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シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉒

トンネル覆工コンクリートの凍害対策

岩手大学
理工学部システム創成工学科
社会基盤・環境コース
准教授
小山田 哲也 氏

新区界トンネルでの実験的研究

 実験を開始する前に実験室レベルからトンネルの施工までのハードルを整理した。与えられた条件は、高炉セメントを使用したコンクリートである。実験室においてスケーリング抑制効果があったのは、普通ポルトランドセメントを使用したモルタルであり、施工性も含めて、コンクリートにランクアップしなければならない。特に連行空気の最適混入量を確定する必要があったが、空気量6%以上のコンクリートを見たことがなかった。また空気量がJISの範囲を超えるコンクリートを工場で練り混ぜ、現場に運搬できるかを確認する必要があった。そこで1回目の室内実験と実機実験を実施した。

 1回目の室内実験では、コンクリートの空気量の最適値を検討した。使用材料は実際に出荷する工場のものであり、水セメント比はその生コン工場の実績によって56%とした。単位水量を固定し、フレッシュコンクリートのスランプをAE減水剤により調整した。混和剤により耐凍害性が相違する可能性があったため、メーカーの異なる3種類のAE減水剤を比較した。空気量の不足分はAE助剤で補った。結果を図-3に示す。いずれのメーカーの場合も、最もスケーリング抵抗性が高いのは、フレッシュコンクリートの空気量が7%であり、JIS規格外であったが、空気量の目標を7%と決定した。

 1回目の実機試験では、空気量7%のコンクリートの製造性や運搬性、施工による空気量の変化を確認した。工場での練混ぜやアジテータ車で40分程度の搬送で材料分離等の不具合は見られなかった。圧送や締固めなどの工程による空気量の変化を図-4に示す。工場出荷時から現場までの搬送で、空気量は増加した。実際の施工に見立てたポンプ圧送では、空気量は1~2%低下した。コンクリートに圧力をかけることにより、ペットボトルに封入された炭酸水のように気泡が水に溶解することが主因と考えた。その後の振動締固めでは、ほとんど空気量の変化はなかった。コンクリートを上部から採取しており、振動によって上部に浮揚した空気も混在するため、振動による空気量の低下を判断するに至っていない。

 2回目の室内実験、実機実験では連行空気の損失を抑制するため、水セメント比、単位水量、細骨材率に着目して、配合修正を行った。空気量を多くすることにより、強度が低下すること、連行空気のボールベアリング効果により、流動性が高まることにより、水セメント比および単位水量を小さくできる。また細骨材率が大きい程、コンクリートの粘性が高まり、硬化後の空気量は多く残存することがそれぞれの実験で分かった。ただし、細骨材率の最適値を見定める実験が必要と考え、3回目の実験に着手した。

 3回目の室内実験では、細骨材率を6水準に変化させて最適値を得ようとした。客観的評価が必要であると考え、高流動コンクリートの充てん性の評価に用いるU型充てん試験機を採用した。この試験結果は粘性の評価には極めて有効であり、細骨材率3水準を選定して実機試験を行った。実機試験では施工の上で最適な細骨材率の選定を行い、配合を1つに絞り込んだ。


 1回目の室内実験から3回目の実機実験までの期間は1年であった。計画に半年を擁しており、限界の期限であった。特に6回すべての実験で、スケーリング促進試験を実施しており、通常1か月の養生で、2か月半のスケーリング抵抗性の評価ではこの期限に収まらず、スケーリング試験の途中経過を報告しながらあるいは空気量のみの確認を行いながらの自転車操業であった。この間、東北地方整備局道路部、岩手河川国道事務所、東北技術事務所、鹿島建設、岩手県生コンクリート工業組合と連絡を密にし、実験結果をもとに方向性を確定していった。


耐凍害対策コンクリートの現場施工

 このようなコンクリートを打ち込むのは初めての経験であった。一般のスランプ15㎝のコンクリートと比較して細骨材率が大きいため粘性が高いが、空気量が大きいため、俗に表現するとフワフワしており、振動締固め等の打込みの難しさがあった。また連行空気を残したいため、バイブレータによる加振の程度が掴みにくい。さらに天端部への吹上げが困難であった。この教訓を生かして、2回目以降の打込みではスランプ18㎝のコンクリートに設計変更をして、順調に打込みを行った。両坑口で全18回の打込みが行われたが、筆者はその内の12回に参加し、自分自身でも初めての覆工コンクリートの打込みを経験した。打込みの窓からコンクリートが見えない狭隘なスペースでの打込みに対する、真摯な作業に心を奪われた。


実コンクリートの耐凍害性

 作業に慣れてきた3回目の打込みでは、圧送後のコンクリートを採取して供試体を作製し、空気量の測定および凍結融解試験を行った。空気量の低下は想定の範囲内であり、養生後に開始したスケーリング促進試験の結果は、図-5に示すように目標としたスケーリング量0.3㎏/m2を下回り、良好な耐凍害性を示した。また硬化後には透気・透水係数の測定および空気量の現地測定を行った。空気量は大きいものの透気・透水係数は同等あるいはそれ以下であり、水セメント比を小さくした成果が表れた。また硬化後の空気量は、対策しないコンクリートに対して2%程度大きくなっており、確実にコンクリートに混合されたことが分かった。



他の覆工コンクリートへの展開

 以上のように設定空気量を大きくしたコンクリートの配合設計方法や施工方法に関する知見が短期間に凝集され、区界地域で施工される他の覆工コンクリートに対しても展開を図った。生コン工場が異なり、材料や設備が異なるため、配合設計は1からのスタートであったが、試練りから凍結融解試験も含め、6か月間で現場で使用する配合を決定でき、3つのトンネルに適用された。


現場コンクリートの耐凍害性

 岩手県内の復興道路や復興支援道路で使用されるコンクリートは、山間部を通過する路線が多く、凍結防止剤を多く散布することが予想され、現状よりスケーリング抵抗性が深刻化する可能性もあった。また同時期に数多くの構造物が施工されたこともコンクリート自体を見直すきっかけとなった。耐凍害性の確保は、コンクリートの緻密性と空気量が支配的要因となる。土木構造物のレベルの水セメント比であれば、空気量の確保は不可欠であることを今回の実践で改めて痛感した。前述の通り、現状発生しているコンクリートの凍害は内部ひび割れとスケーリングに大別できる。凍結防止剤が散布されることによって助長されるスケーリングは、内部ひび割れより連行空気量を多くすべきであると筆者は考えている。

 これらの知見は、東北地方整備局が2017年3月に施行した「東北地方における凍害抑制のための参考資料(案)」にも包含された。本稿も含め、これから耐凍害対策に取り組む多くの方々の参考になれば幸いである。

 空気量についてはJIS規格を逸脱することへの抵抗感が大きく、多くの質問や意見を受ける。岩手県山間部などの特に厳しい寒冷環境では、5-10年で凍害が発生して維持管理を余儀なくされるケースが少なくない。当然、他の劣化要因についても十分に考慮すべきであるが、凍害を抑制することが一義的に長寿命化につながる。このような思想は発注者の側の十分な理解が必要不可欠であり、そのための啓蒙も重要であると考えている。コンクリート構造物を次世代に受け継ぐために、それぞれの立場でベストを尽くしたい。


シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」

㉑東北地方整備局編最終回 より早くより良い復興道路を造る

⑳福島河川国道編②「ひと現場ひと工夫(気づき)」を大事に

⑲福島河川国道編① 南三陸での成功事例を糧に桑折高架橋の施工に挑む

⑱南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「義務感」と「責任感」

⑰南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「対話」の重要性

⑯南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「お手伝い」から主要メンバーへ

⑮南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 高品質のトンネルを実現するには