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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊱鋼道路橋の耐久性向上(その3)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

3.基本を忘れたのか、分かっていて行ったのか、大きな疑問が残る

 鋼材の防食を目的とする塗装について、「ペンキだから」、「所詮、化粧でしょう」と話す技術者が多々いる。鋼材は、何らかの防食処理をしなければ腐食し、断面欠損となる基本的な考えを理解せず、防食塗装を軽んじる人によく出会う。


 私が今回層間剝離現象の起こった原因を究明するために行った、C橋の調査・分析した結論は、耐候性を確保する中・上塗り塗料(外面も内面も)の硬化剤が量的に不足していたことである。この原因は、担当技術者が2液混合の熱硬化性樹脂とはどのような塗料であるか、塗料として硬化し、安定した状態となるには何が必要かを理解せずに塗装作業を行ったことにある。そもそも塗料とは、樹脂と顔料が基本的な成分で、添加剤、硬化剤、溶剤や水などが一つになって成り立つ防食材料である。しかし、ここに示したと同様な塗料構成の基本を忘れる場面に出会うことがある。塗料に詳しい人であっても、ポリウレタン樹脂塗料は主剤がポリウレタン樹脂で、硬化剤は単にポリウレタン樹脂塗料の乾燥を助けるための添加剤と考えている人がいる。この考えには大きな誤りがある。鋼構造物に採用される塗料の乾燥方法は、おおきく分けて2種類あり、現在のA系塗料、合成樹脂調合ペイントは、塗料内の溶剤が蒸発して大気中の酸素と重合反応することによって硬化する塗料である。

 今回話題として提供した重防食塗装に使う塗料、ポリウレタン塗料は、ふっ素樹脂塗料以前のC系塗料として多数採用されている。ポリウレタン塗料、現在、道路橋の防食塗装として主に採用されているふっ素樹脂塗料は二つとも重合乾燥タイプである。いずれの塗料も樹脂、溶剤そして硬化剤等で構成され、溶剤が蒸発し、硬化剤と反応、最終形の完成塗膜となる。例えば、C橋に塗布されていたポリウレタン塗料の場合を考えよう。C橋のように硬化剤が不足した場合を考える。硬化剤の主成分であるイソシアネートが不足すると、全ての主剤がウレタン樹脂となることはできず、一部ポリオールのままの状態で残り、層間剥離等の欠陥を生む。ポリウレタン塗料としての性能を発揮させるためには、既定の比率で硬化剤を配合することが必要不可欠なのだ。C橋の層間剝離現象を詳細に調べた結果が他の層間剝離現象を起こしている橋梁、鋼構造物全てに当てはまるとは言い切れないが、その可能性は高い。

 橋梁の製作・架設工事において、先も話したように、塗装作業は付属的に扱われる場合が多々ある。その結果、塗装作業への十分な配慮を欠き塗装作業を軽視すると、これまで紹介した幾つかの事例と同様に、惨めな外観をさらす最悪の状態となる。硬化剤の不足について、ここまで悪質とは思いたくはないが、不良塗膜となることを承知して硬化剤の量をコントロールしていたのであれば、ことは重大だ。鋼桁製作・架設工事において、担当技術者が、塗料の塗付時間、養生時間の短縮を図らんがために基本を蔑にし、効率性や経済性を重視するような考えは最悪である。今回説明した層間剥離現象原因究明の結論は、新幹線台車の疲労亀裂事故と同様に、技術者が技術の基本を忘れ、マネジメントや経済性追求のみに走ると、大きなしっぺ返しを受ける結末となることである。私は最新のツールを使うことに反論はしないが、温かい血の通う技術者が現代社会にまだ必要であることを、忘れてはならないと考える。今活躍している多くの技術者、そして技術者を目指す若者は、このことを肝に銘じなければならないと強く言いたい。

(2018年4月1日掲載、次回は5月1日に掲載予定です)