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連載詳細

④~技術系公務員として設計業務を理解する力~

若手・中堅インハウスエンジニアの本音 ~技術系公務員におけるスペシャリストの必要性~

愛知県
西三河建設事務所
西尾支所建設課
渡邉 英 氏

(1)はじめに

 前回、私は技術系公務員におけるスペシャリストの必要性について書かせていただいた。そこでは橋梁分野における維持管理方法や補修設計の難しさについて事例を挙げ紹介した。今回は「技術系公務員として設計業務を理解する力」と題し、皆様には馴染の薄い? 海岸の耐震設計事例を題材としここで書かせていただくこととした。

 技術系公務員の仕事内容としては予算管理、事業計画の策定、構造物設計、工事監督や積算業務、許認可等の審査に至るまで多岐にわたる。そのため、設計業務については業務委託している設計コンサルタントに任せておけば良いとの意見も耳にする。確かに、確立された技術基準に基づき構造物をどんどん建造していく時代であればそれで良いと思う。しかし近年は限られた予算や人員の中で効率的に事業を進めていくことが求められ、生産性革命に代表されるような新技術や新工法の導入などについても検討が必要な時代となっている。平成29年に改訂された道路橋示方書においても、多様な構造や新材料に対して的確な評価を行うための性能規定化が一層推進されており、技術系公務員としても設計業務を理解する力が必要と感じる

技術系公務員の立場で設計手法の理論やその背景までを理解することは、非常に難しい。ここでの「設計業務を理解する力」とは実務レベルでの話である。ただ、実務レベルといっても、どの分野においても専門性が非常に高く容易に理解することはできない。ここでは具体的な事例として、私が昨年度初めて担当した海岸堤防の耐震設計業務を事例として「理解することの難しさ」や「感じたこと」について紹介する。


(2)設計業務を理解するには・・・。

 現在では多くの設計解析ソフトの使用が必要不可欠となっている。この解析ソフトは近年の高度化により、巨大地震による被災なども視覚的に表現できるようになってきた。この視覚的効果は、設計業務における対策工法の比較検討や対策効果の検証を行う上でも非常に重要なツールとなっている。

 一方、解析ソフトには適用範囲や前提条件があり、これらを理解した上でないと解析結果の画像に踊らされ、誤った理解や判断をしてしまうことになる。設計業務を理解するには、使用する解析ソフトについても正しく理解しておく必要がある。


(3)海岸における被災事例

 はじめに地震における海岸堤防の被災事例について既往の文献1)から紹介する。東北地方太平洋沖地震では、東北地方から関東地方の広範囲にわたって河川堤防が被災し被災箇所は2000箇所を超えた。被災した堤防は、従来から被害の形態として想定されていた基礎地盤の液状化以外においても、堤体の液状化による被災も発生し沈下量が3mを超える様な箇所も確認されている(写真―1、写真―2)


(4)二重締切り鋼矢板工法

 堤防の液状化対策工法としては、サンドコンパクションパイル工法、浸透固化処理工法や鋼矢板を用いた工法などがある。

 写真-3は、東北地方太平洋沖地震時に構築中であった水門が津波により被災した時の写真である。既往の文献2)によれば「津波は矢板のはるか上空を越波し遡上した引き波の影響も受けたが二重締切り鋼矢板は健全な状態を維持していた」とされている。今回、紹介する愛知県西尾市の海岸においても、一般的な工法における経済比較や施工性等の検討から二重締切り鋼矢板工法による耐震対策(津波対策)を進めてきている。現在、施工している二重締切り鋼矢板工事の標準断面図を図―1に工事写真を写真-4、写真-5に示す。対策内容は非常にシンプルであり、堤防に二枚の鋼矢板を打設し頭部をタイロッドで拘束した上で、天端をコンクリートで被覆する構造である。



(5)海岸堤防の耐震設計における要求性能

 愛知県では海岸の耐震設計における基本的な考え方として「愛知県海岸保全施設の耐震対策設計方針・同解説」(愛知県建設部:平成28年7月)を作成している。この方針に基づき、設計業務における各地震時に対する要求性能を以下のとおり設定している。

◇レベル1地震動に対して

堤体の安定性が確保される。

・矢板の根入れ長、断面、タイ材断面、腹起し断面、および壁体に対するせん断変形破壊、滑動、地盤の支持力等の項目について照査する。

◇レベル2地震動※1に対して

被災後の堤防天端高が設計津波水位以上確保される。

・動的解析により堤体沈下量を算出し、L1津波※2高以上となることを照査する。

※1 レベル2地震動:道路橋示方書のタイプⅡ地震動および宝永、安政東海、安政南海、昭和東南海、昭和南海の5地震重ね合わせた地震動

※2 L1津波:5地震重ね合わせた地震動により発生する津波


(6)液状化とは

 事例紹介の前に、液状化について既往の文献3)4)から概説する。土の基本特性としては、粒子間に作用し合う力と間隙水の圧力とがある。土要素全体に作用する応力を全応力といい間隙水の圧力を間隙水圧と呼ぶ。全応力から間隙水圧を差し引いた応力が有効応力であり、この有効応力が減少し土がせん断強さを失う現象を液状化という(図-2)。この液状化現象について、東畑らが行った室内試験結果(図―4)によれば、過剰間隙水圧は単位体積の土になされたせん断仕事(図-3)の累積値と密接な関係があるとされている。


図ー2 有効応力、全応力、間隙水圧の図