HOME連載一覧若手・中堅インハウスエンジニアの本音 ~技術系公務員におけるスペシャリストの必要性~

連載詳細

④~技術系公務員として設計業務を理解する力~

若手・中堅インハウスエンジニアの本音 ~技術系公務員におけるスペシャリストの必要性~

愛知県
西三河建設事務所
西尾支所建設課
渡邉 英 氏

(10)設計業務を理解する力を身に着けるには

 ここまで堤防の液状化対策における解析内容について、我々が実施した業務内容も含め紹介させていただいた。この分野に経験の少ない私が記載している、土質分野に詳しい方にとっては不十分な内容も多々あるかと思われるがご容赦いただきたい。ここで私が伝えたかった事は、各分野の解析内容を短期間で理解することは難しいということである。 

 もちろん分野が異なっても解析理論や手法について多くの共通点もある。例えば幾何学的非線形の話などは土の分野に限った話ではない。しかし鋼構造分野の解析に詳しい方でも、ここで紹介した過剰間隙水圧モデルについて短期間で理解することは難しいだろう。

 さらに、いうまでもなく解析≠設計である。設計は解析によらない経験によるところも多く、設計業務を理解するには各分野である程度の経験も必要である。


(11)なぜ技術系公務員に設計業務を理解する力が必要か

 ここまで読まれた方は「設計コンサルタントが行う業務の内容について、ここまで理解する必要あるのか?」と疑問に思われる方も少なくないと思う。しかし設計コンサルタントはあくまで発注者の業務の補助や支援する役割であり、事業を進める立場にあるのは発注者である公務員である。

 「まえがき」でも少し書いたが、生産革命などといわれるこの時代では、新技術の導入の提案に対しても、これまでの様な「国等での施工実績の有無」が中心の判断ではなく「既設計と比較し機能や性能等において同等以上」という視点での判断が求められる。そのためには、技術系公務員においても既設計の設計内容を理解する力が必要となる。


(13)今回の業務を通して感じたこと

 今回の業務は総括監督員、主任監督員、専任監督員と専任監督員の補助員の計4名で実施した。業務を担当した4名は、いずれもこれまで海岸の耐震補強業務を経験した職員はいなかった。実質の作業を進めた専任監督員と補助員は、この業務期間中(約9ヶ月)、それぞれ別に施工中の工事監督3本程度および新規発注のための工事積算5本程度の作業を他に担当していた。これは現場技術公務員の業務量としては、それほど多い業務量ではない。しかし、担当した4名とも今回の業務を実施する時点では「堤防の液状化対策とは何か?」からスタートするわけで、業務期間中は従来工法を踏襲した設計手法を理解し本設計区間において要求性能を満足する設計となっているかの確認を行うことで精一杯であった。

 もちろんどこまで突き詰めて検討するかにもよるが、県民は、より経済的で効果的な耐震対策を望んでいるわけで、例えば本業務の中で海岸のスペシャリスト的な職員がより深く検討を行っていれば、もしかしたらAir-des工法の様な新工法の採用も考えられたかもしれない。


(14)おわりに

 現在の公務員人事制度では、概ね2年から3年で移動するシステムとなっている。そのため、職員誰もが移動先でマニュアルに従い仕事をこなせる仕組みとなっており、そこでは量をこなせるマルチタスクな職員が望まれる。しかし、これからの時代は、維持管理や新技術導入など確立されたマニュアルのない時代となり、現在の人員とやり方ではその場しのぎの対応となってしまう。この状況を解決するには「設計業務を理解する力」を持つスペシャリスト的な職員の活用が必要不可欠である。今回は特に設計について書いたが、施工や予算などについても、同様にそれぞれのスペシャリストが必要と感じる。スペシャリスト的な職員を適材適所に配置できれば、業務を効率的に進められると同時に、業務の質も向上し生産性革命などの時代の要請に応えられる組織となるはずである。

 スペシャリストの育成には時間が必要である。現在、現場における技術系公務員の仕事の多くは積算作業であり、この積算は比較的単純な積算フローに従い機械的に処理するだけの作業である。近年ではソフト開発力が高まっているため、設計CAD図と数量計算データさえあれば、我々の指定した施工範囲や予算に応じて発注図面や数量、積算資料を自動作成できる時代も近いと思う。その様な積算システムの自動化を積極的に進め、そこで生まれる時間を利用し、スペシャリストの育成を進めることも考えられる。


-謝 辞-

解析事例の紹介では、基礎地盤コンサルタンツ(株)中部支社技術部の萩原協仁氏に資料の提供や記載内容の確認をいただいた。この場を借りてお礼を申し上げます。 


―参考文献―

1)一般財団法人 国土技術研究センター:河川堤防耐震対策緊急検討委員会資料 

2)戸田和秀、岡由剛、楠本操、水谷太作、西山輝樹、永尾直也、恩田邦彦:二重鋼矢板壁の津波作用時における構造評価,地盤工学会特別シンポジウム-東日本大震災を乗り越えて-,2014

3)吉見吉昭、福武毅芳:地盤液状化の物理と評価・対策技術,博報堂出版,2005

4)小堤治:液状化地盤上の地盤・構造物系の地震被害推定に関する数値解析法の研究,2013.12

5)森田年一、井合進、HanlongLiu、一井康二、佐藤幸博:港湾技研資料NO.869 

-液状化による構造物被害予測プログラムFLIPにおいて必要な各種パラメタの簡易設定法-,1997

6)井合進:液状化の二次元有効応力解析において破綻しない為の工夫をした一つのモデル,土木学会第43回年次学術講演会,昭和63年10月

7)伊藤忠テクノソリューションズ㈱ 科学・工学技術部 松浦敦:地盤解析事例紹介 実務者のための

非線形地盤構成則のご紹介 

8)一般社団法人FLIPコンソーシアム:FLIP ROSE プログラムの概要 2016年5月

9)稲垣紘史、井合進:地震時のケーソン岸壁の変形照査,海岸工学論文集第44巻,1997

10)曽根照人、小泉勝彦、浅田英幸、新川直利、藤井直、山浦昌之、岡村末対:空気注入不飽和化工法の開発その9:レベル2地震動に対する照査の一例,土木学会第67回年次学術講演会,平成24年