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-分かっていますか?何が問題なのか- ㉟鋼道路橋の耐久性向上(その2)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.03.01

1)腐食原因の改善が比較的に容易な場合

 道路橋には、一般的に伸縮装置があり、主構造の伸縮、回転に必要な遊間を持っている。伸縮装置遊間の下には、排水形式であれば樋等の雨水排水装置を持ち、遊間から流れ落ちる雨水等を橋下に流すことが可能な構造となっている。①の伸縮装置からの漏水は、雨水や橋面洗浄水(凍結防止剤や塩水を含む)を完全に処理できていれば良いが、そうではない場合がこれに該当する。遊間下に設置してある排水装置の樋等が土砂、塵埃で埋まった場合や、樋自体が欠損した場合には排水性能が失われ、環境が著しく悪化する。
 また、写真-8に示すような非排水形式(遊間をシールゴム等で埋め、伸縮装置下に雨水が流下しない形式)であったとしても、遊間を埋めているシールゴムが劣化等で脱落したり、隙間が開いたりすると、雨水や路面清掃水などが流下、滞水し、腐食環境となる。


写真‐8 設置前の鋼製非排水型伸縮装置

 改善策として排水型伸縮装置の場合は、伸縮装置の交換を考えるのが常道で、鋼製であればゴム系伸縮装置(軽量型鋼製縦形式も含む)に交換することで非排水に改善され、漏水は容易に止めることができる。ゴム系伸縮装置は耐久性上問題があると判断し、工場製作の非排水型鋼製伸縮装置に拘る場合もある。しかし、私が同様な考え方で鋼製櫛型伸縮装置への交換を何度か行った経験から言わせてもらえば、製作費用が予想以上に高く、交換工事も大掛かりとなるので、お勧めはしない。
 鋼製非排水型伸縮装置で、遊間を埋めているシール材の処理が不良な場合は、比較的容易に改善できると考えがちだがこれまた簡易ではない。その理由は、伸縮装置櫛形フェースプレートの隙間をぬってその下に、シール材を注入する作業の難易度が非常に高いことが理由だ。より具体的に説明すると、シール材不良部分の再接着やシール材の再充填は、路面上から注入パイプを使った作業員の勘を頼った施工となるため、良い結果とならないからだ。腐食・防食とは話が異なるが、鋼製非排水型伸縮装置のシール材について話すとしよう。写真‐9に示したのは、鋼製櫛型伸縮装置(非排水型)のシール材が橋面上に飛び出した事例である。本事例は、飛び出したシール材の露出度が低かったために車両走行の支障とはなっていないが、これが重大な問題となる場合もある。


写真‐9 非排水型鋼製伸縮装置のシール材飛び出しが問題となる状況

 シールゴムの注入量を誤ると、温度が上昇する夏季に数センチメートルの高さで飛び出し、車両走行を妨げるので注意が必要である。話がそれたので元に戻そう。③の鉄筋コンクリート床版損傷部からの漏水は、床版自体の変状が原因でコンクリート床版にひび割れが発生、路面の雨水等がひび割れから鋼桁の上フランジに漏水し、腐食に至る現象が多い。写真‐10は、鉄筋コンクリート床版の損傷部からの漏水で鋼桁上フランジが著しく腐食した事例である。


写真‐10 コンクリート床版損傷部からの漏水で腐食した鋼部材

 写真‐10を見ればお分かりのように、放置すると上フランジをつたって垂直補剛材、下フランジ、そして支承までもが腐食する。改善策としては、コンクリート床版に発生したひび割れが原因であることから、床版の交換を行えばよいが施工時間や対策費用を考えると容易ではない。まずは、ひび割れに侵入する雨水を防ぐのを第一と考えれば、防水層を施工すると良い。しかし、防水層の施工も現在ある橋面舗装を切削し、防水層施工後に再度再舗装が必要となるので、床版打替えと比較すれば時間や費用的には優位ではあるが、それなりの準備がいることは間違いない。その際、防水層を塗布型、シート型等を選別するのは主構造の特性や施工時間等から決めればよいが、注意点は防水層が完璧に機能するように設計・施工することが必要で、水道(みずみち)を作らないようにすることである。
 桁下からの改善策として、ひび割れへの樹脂注入や表面被覆材で覆うことを推奨される方もいるが、期待したほどの効果が無いので止めたほうがよい。その理由は、コンクリート床版は想像以上にたわみ易く、ひび割れ内に微細な土粒子等が入りこんでいるので、注入する樹脂が完璧な状態とはならないからである。また、表面被覆材も写真‐10(張り出し部の劣化防止と橋面からの漏水を止めるために含浸タイプの劣化防止剤を施工。しかし、2年後にはコーナー部から遊離石灰析出)で明らかなように期待した効果が得られない事例が多い。
 ④の桁下が河川や運河の場合、河川面や運河面から桁下高さが十分とれていれば、鋼桁に飛沫があたるような状態とはならない。しかし、桁下空間が十分とれないような設計条件で架設した場合、飛沫が鋼部材にあたり、下フランジや部材に滞水する場合がある。このような場合の改善策としては、河川や運河を航行する船舶による波等を原因とする飛沫の影響を少なくし、多少の断面欠損を許容し高度な耐久性を発揮する塗料、例えば、化学繊維を抱き込んだマリン系防食材の採用や腐食が極めて少ない材料で覆うなどの対策が考えられる。いずれにしても、決め手と言えるような防食方法とは言えず、15m以下の桁下が殆どないような道路橋を数多く抱える現状をニーズと考え、これに相応しい新たな防食法の研究、開発が待たれる。
 私自身も、日頃から「技術者に必要なのは豊かな想像力である」と言っているので、日々考えてはいるがなかなか思いつかない。数年後に、私が巨大な富を得たとの情報が流れた場合は、これが正夢となって新たな防食法でパテントを取ったと思われたい。今、読んでおられる方々も是非、新規防食法想像競争に加わってもらいたいものだ。市場は無限大とは言わないが、限りなく大きい。
 ⑥の排水装置損傷部からの漏水は、排水装置損傷部を直ぐに補修することが必要で、放置すると最悪断面欠損することになる。分かっているとは思うが注意を喚起しておく。排水装置が破損するのは、樹脂系であれば紫外線等が原因でもろくなり、容易に破損する。また、鋼製の排水装置であっても、排水管に詰まった土砂や塵埃、ごみの重みや浚渫作業によって破損する事例が数多くある。
 写真‐11は、路面排水桝の固定が不完全であったのか、桝周辺からの漏水で著しく腐食した鋼床版デッキプレート及び縦リブである。さらに、路面排水を美観等から箱形状の桁内を通して横引き等している場合は、排水装置が破損したことに気が付かず、箱桁内から外面に流下する錆汁で事態を発見し、既に内面部材が断面欠損している事例が多々ある。


写真‐11 排水装置の損傷部からの漏水で腐食した鋼床版

 ここまで説明した①、③、④、⑥の4つは、私が腐食原因の改善が比較的容易と判断した場合で、これまで説明した改善策を表‐1に取り纏めたので参考にされたい。


表‐1 鋼道路橋の腐食原因と改善策一覧(改善可能)

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