の微視的調査と比較すると明白で、亀裂進展速度Sを決定し易い事例と言える。ストライエーションの1つの縞模様は1荷重サイクルの亀裂進展量に対応し、ストライエーションの間隔は応力の大小によって変化している。私の推測ではあるが、JR西日本・新幹線台車枠に発生した亀裂は、亀裂が発生し破断しかかった破面を傷めないように抽出し、微視的(ミクロ的)破面調査を行ったことで、疲労亀裂であること、亀裂発生の起点、作用した応力値などを確定したのであろう。今回の分析で、設計基準通りの板厚(7㎜以上)であれば、疲労亀裂が発生しても台車枠底面に到達するまで35年程度かかるのが、4.7mmに削り込んだことで1/7の5年となることが明らかとなった。また、図‐1に示したように、亀裂発生場所も赤の矢印の先、溶接部であることが明らかとなった。いずれも破面調査が有効に機能したものと考える。

 さらに、車両の記録装置(種々データが集積、保存されている)のデータから、空気バネの圧力データの分析を行い、台車枠破断一歩手前で発見した日の前日の午後から台車枠に作用する荷重が減少し、車体のバランスが崩れていたとのコメントがあった。私が常々技術とは素晴らしいと感心しているのは、過去に起こった事象を工学的に分析することで、事象が起った原因や進展過程、過去から現在まで当該箇所に作用している力や変化する状況などが、事細かに分かるということである。話は全く違うが、警察が行う犯人探しもデータマイニング等の最新技術無くして進まない。今回の記事末尾の方には、「・・・データを常に監視すれば異変を早期に察知できる可能性があるとしている。・・・」とある。これは、我々が目指しているモニタリングの目的の一つであり、関連する技術者の尻を叩かれたような気がしてならない。ここで社会の明確なニーズが示されたからには、我々技術者の持つシーズによって課題解決するのが技術者本来の姿と私は考える。この世の中には、社会基盤施設に発生する事象に関して、星の数ほど分からないことがあると思う。これら分からないことには、役立つと思われること、役立ちそうもないことなど多種多様ではあるが、全てを解明することこそ技術者の使命である。真の技術者は、行動を起こす時、成果を期待してそれらを選別してはならないと私は思う。期待しよう、真の技術者が数多く輩出されることを。

 ここで、今回の報道について一言苦言を呈したい。新聞報道の文末に、「新幹線初の重大インシデントに認定した。」とある。インシデント(Incident)の表現を見て、どれだけ多くの人がこの言葉を理解できるのか疑問を持つと同時に、なぜ日本語を使わないのかと怒りを感じた。日本語で「緊急事態」と表した方が多くの人々に分かり易いのに、記事を書いた記者は英語をカタカナにして表現すればかっこ良いと思ったのであろう。新聞記者の皆さん、日本人が読むのだから可能な限り日本語を使い、日本語を大切にしましょうよ。このようなカタカナ表現ばかりが横行すると、国語を学ぶ子供が適切な日本語表現が出来なくなりますよ。私の経験からの持論と反省を述べる。私には出来なかったが、国語、現代国語をしっかり学び、読解力、表現力等を身に着けると、優れた学生となり、その後能力ある社会人に育つと著名な方が述べていた。私がもしも、国語や現代国語の能力に人一倍優れていたならば、世界的な偉大な学者となっていたかもしれない。ここらで私の戯言は終わりにして、それでは本題、鉄筋コンクリート道路橋の分析の説明に移るとしよう。