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-分かっていますか?何が問題なのか- ㉞鋼道路橋の耐久性向上(その1)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

はじめに

 酉年の年末から戌年の年頭に渡って、本来の技術論から少し離れ、技術者育成について私の考え方を述べた。専門技術者育成は、社会基盤施設の講演をすると質問される機会も多く、喫緊の課題と発言する方が多い。2回の連載を読んでいただいた方はお分かりと思うが、いずれの分野でも技術者を育てること、技術を継承すること、技術レベルを向上させることは至難の業と言わざるをえない。

 私が今回示した技術者育成プログラムの考え、手法は、多少システマティックではあるが技術者のスキル向上、部下のスキル保有やスキルレベル確認には十分参考になると自負している。是非、読者の方々は、私が2回に渡って連載したエキスを日々の業務、人事考課(勤務評定)や研修等に役立ててもらいたい。

 諺の『ローマは一日にして成らず』が当然技術者の育成にもあてはまる。多くの組織で取り組んでいる、落ちたスキルレベルを元の状態に戻す、それもICT(AI、電子機器等)が主流となった現状で、人間味のある温かい技術者育成の到達点は遥かかなたとも思えるが。しかし、技術者育成において「笛吹けど踊らず」「本人に自覚がない」など成果のあがらない言い訳は聞き飽きてはいる。私は遅きに失したとも感じるが、ここで本気になって取り組まなければ日本は確実に世界に置いていかれると確信している。頑張ろう、西暦が始まって以来33回目となる戊戌の成果となるよう。


 さて、今回からは、道路橋をターゲットに技術的な話を何回かに分けて提供しよう、私が技術者の端くれであることを読者の方々にお分かりいただくためにも。

 今回話題を提供するのは、道路橋、それも最近話題の少ない鋼製道路橋について耐久性の向上をテーマに話を進める。スタートは、供用している鋼道路橋に発生する変状の疲労亀裂、致命的な橋梁事故に繋がる可能性が高いと言われている亀裂が題材だ。読者の多くは分かっていると思うが、鋼部材の疲労を原因とする亀裂発生には危険度ランクがあり、全てが直ぐに危機的な状態になることは無い。しかし、だからといって軽視するのは『知らぬが仏』の世界だ。疲労亀裂を自分のスキルとするには、疲労環境、疲労亀裂、亀裂調査などを正しく理解することが必要である。そこで、まずは道路橋の疲労亀裂についておさらいをするとしよう。

 疲労亀裂を起こす疲労現象は、繰返し荷重を受ける構造物に発生する変状であり、構造物の耐久性を支配することもある。疲労現象は、構造物に自動車などの活荷重や風、雨などの外力が繰り返し作用することで、部材を繋ぐ溶接継手や腐食による断面欠損部等の応力集中部分に亀裂が発生・進展し、その後脆性破壊あるいは不安定破壊となることである。道路橋の疲労は、鋼材の降伏点を下回る荷重下であっても、力が繰返し作用することで延性ではなく鋼材が破断する現象である。

 昭和50年代までは、道路橋に繰り返し荷重が作用したとしても疲労亀裂は発生しない、発生するはずがないと信じ切っていた。しかし、道路橋の置かれている環境の変化や設計・製作技術の低下?などが原因となって、国内外において重大な疲労亀裂事故が多発し社会問題となった。日本においても疲労現象がもたらす課題の解決が必要との考え方が生まれ、疲労研究の第一人者である三木東京都市大学学長(留学先:リーハイ大学・ペンシルバニア州)や山田名誉教授(留学先:メリーランド大学・メリーランド州)などが米国の最新疲労技術を学び、国内に持ち帰った。その後、国内において疲労現象や疲労対策に関する研究、解析も進み、道路橋の設計・製作基準も大きく変わることになった。

 ここまで道路橋の疲労亀裂について概論として説明したが、供用している全ての道路橋に疲労亀裂が発生するわけではない。疲労亀裂発生を防ぐには、繰り返し作用する種々な力に対して十分に配慮し、設計、詳細構造の決定、製作を行うことが必要である。作用荷重が小さい場合には、設計の誤りや製作上の欠陥が無い限り疲労亀裂が発生する可能性は極めて低いことを認識することが重要で、いたずらに疲労亀裂発生の調査や対策を行うことは避けるのが好ましい。

 それでは、具体的に一般的な市街地の道路橋においてどのように疲労亀裂調査を進めることが適当であるかを説明しよう。例えば、既に何度か定期点検を行っていて、自らが管理する道路橋のいずれかに疲労を原因とする亀裂が発生する可能性が高いとした場合、如何にして疲労亀裂の点検計画を策定するか、どのようにそれを進めるかである。良くある話ではあるが、大型車の通行もほとんど無く、疲労が起こる可能性が皆無であるにも関わらず、どこかの書籍か講習会等で疲労亀裂について見聞きし、コンサルタントの提案でもあったのか、理解しないまま疲労亀裂調査を委託発注する事例がある。そのうえ、ご丁寧に載荷試験や応力頻度計測・解析も委託の中に含まれている。疲労に関して学びたいのは分かる。しかし、委託成果としての結論は発注前に決まっているのだ。当然報告書には、疲労亀裂はどこにも無い、実測応力範囲も疲労限界以下であり、疲労亀裂は重大な溶接欠陥でもない限り発生しないと記されることになる。

 逆の場合?もある。既に重大な疲労亀裂の存在を確認しているにも関わらず、亀裂が数多く存在していること、疲労亀裂が起こりやすい環境であることを隠すためか、持っている情報を一切外に出さない事例だ。これも困りもので、疲労環境にある道路の起終点が管理区域内であればまだよいが、道路網形成から考えればそうはいかない。想定を超えるような過積載車両が通行しているとすれば、当然該当するエリアの道路橋には疲労亀裂が発生する可能性が大といえる。

 道路橋の管理者として、情報があれば『転ばぬ先の杖』対策もできるが、無ければ『知らぬが仏』の世界となる。今まで何度も言ってはきたが、管理者の方々にお願いしたい。公衆が危険に曝されるような情報は、情報規制を掛けることなく外部に公開してくださいよ、公衆の福利のために。学協会の倫理規定に示しているでしょう、その趣旨が。それではいよいよ本題に移るとしよう。

 これから説明することは、私の経験を踏まえたもので、供用中の管理橋に幾つかの疲労亀裂を見てきた老婆心の考えであることを前提に、読んでいただきたい。