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-分かっていますか?何が問題なのか- ㉜機械遺産と技術者育成(その1)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

メンテナンス業務への実態に即した配慮必要

 仕事やスキルに対価を支払うビジネスモデルが必要

1.技術者の役割と育成

 技術者の役割と育成について説明する前段として、社会基盤施設のメンテナンスを対象とした人材(技術者)における業務とは何か、業務をこなすために必要な技術(スキル)は、技術者とは、そして機能する技術者育成について現状を整理し、技術者の役割、育成の基本的考え、その手段と具体的な方法を説明する。まずは、行政組織における技術者の現状を分析してみた。

1)行政組織における技術者の現状

 技術者の役割を業務面からみると、社会基盤施設の直接的管理者である行政機関においては、社会基盤施設全体を対象としてマクロ的なマネジメントを担う企画運営組織(国では本省、高速道路会社では本社、地方自治体では本庁、本局など)的な業務と、個別施設を対象にミクロ的なマネジメントを担う執行組織(国では地方整備局、高速道路会社では支社、地方自治体では建設事務所、地区事務所など)的な業務に区分される。

 ここに示すマクロ的およびミクロ的なマネジメントのいずれにおいても、高度な技術的検討や判断が必要となる業務は行政組織だけでは完結することは少なく、大学、高専や国、地方自治体等の研究機関、民間企業等と連携して、関連業務を適切に遂行している場合が多い。社会基盤施設に関連する職務分担と範囲は、国、高速道路会社、都道府県、市町村など組織の違いはあれ、表に出されている職務範囲や分担のみで判断すると、全国一律の標準的な仕様で進めれば容易であると感じる方も多いと思う。しかし、その実態は、先に示した管理する組織によって財政状況、管理施設の現状や量的な差異だけではなく、職員数や技術者レベルの違いから考え方、その時々の判断基準や執行方法も異なっているのが現状だ。

 国内外の社会基盤施設のメンテナンスは、増加し続ける高齢化施設の量と右肩下がりの財源などの理由から、適切な措置を行うために必要な費用は右肩上がり、そのため修繕・更新費用の平準化やコスト縮減が喫緊の課題となっている。更新しなければならない施設であっても無い袖は振れない状態での通行止め等を回避し、更新時期の先送りをするために長寿命化が必要となる。その結果、過去に取り組んだことのない新たなメンテナンス業務が生まれ、それらを適切に執行することができる技術者、高度なメンテナンススキルが求められことになった。

 しかし、安全・安心を実感する適切なメンテナンスの遂行を望む社会情勢とは異なり、財政当局は、メンテナンスに関連する予算規模の増大に対して建設事業とは異なって、厳しく査定する場合が多い。その理由は、新たに施設を建設する業務と比較するとメンテナンスは投資効果が見えにくく、予算要求する側の説明もお世辞にも理論的とは言えないことからか、正しく業務の必要性を評価されることは少ない。多くの人々が時代はメンテナンス社会到来と言ってはいるが、予算配分や保全計画を見る限り、健全な社会基盤施設の確保を考えると非常に厳しい現実がある。

 次に、現在行われている種々なメンテナンス、維持工事や修繕工事の契約金額と内訳を調べてみると、建設工事との違いが明らかとなる。メンテナンスに支払われる費用は、メンテナンスに必要な高度なスキルに対するものとしての対価ではなく、実際に投じられる材料や人工(にんく)の量をベースとして算出されている。メンテナンスを行うことは、メンテナンス特有の少量、点在性、悪条件等に対して積算等への配慮が必要となるが、旧態然とした考え方が主を占め、実態に対応した配慮がなされていないのが大きな課題となっている。これは、建設工事の付帯工事的な考え方が主流となっている過去の慣習をベースにした考えが多くを占め、優れた仕事やスキルに対価を支払うビジネスモデルになっていないためといえる。


管理している施設の諸元や現状を社会に公開

 外部のプロに解析などしてもらい行政技術者が理解する

 メンテナンススキルの面から考えてみると、一つの地方自治体内での処理を想定すると現在の井の中の蛙的な範囲の状態では情報収集にも限界があり、高度なスキルが求められる業務の適切な処理は困難といえる。解決策として、施設を管理している行政サイドが持っている社会基盤に関係する情報、例えば、管理している施設の諸元、変状データや健全度データなどを社会に公開し、それを外部のプロフェッショナル・エンジニアが工学的に分析・判断し、提言する仕組みとし、行政技術者は、提言された内容を正しく理解できるスキルを修得する手法も考えられる。

 見方を変えて近年のメンテナンス業界の動きをみると、社会がメンテナンス重視の時代へと移行していることから、メンテナンスに関する技術革新や材料開発を進めており、それらを正しく評価し、適切に選択、採用する高度な技術を持つ行政技術者の育成が喫緊の課題ともいえる。しかし現状は、社会基盤施設のメンテナンス領域に関する人材育成に目を向けると、全体を見渡し、まとまった形で必要なメンテナンススキルを整理、細分化して解説した資料や書籍が少ないのが現実である。

 一方、社会基盤施設の管理・運営を担当する行政技術職員の実態は、一般的に3年から4年程度の短期間で異動する組織が多く、管理者、発注者としてのメンテナンスに関連するスキルを深く修得することが難しい。このような状況では、メンテナンス業務の流れや課題に関する資料として国等から公開されている資料はあるものの、最も必要なメンテナンススキルや技術者育成に関する資料がほとんどないのが現状である。特に、メンテナンスに関係する人材が不足している地方自治体では、固有職員の才能や保有する技術力で異動を判断することは少なく、本人の希望とは関係なく横断的に職場異動する事例が多い。本来は、種々の社会基盤施設固有のメンテナンススキルを明確にした上で、適切な人材配置を行う人材管理がなされることが今まさに必要だと考えるが如何か。

 メンテナンスに関連する人材育成について考えると、都道府県のように組織としてメンテナンス業務に関わる人材育成計画が明確となっている場合は、内部研修制度にメンテナンスに関わる研修が盛り込まれている場合もあるが、技術職員が少ない地方自治体(市町村)においては、人材育成としてメンテナンスに関わるスキル修得は研修専門組織に送り込むOff-JTが仕組みとしてはあるが、多くは研修経費や研修拘束時間などから敬遠され、継続的に人材を研修に送り込む体制には程遠い状態である。そこで止むを得ず、実務研修を行える人材がほとんどいない体制でのOJTを行っている場合が多く、十分な成果達成が期待できない職員研修制度が実情だ。

 ここで示した技術者研修団体としては、一般財団法人全国建設研修センター、東北大学、岐阜大学、九州大学や長崎大学等があり、公開されているカリキュラムを見ると種々なメンテナンス研修が設定されている。しかし、繰り返しとなるが、いずれも研修に要する費用が多額なこと、実施時期も限定されていることなどから、メンテナンススキルを学びたい人材の多くが容易に受講できない状況といえる。

 大学における教育制度を見てみると、メンテナンスに関係する講義を組み込む大学は少なく、教育カリキュラムも座学が基本となっていることから、現場の状況を目で見て、耳で聞き、肌で感じるメンテナンス業務の実態に適合した教育となっておらず、学部教育の中でメンテナンスに携わる人材を育成することは極めて困難と言わざるを得ない。さらに、教育機関で使われている教本についても、机上の空論的な部分が多く、卒業生が即戦力とはなかなかなり得ない場合が多い。『今すぐメンテナンスに舵を切れ!メンテナンス時代の到来!……』と国の示した掛け声は素晴らしいが、これから社会に出る学生にとってメンテナンスの必要性を理解はするが、一般社会のメンテナンス技術者や業界に対する低い評価に将来に不安があると感じ、当該部門への就職に二の足を踏んでいるのが現実である。


暗黙知をどのように次代に継承するか

 私を育てた時代の土木技術者は、スキルの伝達に職人気質の「見て覚える」という傾向があり、技術継承の論理的な仕組みが確立されてはいなかったといえる。そのような状況下で、現役を退いたOBやOGにメンテナンス業務の指導等を依頼する組織も多々あるが、そもそも、先にも示した「目で見て覚える」でスキル修得をしていた技術者が、自らが持つ暗黙知を正しく表現できない限り、優れた指導者になることは容易ではない。さらに、メンテナンスを実務として請け負う側である民間企業も、まだまだ建設中心の考え方が多く、メンテナンスに本腰を入れて取り組んでいる企業がほとんどないのが現実なのだ。このような中途半端な考え方では当然、大企業の技術者の多くは、メンテナンスに対して後ろ向きとなり、メンテナンス人材を主とするような体制づくりができないのも当たり前といえる。

 近年、点検は近接目視点検が主流となりつつあるが、定期点検した結果を見る限り、まだまだ現状を正しく点検・診断した成果とはなっておらず、未完成の資料を基にメンテナンス設計・施工を行なっている事例が多い。さらに、メンテナンス業務を発注する行政側がコンサルタント会社の対策提案に関して、対策の妥当性判断に関して理解をしないまま受身で行う場合が多い。その結果、対象施設の工事を積算して発注し、工事に着手した段階で、設計・積算内容との乖離が大きく、大幅な設計変更を余儀なくされる事例が後を絶たない。

 要するに、施設を新設する場合は、何もないところに設計・施工することから当然現場における内容の乖離は小さいのが当たり前であるが、メンテナンスの場合は、供用中の施設であること、個別施設ごとのオーダーメイドであること、対策設計が現況を正しく反映した調査結果を基になされた設計でないことなどから、乖離が大きく、大幅な変更を行わざるを得ない。しかし、設計変更を行うにも、変更理由が事前調査不足では発注組織内では説明が成り立たず、変更したくても変更決済が進まず、変更を諦めるような理不尽な状態が現実となっている。

 このような厳しいメンテナンス社会が仕組みや組織的な面で大きく改善されることを熱望して、機能する技術者の役割と育成について、詳細に図表を使って説明することとする。