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-分かっていますか?何が問題なのか- ㉟鋼道路橋の耐久性向上(その2)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.03.01

1.腐食と防食塗装

 鋼道路橋は、鋼部材を取り巻く環境物質との化学反応(電気化学反応)によって損耗する腐食は避けられない問題である。腐食は、大きく分けて乾食と湿食に分けられ、鋼道路橋は水分が関係する湿食に該当する。腐食は金属原子がイオン化することであるが、腐食速度は、気温、湿度、降水量などの気象因子と海塩粒子、亜硫酸ガスなどの汚染因子によって変化する。鋼橋の防食方法には採用事例の多い塗装のほか、被覆防食の亜鉛メッキや金属溶射、鋼材自体に防食機能を付加した耐候性鋼材等、湿度を下げる環境改善などがある。
 ここにあげたような防食方法を採用した道路橋が腐食する原因は、環境条件の変化、設計上の不備、材質の欠陥、防食手段の不適合などの予期していない事情や防食方法の耐久性に関する理解不足、要するにメンテナンス不足といえる。腐食と防食の詳細については、以前(3年前に遡るが)に表題『鋼橋を健全に保つために』を結びに使って連載した5回を再度見てもらいたい(*下記参照)
 今回は道路橋に採用事例が最も多い、塗料による鋼材表面を被覆する防食法、塗装について耐久性向上について考えみた。塗装された鋼構造物は、塗布された塗料が塗膜として健全に保たれ防食性能が満たされた状態においては腐食が生じないが、塗膜が劣化進行し、防食機能を失った状態のまま放置すると腐食は急速に進行する。ここでいう塗料とは、流動状態の液体であり、鋼材の表面に塗り広げて薄層を形成、その後固化して所定の機能(防食、保護、美観等)を果たす目的で開発された材料である。塗膜の耐久性は、塗布される塗料の良否、性能であるとお考えの方が多いと思うが、実は、塗装設計と塗布技術に依存している部分が多い。
 ここで、おさらいとなるが塗料、塗膜の耐久性について補足説明しよう。一般的に鋼道路橋の塗膜は、太陽光線のエネルギーや寒暖や湿度高低の繰り返しを受けることで、光沢が低下し、チョーキング(白亜化)現象や膨れ、割れ、さびを発生した後、自然はく離することで性能を失うことになる。防食性能を失った状態で発生する鋼材の腐食は、水、酸素と腐食性物質の有無が大きく影響することはお分かりと思う。ここにあげた三つの腐食因子の中でポイントは水で、水が無いと腐食しない。水が有ることで酸素が無くても水素発生によってカソード反応による腐食が起こることから、水の有無は腐食反応において重大因子である。ここに示した理由から、水をいかに遮断するかは塗膜の防食性を論じるときに重要となる。
 鉛系錆止め塗料にフタル酸系塗料を塗り重ねていた時代の塗膜は、水と酸素をかなり多く透過させるといわれていた。しかし近年、耐久性の高い防食塗料開発が進み、採用事例が多い重防食仕様の塗膜は、厚い膜厚の形成を特徴としていることからその結果、水分や酸素等に対し極めて高い遮断性能を有している。
 また、ここにあげた塗膜は、水、酸素が比較的短期間に透過する場合があったとしても、鋼部材の腐食反応を加速させる塩素イオンの透過は極めて困難といえる。塗膜耐久性を議論するとよく言われることの一つとして、塗膜耐久性を左右するのは塩素イオン、塩分があげられる。その理由は、塩分が付着した鋼材面にそのまま塗料を塗布すると塩分の吸水性のため、塗膜外面より必要以上に水分を取り込み、鋼材の素地及び塗膜層間おいて、膨れ、はく離、鋼材のさびなどの致命的状態となるからである。塩素イオンに関しても、防食設計の段階で防食性能の高い塗装系を選定さえすれば、塩素の侵入を皆無に近く制御できる塗料もある。
 しかし、簡単に結論づけることはできない。なぜならば、防食性能を十分発揮させるには、塗料の塗布、施工が重要なポイントであることを忘れてはならない。道路橋の塗料による防食法は、防食下地、下塗り、中塗り、上塗りと積層で成り立っている。塗装は、適正な状態で塗料を塗布した場合であれば十分な性能を発揮するが、各層間に不具合があると塗膜耐久性も著しく低下する。防食下地、ミストコート、下塗り、中塗りそして最後に上塗りを積層する施工法を取らずに、単一層のみで防食性能となる塗料があればベストではあるが、現状では困難と言わざるを得ない。現在鋼道路橋に採用している重防食塗装系C‐5・総厚250μmを、塗膜塗布及び養生環境が完璧な状況下で施工することは不可能に近い。その理由は、現場継手なしの1ブロック製品として現地架設できないからだ(写真‐7参照。長大橋で陸上輸送すると現場継手が多くなり不経済と判断、フローティングクレーンを使って一括架設した道路橋。しかし、写真に示すように現場継手を作らざるを得ない)。


写真‐7 海上輸送、フローティング架設した鋼部材の現場継手

 また、現行の塗装仕様の基本的な考え方、犠牲防食と環境遮断塗膜を積層する手法は、2つの異なったタイプの塗料を塗り重ねる必要がある。その他の理由としては、外観色彩を重視する道路橋には1層で先の理由も含め全てを満たすのは困難である。さらに、大きな問題がある。それは、施工管理が完全な状態で塗布した塗装が、道路橋が寿命を終える数百年も塗膜耐久性を持っているのであれば話しは別であるが、これまた不可能で、現在供用中の橋梁を含め、必ず現地塗り替え塗装が必要となる。私の願い、鋼道路橋に求められる塗料は、ある程度の施工不良も許容する材料で、塗布しやすく、光沢が長期間失われないスーパー塗料である。私の願いスーパー塗料の話は長くなるので別の機会にするとして、ここまでが塗料を塗布することで防食性能を確保する塗装の一般論を解説した。次に、すでに供用している道路橋の腐食、耐久性向上について説明するとしよう。

*過去の連載
新たに発刊した「道路橋防食便覧」のポイント
①塗装による防食技術
②耐候性鋼材と緻密なさび
③溶融亜鉛めっきによる防食
④金属被覆による防食・金属溶射
鋼橋を健全に保つために -効率的な防食サイクルの確保に向けて-

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