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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊲鋼道路橋の耐久性向上(その4)~建設中の歩道橋崩落事故と腐食橋梁の耐荷力について~

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

1.道路占用を許可した歩道橋が落下! 行政技術者にも事故責任が及ぶかも?
 先月、米国フロリダ州の南端マイアミのFlorida International University(フロリダ国際大学・FIU)の北側を東西に走るSouthwest 8th Streetで考えられないような写真-1に示す事故が起こった。



写真-1 緊急補修中?に崩落した建設中の歩道橋


 事故は、建設中であった歩道橋が突然落下、落下したコンクリート桁の下敷きになった複数の車両に乗っていた方々が亡くなられたのだ。私にとっては、過去に起こった橋梁関連の事故について何度か米国に行き多数の技術者と面談調査したこともあって、我が身に降りかかった不測の事態と思えてならなかった。と同時にいつものように、なぜ建設中の橋が崩落したのか、米国流の徹底的な検証作業が始まるであろうと思い、私の会った関係者の顔が浮かんだ。
 今回の事故情報を、耳にし、目にして感じる視点が、私と本稿を読まれる読者の方々とはかなり違っているのではと思う。それは、私が行政技術者、それも道路管理者としての経験を視点とした見方をするからだ。今回の事故はSouthwest 8th Street、国道41号線上で発生し、大学(FIU)が工事発注した大学が所有者の横断歩道橋だからである。
 日本とは考え方に多少の違いはあるが、幹線国道(United States Route)を跨いで建設することは、道路管理者である州交通局への道路占用手続きが必要となる。ここで、道路占用手続きが分からない方に簡単に説明しよう。道路占用とは、公道(国、地方自治体等が管理する道路)に施設や物件を設置し、継続的に道路を使用することを指す。道路を占用する場合は、占用する施設、物件が道路の構造・交通に著しい支障を与えない、要するに安全を十分に確保できることが条件として付与され、道路管理者の許可が必要となる。ということは、今回事故を起こした歩道橋の設計・施工について、道路管理者側の技術者も内容を確認、安全で支障がないと判断し、占用を許可しているはずだ。米国の幹線道路を横断する民間所有の歩道橋と同様な事例が国内にも数多くある。私の経験した同様な事例を紹介すると、写真-2の横断歩道橋がその一つだ。



写真-2 民間企業が所有・管理する歩道橋


 写真-2の左上に位置する大型商業施設(店舗等)の建設に伴って、施設利用者の利便性を確保する目的で道路占用申請が出された、企業が所有する鋼製の歩道橋である。当然企業側から、道路占用手続きが提出された時は、その目的を厳しく問い、公正・公平の観点から検討、正当であれば占用を許可することになる。許可には当然技術審査が必要で、歩道橋の構造(上部構造、下部構造及び基礎)の安全性、耐久性を調査するだけでなく、建設時の架設工法や道路規制の方法等についても審査対象となる。これらはすべて行政側、管理者側の技術者があたり、許可願を提出した企業、設計会社及び施工会社から資料に基づいて聞き取り調査を行うのが一般的なのだ。
 ここに事例としてあげた当該歩道橋も、昇降形式に階段だけでなく、当時は稀であったエレベーターを設置条件として付与した忘れられない歩道橋である。このような占用許可側の審査経験もあったことから、崩落したFIUの歩道橋に関わった技術者は多数いると考え、その関係者は心が痛む毎日であろうと思っている。占用工事の説明を受け、占用許可した管理者側の技術者は、いずれ米国連邦政府や亡くなられた遺族から厳しい追及を受けることは必須で、同じ立場で業務を遂行してきた私は、今回担当した技術者の思いが痛いほど分かるのだ。たぶん担当技術者は、あの時にもっと厳しく調査、確認しておけばよかった、相手を信用しすぎた……と後悔していると思う。
 私の思いが分かる人は何人いるか不明だが、行政技術者にはこんな仕事もあることを知ってもらいたいと思い、私の経験も踏まえて紹介した。次は、事故発生と報道取材について少し話をしよう。


2.報道記者も大変だけど、解説する技術者も説明能力がないとね!
 しかし、なぜ毎年のように事故が起こるのか不思議だ。近年橋梁に関係する事故が起こると、高い確率で私に報道から声がかかり、新聞やテレビで解説する機会が増えた。私は東京都に勤務していた頃から、記者には協力的であったからか、記者から嫌われ、嫌な記事を書かれたことはほとんどない。
 我々が記者から取材を受けた場合、自分の話したすべてを記事にしてくれることはほとんどなく、読者や視聴者受けするように切り貼りされて記事となる。特に、テレビ放映される場合、生放送であれば黙秘や自分サイドの発言も可能だが、そうでなければ1時間を超える取材が5分弱になるのは当たり前なのだ。どの放送局でも同様であるが、記者は放送受けするような話に持っていきたがり、取材される側の真意が正しく報道されることは稀である。
 さらに、取材を受けていつも思うことは、放送局の記者は、想像以上に構造物に関する知識がなく(めったに話題にも上らないから当然か!)、我々が共通用語として使っている語句も内容もほとんど知らない。であるから、取材のスタートは担当記者の技術初等教育から始まる。構造物に関係する事故が起こった場合、記者との話は、まず事故を起こした構造の特徴を分かり易く説明し、相手を自分のテーブルに着かせなければ話は始まらない。
 具体的には、今回の場合、歩道橋設計の考え方、プレストレストコンクリートとは何かから説明が始まり、道路橋の構造、斜張橋、トラスまでたどり着くのに約1時間を要した。橋梁構造を相手が用意した紙上に手書きで何度も説明、本題の事故原因についてビデオを見ながら説明する時には、肝心の私が疲れ果てている。私が説明している時、記者達の頭の中は数分の放映時間内で、いかに視聴者を飽きさせずに、興味を持って見続けるかの処理がメインとなり、本質がオブラートで包まれ、中途半端な放送内容になることは多々ある。
 

 記者と私の意見が大きく違う場合もある。それは、彼らが取材した内容が未確認情報で、それをそのまま放映されると国内外に大きな影響があると自らが判断した場合だ。
 今回の建設中の歩道橋崩落事故で私を悩ませた問題があった。それは、米国で流行りの急速施工技術の話題である。私に事故原因説明を求める記者が、今回の建設工事に採用した急速施工が主原因であるかのように私を誘導し始めたことだ。私が、米国の急速施工技術、ABC工法を全く知らなければ同意したかもしれない。
 実は、私自身も供用中の道路橋を短時間で架け替える手法にはかなり興味があり、一夜にして道路橋を架け替えることが可能か不可能かを考えた時代が過去にあった。それは、予防保全型管理における橋長15m以下の道路橋の扱いを物理的寿命で判断するとし、寿命となった場合架け替えを行うと説明したからである。私の説明は、小橋梁の場合、一夜にして架け替えることが可能との説明を行ったが、計理担当者は「髙木さん、嘘でしょう! 豊臣秀吉の話ではあるまいし、信用できませんね。今まで仮橋を架けて、それから本橋を架け替えると説明していたじゃないですか。それが、一夜にして。もし本当の話であるなら、資料もらえますか? 主計に説明するので」と言われた。当然だ。
 首都東京の道路橋の架け替えは、通行止めは不可能だと説明、数年かかるのが常識と説明してきた本人が、一夜にして架け替え、嘘でしょう! と私も言いたくなる。「Kさん、一夜にして架け替えた事例ありますよ、アメリカに。それも、連邦政府が主体となってコンファレンスまで開催していますよ」と答え、資料を提出したのが昨日のことのように思い出した。
 実は今から10数年前、FHWA・ターナーフェアバンク研究所の知り合いの技術者、地震学者として著名な写真-3(私が、彼の所属する研究所で研究中の非破壊検査について説明を受けている状況)のW. Phillip Yen, Ph.D., P.E.から紹介され、是非、メリーランド州で行うコンファレンスに来ないかと誘われたことがあった。



写真-3 FHWAの技術者W. Phillip Yen, Ph.D., P.E.


 コンファレンスでは、一夜にして道路橋を架け替えるにはどのような技術と材料が必要かを議論するとのことであった。連邦政府と州DOT及び民間技術者が議論するこのようなコンファレンスは、米国内で星の数ほど開催されるが、そこで発表、議論された多くが後に種々な場面で機能し、活用される。残念なことではあるが、我が国にはない素晴らしい官民一体となった技術検討と成果活用の一面である。実は私が呼ばれたコンファレンスの成果が今日の米国ABC工法に繋がっている。
 米国で主流となりつつあるAccelerated Bridge Construction (ABC)工法について、私の知っている情報から説明しよう。端的に言えば、時間短縮建設工法であり、近年の技術開発によって部材等の工場製作、一括架設が可能になったことから生まれた考え方と言える。連邦政府の説明では、ABCは、革新的な計画、設計、材料、および建設方法を安全かつ費用対効果の高い方法で使用し、新橋の建設、供用中の橋を架け替え、リハビリする現場で使うとのことだ。ABC工法は、既存交通への影響を最小限にし、工事時間の短縮や気象条件による工程変更を抑える目的である。
 ABC工法を連邦政府の技術者が研究する背景は、60万を超える管理橋の四分の一が構造的に弱点のある橋梁で、可能な限り速やかに補修・補強及び架け替えを行うことが必要だからである。これは、米国のように数十年前から2年に一度の定期点検を義務付け、点検結果が一般に公開される状況下では、変状のある橋梁を放置できないからだ。速やかに既存の道路橋に措置を行うためには、一分一秒でも早く措置を終え、周辺への工事等の影響を少なくすることが技術者の使命であり、それを可能にする手法の一つがABC工法と考える。
 我が国の状況も米国と似通っている。法制度化された定期点検の結果、種々な社会基盤施設が変状を抱え、早期に何らかの措置を行わなければならない実態が明らかになりつつある。例えば、元の状態に戻す補修、要求性能までレベルを上げる補強、手遅れで寿命が尽きた状態で架け替える場合、必要となるのは、安全に、そして周囲の影響を受けにくく、短期で施工が完了する工法、例えば、米国のABC工法の採用が求められる。しかし、だからと言って多方面から検討、開発したABC工法が今回の事故主原因であるとは考えられない。私が誘導する記者に反論したのは言うまでもない。


 NHKからの取材が終わり、テレビで自分が話している解説を聞いているうちに、米国の技術者はどのように思っているのか確認したくなった。その理由は、写真-4に示すように、私は歩道橋の完成予想パースや移動台車で仮置きした状態が稀有ではなく、一般的な工法、状態と感じたからである。




写真-4 移動台車で架設直後の崩落前の歩道橋


 そこで、以前から親交のあるミネソタ州DOTの橋梁技術者(氏名は言えないが、所属はMetro North Region Bridge Engineer)と大学教授のCatherine French(CSE Distinguished Professor)に非常に迷惑な質問とは思ったが、事故について私感を述べた後、「I think that this accident is a Human Error. How do you think? I want to hear your opinion as Bridge engineer.」と意見を聞いた結果が以下である。
 ミネソタ州の橋梁技術者は、「I have not reviewed the findings of the collapse. I will get back to you. Figg designed several bridges in MN. It is a very complex design. I have been traveling and am in conferences in Florida this week. The general consensus in the bridge community is that without detailed review of the design and inspection we cannot speculate in the true cause.」。
 ミネソタ州にもフロリダ州で崩落事故を起こした設計会社Figgが設計した道路橋があるようだが、問題を抱えている状況でないと考えているようだ。さすがに行政側技術者であるからか、事故原因については立場上明言を避け、フロリダ州で開催されるコンファレンスで何か関連情報があれば私に提供してくれるそうだ。
 さて、一方Catherine French教授は、「A lot of information is not known yet. There was some good information that I read today online. Here is a link to the story:
http://www.miamiherald.com/news/local/community/miami-dade/west-miami-dade/article207358659.html
と自らのコメントを避け、現時点で詳細な情報を得ることができるサイトを紹介された。さらに、「I don't like to speculate without knowing key information. There seems to have been a potential issue associated with the stressing or loosening of the PT in the member that was stressed for transport. I do think it will likely come down to some type of human error, but I am unsure whether that is to be attributed to the designer, contractor, or field worker. If I hear of any further information, I will let you know.」であった。
 私が図々しいのか、相手が返答に困っていることも考えもせずに事故原因を聞くことは申し訳なかった。しかし、米国の技術者へのヒヤリングで分かることは、原因がはっきりしているのであればまだしも、不確かなことには細かいコメントはしない。私は、米国内で興味あることが起こると必ず、答えてくれそうな人にコンタクトをとる。いつも思うが、海外の技術者は皆親切で、会う機会の少ない私にも快く接触してくれるのにはとても感謝している。私も彼らのようにありたいと考える毎日だ。
 さて、フロリダ州マイアミで起こった建設中の横断歩道橋の事故原因について私のコメントは、米国の技術者と同様に不確かなことについては黙して語らず。ここでいつものトピック的な話題提供は終わりにし、以前から約束している既設橋、腐食した道路橋の耐荷力について、実橋の調査結果を含めて解説しよう。