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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊳構造物の健全度評価と劣化予測 ―道路橋がまた落ちた!今度は現役の長大吊り橋だ―

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

1.長い鋼製吊り橋が河川に落ちた!

 現役の鋼製吊り橋が落ちた!! 我が国が、国を挙げて財政的、人的そして技術的な支援をしている、不屈の政治家アウンサンスーチーで有名な東南アジア、ミャンマーで起こった事故である。前回、私は話の始まりに米国・フロリダで建設中の歩道橋が落ちた事故を使ったが、今回のスタートも橋が落ちる、それも現役の橋が人の命を奪って崩落した事故の話をすることになるとは、技術者として情けなく、やるせない気持ちで一杯だ!

 これから話す落橋事故は、前回、私の記事がネットに掲載された4月1日(日曜日)の午前1時45分頃、図-1に位置するミャンマー南部のエイヤーワディ管区、ミャウンミャ(Myaungmya)で起こった。写真-1で明らかなように近代的な鋼製吊り橋であるミャウンミャ橋(写真-2/崩落後)が突然崩落したのだ。



図-1 ミャンマー・ミャウンミャのミャウンミャ橋位置図

写真-1 崩落前のマイアングロードのミャウンミャ橋


写真-2 崩落後のミャウンミャ橋右岸側主塔部分


 それも、橋上を走行していた16tのトラック車両(私も確認したが、ミャンマーでは一般的な荷台のある運搬用車両)と運転手を含む2人を巻き添えにし、ミャウンミャ川に落下した。崩落した道路橋は、地域の主要幹線道路であるマイアングロード(Myaung Rd.)がミャウンミャ川(地図上はYwe River表記)を跨ぐ、橋長387.1m(吊り橋区間:39.6+182.9+39.6=262.1m)のミャウンミャ橋である。

 ミャウンミャ橋は1994年に中華人民共和国の設計で架設され、供用開始は2年後の1996年3月27日、22年間使われてきた道路橋である。現地報道記事を読むと、ミャンマーには、ミャウンミャ橋を含め吊り橋が30橋あり、2年に1度の頻度で定期点検を行っているようだ。公開されている資料を確認すると、過去に行われた点検でミャウンミャ橋は、キャンバーの異常(中央部で1m下がっていた)や鋼部材の断面欠損(写真-3参照)、主ケーブルの著しい腐食(写真-4参照)等の重大な変状が報告されている。当然、ミャウンミャ橋の管理者は、先に示した点検結果等から車両走行時の安全確保には対策が必要と判断し、一昨年の2016年、昨年の2017年と2カ年に渡って修繕工事を行ったようだ。



写真-3 腐食で断面欠損した鋼部材/写真-4 腐食が著しい吊り橋主ケーブル


 修繕工事の内容は、デッキ、ナットおよびボルト、拡張ジョイント(伸縮部分)およびサスペンダーロッドなどの補修である。公開されている点検結果の資料が正しいとすれば、管理者の判断としては修繕工事を行ったことは適切といえる。それではなぜ、修繕したばかりのミャウンミャ橋は落ちたのであろうか?

 私が学んだ道路橋管理の原則は、『安全性が担保できなければ人や車両を通してはならない、周囲から何と言われても技術者として倫理観を持って決断しなければならない』である。この考え方・行動は、世界共通の道路管理者としての理念と私は理解している。私がこれまで行ってきた、数多くの修繕工事後の状態や再度対策が必要になった経験をもとに今回の事故について考えてみた。

 ミャウンミャ橋の場合、どう考えてみても補弱(実施する修繕工事の効果、工事による他の箇所への影響などを十分検討せずに安易に対策すると強くなるどころか、弱くなることが多々ある)となるような工事を行わない限り、16t程度のトラック走行、それも橋上で車両のすれ違いが困難な幅員の状況下(衝撃荷重による負荷は想定できない)で崩落するとは考え難い。もっと深読みすると、点検時に他の箇所の状態から想定できた変状について、修繕工事を行うことの難易度が高いと判断し、作業が容易な箇所のみに限って対策したとも考えられる。点検・診断を行った技術者、修繕工事の設計・施工を行った技術者、修繕工事完了後に成果を確認し、供用を決定した行政側の技術者、ここにあげた全ての技術者に過ちが無ければ、自然災害(地震やモンスーン等)でも絡まない限り落ちるはずがない。

 図-2に、私が構造物の点検・診断を説明する時に、いつも使用する流れ図を示したので読者の皆さんもよく見て、考えてほしい。



図-2 道路橋の定期点検・診断、詳細点検、対策等の流れ図


 点検・診断業務は、利用者や第三者の安全を確保するために行うのであって、それが疎かになるのであれば行う意味がない。どこの国とは言わないが、決まりだから、ルーチン作業だからなど、点検・診断の目的を理解せずに安易に行っていると、いずれ大きなしっぺ返しとなって帰ってくる。現地報道によれば、吊り橋構造の命、主ケーブルが床版を貫通し、アンカーレイジに定着している個所が著しい腐食によって破断、崩落したとのことだ。写真-5は、主塔からアンカーレイジに降下する主ケーブルが、取り付け部の歩道部を貫通している状況を示している。



写真-5 吊り橋取付部の床版を貫通する主ケーブル


 確かに、私の経験から判断すると、国内ではこのような詳細構造を採用している吊り橋は見たことも聞いたことも無い。この構造では、吊り橋の命ともいえる鋼製ケーブルに雨水や塵埃が溜まり易く、腐食し易い環境になるので、好ましい構造とはとても思えない。もう一度、写真-5の白色矢印の先を確認してほしい。ケーブル貫通部分周辺には滞水や植物の繁殖が確認でき、ミャウンミャ橋の維持管理レベルは良好ではなかったのだ。現地に行って確認したわけではないので推測ではあるが、貫通したケーブルがアンカーレイジに定着する箇所は、路面部と比較すると、より厳しい腐食環境であったと推定できる。  

 事故発生の起点となった主ケーブルは、南側(左岸側)アンカーレイジ下流側定着部付近(写真-5の側径間・鈑桁でコンクリート床版貫通部下直下付近)で破断し、全体崩落に至ったと聞いている。崩落直後に現場に行った技術者の話によると、南側主塔の先・中央径間の補剛桁は下流方向に分離して河川内に落下、破断した主ケーブルは緩み、分離して主塔(傾斜していた南側・左岸側)の横梁に巻き付いた状態であったとのことだ。200メートルに達する中央径間を支える吊り橋の主ケーブル張力を考えると、破断後の反動で巻き付く現象は納得の顛末であったと思う。

 吊り橋を設計・施工する場合は、メインの部材である死荷重張力が導入された放射線状のケーブル、吊り橋の剛性に寄与する補剛桁、ハンガーおよび定着構造、サグを持たせるために必要な主塔(ケーブルサドル部含む)、そして主ケーブルを支持地盤(岩盤やアンカーレイジ等)に固定する箇所(スプレーサドルなど含む)には十分な検討と配慮が必要であり、安全性、耐久性からも重要なポイントである。今回崩落事故の起点となったと想定した、主ケーブルをアンカーレイジに固定する部分は、確実な防食対策が必要なことは橋梁技術者の常識である。その理由は、湿潤環境になり易く、高強度な鋼材が引っ張り応力等を受けた状態で腐食すると腐食速度は加速し、一気に破壊に至る現象、応力腐食(Stress corrosion)となるからだ。

 写真-6の吊り橋は、ミャウンミャ橋より39年前の1955年に建設されているが、腐食環境を想定し直接ケーブルをアンカーレイジに固定せず、鋼製冶具を介する等の工夫がなされている。写真-7は、腐食程度の状態確認が容易な構造で、ラッピングされたケーブルは風通しも良く、鋼製冶具を含めしっかり防錆処理がなされている。



(左)写真-6 鋼吊り橋のアンカーレイジ状況:1955年建設

(右)写真-7 アンカーレイジ定着冶具に防食加工され固定されたケーブル


 いずれも、コンクリートに高強度鋼線を直接埋め込むリスク、雨水が滴下し、滞水するリスクを考慮したものだ。しかし、ミャウンミャ橋の崩落事故状況を見て、聞いて何か因縁めいた感じがする。それは、建設当初から約7インチ、ミャウンミャ川の流心方向に傾いていた南側主塔区域が崩落の起点となったのは、皮肉であった。今回の崩落事故で傾きが増した南側の主塔は、転倒する危険性回避の目的で緊急工事を実施したと聞いている。主原因は、調査報告書が公開されるまで分からないが、鋼材の腐食が一因となっていたことは断定できる。構造物の点検・診断が重要であることはお分かりと思うが、敢えてもう一度言おう。点検・診断は、点検時の状態、次回点検までの変状進捗度と構造物への影響度(安全性、使用性、耐久性)を考え、評価・診断するは常識だ。しかし、私のいうこの常識が分からない、通用しない技術者がまだまだ存在する。もしも、現地の報道が事実であり、私の推測した鋼材の腐食で橋が落ちたのであれば、ミャウンミャ橋に関係していた技術者の技術力と倫理観を疑いたい。

 ここで鋼材の腐食環境について、より詳細に考えてみよう。ミャンマーは、熱帯モンスーン気候で降雨量が年間3,000mm弱、最高気温平均32℃(90℉)と高温多湿であることから、鋼材の腐食環境としては厳しいといえる。それに加えて飛来塩分が多く、モンスーン襲来等を考えると鋼材の腐食速度は想定を超える可能性大だ。

 ミャンマーとは比較にはならないが、我が国の高温多湿地域の代表として沖縄・宮古島が頭に浮かぶ。種々な防錆対策を行った伊良部大橋の架かる宮古島は、年間降雨量が2,400㎜弱、最高気温29℃である。これが何を意味するかというと、鋼材の腐食は、鉄がイオン化する電気化学反応であることはお分かりと思うが、ファントホッフの規則(温度が10℃上昇すると反応速度は2倍となる)が成り立ち、相対湿度(50~60%を1.0とすると80~90%になると、5.47倍)や飛来塩分が高ければ腐食速度は我々の予測をはるかに超える。そのうえ、主ケーブルは引張強度および弾性係数が大きく、延び特性が良好な鋼線を束ねたものである。

 当然、先にも話したようにミャウンミャ橋の主ケーブルにも応力腐食が当てはまり、腐食速度が速くなることは、鋼に関係する技術者に理解が必要な最低限の知識である。写真-8は、国内の吊り橋主ケーブルの腐食による破断事例であるが、矢印の先が破断した鋼線の一部である。



写真-8 定着部において腐食で一部が破断したケーブル


 今回私がとても残念に思ったのは、行政側の責任者が事故後に、ミャウンミャ橋が建設時から主塔を含め問題(主塔が川側に7インチ傾斜していたなど)を抱えていたとか、昔の設計で点検が困難であったなどと言い訳めいた発言をしたことにある。ミャウンミャ橋崩落事故で亡くなられた方や遺族の方はこの発言を聞いてどう思ったのであろうか。人の命は尊い、技術者のヒューマンエラーで人の命を奪うことは、絶対避けなければならないことを肝に銘じてほしい。

 ここで導入編は終わりとして、いよいよ本題に移るとしよう。今回は、以前から予定していたコンクリート構造物の耐久性向上策の説明から、またまた執筆予定を変更して、ミャンマーの吊り橋崩落事故に絡む、構造物の劣化予測について説明することとした。その理由は、供用中の道路橋に対し点検・診断、劣化予測、措置を講じたにも関わらず、不幸にして道路橋が崩落したからである。