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-分かっていますか?何が問題なのか- ㉚『メンテナンスの扉』が開きましたか?

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター 上席研究員
髙木 千太郎 氏

はじめに

 最近講演を依頼されると必ず話すことがある。それは、橋梁管理の基本的な考え方についてだ。その理由は、管理者や関連する多くの人々が当たり前のように知っているはずの維持管理を、全く理解していない状況や事象に出くわす機会が増えたからだ。私の気持ちとしては、『メンテナンス元年』、『今すぐ メンテナンスに舵を切れ!』そして『予防保全型管理への転換』とくれば、維持管理の実態は大きく改善されたと考えるのが普通である。確かにメンテナンスの重要性を認識しかかったのかもしれないが、現実はかなり差異がでてきた。そこで、私の拙い経験をもとに、機会あるごとに直近で得た事例を基に自分としては結構分かり易く、そしてポイントを外さずに維持管理の重要性に関する話をしているし、理解も得たと思っていた。聞いている人の反応は「そんな当たり前のこと言うなよ」状態が見て取れる場合が多く、現場主義の維持管理(メンテナンス)が結構浸透してきたと勝手に思い込んでいた。特に、行政の長たる人々が『現場主義』を唱える機会を多く耳(部下のほとんどは幹部交代のたびにこの言葉を聞かされ、『耳にタコ』状態であろうと思うが)にし、地方自治体の職員の多くは少なくとも現場には行ってはいるよなと思ってもいた。

 講演が終わった後に聴講者と話す機会があると、私としては当然のように「現在の貴方の組織の管理方法は? まさか放置型管理にはなっていいませんよね!」と参加者に問いかけてみる。「放置型管理、今時そんな管理方法やっていません。予防保全型管理主流の時代、自分の部署には少なくとも“放置型管理でも問題ない。事故は起こるはずがない”と思っている技術者はいません」とか、「髙木さんの言う対症療法型管理から、今まさに予防保全型管理への転換を図りつつあり、実績もあがっています」と力強い答えが返ってくる場面が多い。私がなぜ機会あるたびに管理方法について事細かに話すのか、あえて注意を喚起しようとするのか、その真意を分かっていない状況に良く出くわす。それではなぜ、私が維持管理を理解していない事象を目にするかである。私の目が厳しいのではない、実際に業務を行う人々が分かっていない維持管理の本質を。今年の夏、私が残念だと感じた維持管理現場の現状を間近に見て、これからの日本が進む道が的を得ているのか本当に心配になってきた。心配性の私であるからそのように感じたのかもしれないが、違っていたら恐ろしい。そこで、今回は施設の管理と抱えている問題点について私が感じていることを話そう。まずは、私がいつも話している橋梁の管理方法について説明する。


橋梁の管理方法は3つに大別

 危うい『知らぬが仏』型メンテナンス

1.橋梁管理の種類と特徴

1.1 放置型管理

 私は橋梁の管理方法には、①放置型管理、②対症療法型管理、③予防保全型管理の3種類に大別されると考える。第一の放置型管理について道路橋を事例としてあげると、架け替え主体型管理といえる。放置型管理は国内の多くの地方自治体が行っていた管理方法で(実は今でも多くの地方自治体が放置型管理に該当すると私は理解しているが)建設した後、永久橋として建設したのだから維持管理は必要ないと考え違いしている場合がこれに当たる。鋼橋であれば最低限必要な塗装の塗り替え、コンクリート橋であればひび割れから遊離石灰、鉄筋腐食が起こっていても何ら対策を行うことが無い管理を指している。見たくもない、知りたくもないのだ発生している変状を。このようなことから、放置型管理を『知らぬが仏』型メンテナンスと言い換えてもいる。

 図-1を見てほしい。図の左側は私が管理者に求めているリスクに対する基本的な考え方で、事故発生率の高い『危険領域』と概ね安全といえる『安全領域』の中間、グレーゾーンまで瑕疵となる事故が起こるのではと常に心配する、言い換えれば、対象構造物や措置には完璧は無いと判断して変状に繋がるような事象全てを潰すタイプの考え方である。一方図の右側は、『二者択一型』、それも安全とするエリアが多くを占め、事故発生確率が極めて高い危険ゾーンまで「自分の管理している橋梁は安全だ、余所で起こっているのは稀有な事例、自分には当てはまらない、当てはまるはずがない」と決め込む、極めて管理者としては不適切な考えといえる。ここに該当する考え方が放置型管理を決め込んだ管理者となる。

 写真-1に示す道路橋は、道路上からは橋梁の位置が分かりづらく、生い茂る草を掻き分けて側面に回り込まない限り変状を確認することは困難な状況が見て取れる。道路を日々利用している人々には、橋梁があることすら分からない。しかし、普通では見ることすら出来ない構造物を近接して確認してみると、構造体として重要なコンクリート壁はせん断クラック、床版の主鉄筋は破断状態であった。果たして、この状況を管理者として『枕を高くして寝る』と言い切れる状態なのであろうか? ここで説明した放置型管理の事例は最悪で稀な事例であり、聴講者がはっきり分からないとその危険性を正しく理解しないので説明用に使っているが。私が本当に言いたいことは、放置型管理ではないと決め込んでいる人も自分の身の回りを見回さないと分かるはずがない。この事例ほどではないが、似通った状態となっている構造物が多いからだ。私が放置型管理で示した『知らぬが仏』の真意が分かりましたか読者の皆さん、貴方の組織はこのような状態にはなっていませんよね! まさか。