道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㉜機械遺産と技術者育成(その1)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.12.01

メンテナンスに必要な11の人材モデル

2)社会基盤施設のメンテナンス技術者の役割
 社会基盤施設のメンテナンスに関係する技術者について、まずは職種を示す人材モデルに分け、それぞれの職種内容、担当する仕事の内容、役割と責任について説明する。私が考える人材モデルは、メンテナンス業務を統括するアセットマネージャーから、修繕工事を自らが遂行する修繕工事担当者までの11に分類した。11の人材モデルの職種内容、仕事の内容及び役割と責任について表-1に示したので読者の皆様には大変であるかもしれないが、興味のある方は拡大して是非見てもらいたい。


表-1 人材モデルと職務内容及び役割と責任

 ここに分担して示した人材モデルは、インフラの関連する行政側、業務を請け負う民間側双方を考えて区分している。具体的には、①業務を統括、指示する立場のアセットマネージャー、②施設の現状を現地で確認する点検作業に責任者である点検責任者、③施設点検を現地で実務として行う点検員、④点検結果を基に、対象施設の健全度(損傷度)の診断作業の責任者である診断責任者、⑤施設点検結果を基に、現地を確認し、診断業務を自ら行う診断士、⑥施設の機能や性能維持を目的に行う維持工事の責任者である維持工事責任者、⑦維持管理工事発注における工種選定、維持工事の積算、契約業務を自らが行う維持工事担当者、⑧対象施設の変状が明らかとなり、失われた機能や性能を復元する補修工事、機能や性能の向上を目的とする補強工事などの修繕工事の責任ある立場である修繕(保全)設計責任者、⑨対象施設の修繕工事を外部設計委託、委託成果を確認、修繕工事の積算、発注業務を自ら行う修繕(保全)工事設計士、⑩修繕工事を管理者、発注者の立場で内容確認、工事を監理する修繕(保全)工事監督、及び発注された修繕工事を請負業者として責任を持って修繕工事を完了させ、成果とする請負業者側の監督、⑪修繕工事の工事進捗、工事進行段階での各ステップの確認、工事安全上の種々の指示、工事に関わる種々の調整業務等を自ら行う修繕(保全)工事担当者の11に区分し、それらに対応して細分化した説明を加えている。今回表-1に示した説明は、私がこれまでに行政機関の中で培ってきた業務経験を基に記述、取り纏めた内容であることから、メンテナンス業務に関連している技術者は是非参考にされたい。また、私の考えとは異なった視点をお持ちの方、取り纏め内容に異議のある方は是非ご意見を賜りたい。
 次に説明するのは、技術者に必要なスキル(技術)、技術者の能力(判断力、業務遂行能力、人事等管理力など)、必要な人材の求められるレベルを関連付ける連携図・図-2である。ここに示す連携図は、インフラ、特に道路橋の設計、施工、維持管理に必要な各人材モデルを、モデルごとに必要となるスキルを体系化するために必要な項目(設計、施工、維持管理等の技術)に分け、それぞれのスキルが人材モデル(職種)ごとに必要なスキルセットと達成レベルを示すキャリア基準、求められる機能する技術者育成を導く研修コースの教育項目と修得レベルを示す人材育成基準を関連付けている。この図は、私が次回、説明する人材育成・評価の核心を理解しやすいように関連付けたものなので、来月もう一度参照してもらいたい。
 連携図を見ればお分かりのように、該当する人材が対外的にも評価に値する適切なキャリアを持っているかを判別する基準、そして該当する人材キャリアに育てる研修ロードマップを定量的な「尺度」に基づいて作成する必要性のあることが見て取れる。実務での活用方法として一例を考えると、インフラのメンテナンス業務を統括し、業務遂行に必要な組織及び人材配置等の責任者は、図-2のスキル、キャリア、人材育成基準の連携図を参考に指導対象となる部下技術者のスキルレベルを診断し、その診断結果を基にスキル修得ニーズを明らかにして本人に示し、最終的に職務評価することになる。なお、ここに示した連携図は、近年住民参加型メンテナンスを実務に取り込み、職員不足の一手段として数多くの地域で取り組んでいる住民ボランティア・サポータ制度も視野に入れたキャリアフレームワークとなっている。


図-2 スキル、キャリア、人材育成基準の連携図(道路橋)

 今回は、私がある想定の基に形作った『インフラスキルスタンダード』(技術標準)のさわり部分である。次回は、技術者育成の本題、『インフラスキルスタンダード』の主たる部分となる人材モデル別の必要となる業務内容、技術者としての人事評価、業務評価につながるキャリアレベル定義、人材モデル別に求められるキャリアレベルを対比したキャリアフレームワーク、技術者評価につながるスキルレベルとその定義、技術者が修得しなければならないスキルカテゴリー(要素技術)、そして業務に必要な人材を育成する人材育成ロードマップについて、詳細に区分した表を示して解説するとしよう。
 なお、今回説明している『インフラスキルスタンダード』は、私のみの限られた技術力では足らず、民間企業で活躍されている優れた技術者として評価の高い三井住友建設の春日さん、エイト日本技術開発の椛木さん、元ショーボンド建設の樋野さん、学識経験者として著名な大阪市立大学の山口先生などの協力と助言によって取り纏まったスキルスタンダード(技術標準)であることから、この場をかりて感謝の意を表したい。それでは、次回をお楽しみに。(次回は平成30年正月に掲載予定です)

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