HOME連載一覧トンネル覆工コンクリートの凍害対策

連載詳細

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉒

トンネル覆工コンクリートの凍害対策

岩手大学
理工学部システム創成工学科
社会基盤・環境コース
准教授
小山田 哲也 氏

研究への着手

 筆者は岩手県で生まれ育った。積雪寒冷地域であり、冬場の道路凍結期間にはスパイクタイヤの装着が当たり前で、春先には路肩に舗装からの剥離物が溜まっていた。平成4年にスパイクタイヤが規制になると聞いた。粉塵の影響が無くなる半面、物理的なスパイクを失った自動車は安全なのだろうかと友人と話したことを覚えている。不要になったスパイクのピンが、滑り止め合格祈願のお守りとして配られていたことを記憶している。

 岩手大学に着任したのが平成15年である。すでに岩手県内では、道路の縁石などのコンクリート二次製品にスケーリングが顕在化していた。その当時から表面劣化であるスケーリングは凍害劣化の1つとして認識されていたが、美観の問題であり、組織が弛緩する内部ひび割れとは問題の大きさが異なるとの認識が一般的であった。

 海外の文献からスケーリング現象は、海岸構造物をはじめ凍結防止剤の散布地域で起こることが分かった。交通安全のために散布される凍結防止剤がスケーリングを助長するとすれば、地域的に重要な課題と考え、研究を開始した。


研究の初期

 大学での研究ではまずスケーリングの発生条件に着手した。セメントの種類や配合、表面塗布剤の影響を整理しながら、メカニズムを考えた。スケーリングは様々なメカニズムが混在して発生するものと考えられているが、筆者はもっと単純な現象であると考えている。この話は他稿に譲る。発生条件を検討する一方で、抑制策の検討も進めた。海外では、スケーリングは、内部ひび割れとは異なるメカニズムで発生するとの考え方が主流になりつつあった。残念ながら、日本ではあまり認知されていないのが現状であると思われる。ただし連行空気の混入により内部ひび割れが格段に抑制できる一方で、スケーリングも抑えられ、被害がそれ程顕在化していなかったため、問題視されてこなかった。

 岩手県内など日本の積雪寒冷地域では現在、縁石や壁高欄などの道路浮体構造物のスケーリングが深刻化し、壁高欄などでは、鉄筋からの錆汁も顕在化している。また寒冷地の道路橋床版の土砂化についてもスケーリングが要因であることに疑いはない。このような事例を目の当たりにするほど、この劣化を抑制したいと考えた。


微細空気の必要性

 研究を続けていく上で、貴重なデータが得られた。AE剤の種類と添加量による劣化の傾向について学生から報告を受けていた時のことである。図-1のように、モルタルで実験したスケーリング劣化の傾向を見ると、AE剤の添加量を多くするほど劣化が少なく、フレッシュコンクリートの空気量に換算すると、6%以上とした場合に最も効果が高くなった。また特定のAE剤を使用すると、スケーリング劣化がほとんど発生しないことが確認できた。容易に理解できなかった筆者は学生にしつこく詰め寄ったのを今となっては反省している。この後、特定のAE剤を使用した場合のメリットは微細な空気を混入できることも突き止めた。


復興支援道路への着手

 この現象について、日本大学の岩城一郎教授に興味を持って頂き、2013年11月29日に当時東北地方整備局道路課長であった佐藤和徳氏とお会いする機会を得て、岩手大学の羽原俊祐教授と局の会議室に向かった。折しも復興支援道路と別称する宮古盛岡横断道路の建設が始まっており、この路線は、国内でも有数の寒冷地で凍害危険度4ある区界高原を通過する。その際に佐藤氏から提示された図-2に示す写真は、国道106号で1975年に供用された現在も供用中の区界トンネルのものであり、坑口には剥離・剥落が大きく発生し、補修しているものの母材は再劣化しており、今後も劣化し続けるであろうと予想された。


 佐藤氏は、「復興道路・復興支援道路も合わせて、新規トンネルは100本以上が建設される。同時期に同思想で建設された構造物の劣化発生の社会的影響が懸念される。特に区界の山間部には今後数本のトンネルが計画されており、その1本目となる新区界トンネルで凍害対策を実践してほしい。対策は覆工コンクリートの坑口から100mの区間で、2015年10月には打込みを始めたい。」と我々に伝えた。2年弱で何ができるか責任の大きさに身震いしたが、佐藤氏は「今できることをやりたい。やらないより対策を講じた結果として、それでも駄目だったと考えた方が良い。」との話を頂いた。その場でスケーリング対策に全力を挙げることに決めた。