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連載詳細

②愛知県の地方機関における橋梁現場担当の現状

若手・中堅インハウスエンジニアの本音 ~技術系公務員におけるスペシャリストの必要性~

愛知県西三河建設事務所
西尾支所建設課
渡邉 英 氏

 はじめに

 前回「マネジメントしつつ専門的知見を得ていくために」という項目で投稿された愛知県建設部の宮川洋一氏から「橋梁分野を長くやっている人」ということでご指名を受け、今回「技術系公務員におけるスペシャリストの必要性」という題目で投稿させていただくこととした。

 宮川氏の投稿で愛知県の橋梁を担当する職員の現状や仕事内容、熱い思いなどは皆様に十分伝わったと感じたため、私は少し具体的に「技術系公務員のスペシャリストの必要性」というタイトルで話をさせて頂きたいと思う。スペシャリストとは「特定分野について深い知識や優れた技術をもった人」という意味で、対極はゼネラリスト「広範な分野の知識・技術・経験を持つ人」である。そもそも技術系公務員は、公務員の中では建設のスペシャリストの部類に入ると思うが、これから述べるスペシャリストとは、建設分野をさらに細分化した特定分野、たとえば道路や河川、下水道などの特定分野について深い知識と経験を持つ人を指している。

 全体としては、技術系公務員であっても県庁勤務となれば議会対応や予算要望、各種調整など広範囲な業務を抱えるため、幅広い知識を持ったゼネラリストが適任と思う。一方、現場勤務となると現場ごとの個別の問題に向き合うことが中心となるが、近年注目されている維持管理業務をはじめ、問題の技術的な難易度は高い。この問題解決のため、周りの同僚や先輩、後輩も含め相談相手を探すのだが、スペシャリスト的な人間は非常に少なく、人材確保の必要性を強く感じている。

 

上層部が考える技術系公務員に求められているもの

 簡単な自己紹介まで。私は愛知県に入って20年程である。最初の5年間は下水道、その後15年を道路分野で、今年度から海岸を担当している。道路分野の中でも橋梁分野が12年と長く、どちらかといえばスペシャリスト側の人間だと思う。愛知県の上層部と話す機会があるたび必ず言われることがある。ゼネラリストとしての活躍だ。幅広い分野を経験し仕事に活かせと言われる。以下は、ある上司から私への人事評価コメントである。

「橋梁に興味がありその分野の専門性を高めることは重要であるが、今後は指導監督的立場としての活躍が期待されていることから、もっと広い分野にも積極的にチャレンジして欲しい」

 先にも述べたが、もちろんゼネラリストの人材は必要で公務員としての幅広い活躍の場がある。ただ、技術系公務員全員をゼネラリストにする必要はない。道路に限った話ではなく、特定の分野におけるスペシャリストは今まさに、切に望まれており今後重要性を増す時代が迫っている。


なぜ技術系公務員にスペシャリストが必要なのか?

 なぜ今、技術系公務員にスペシャリストが必要か。「維持管理時代への対応」のためだ。技術系公務員は各分野(道路や河川、下水道など……)の計画や建設を行うと同時にそれぞれの施設管理を担当している。長寿命化修繕計画により予防保全を行い、修繕工事の平準化といわれているが、地方自治体で長寿命化修繕工事として行っているものは、ほとんど事後保全といっても良い。

 例えば、近年、私が補修設計もしくは補修工事を担当した橋の損傷写真を写真-1~写真-3に、現在補修している海岸の損傷状況を写真-4に示す。



(左)写真-1 鋼桁の桁端部腐食(見合橋) (右)写真-2 鋼箱桁の添接部腐食(城海津跨線橋)


(左)写真-3 ラーメン橋脚梁部損傷(衣浦大橋) (右)写真-4 岸壁鋼矢板の腐食(一色漁港)


 このように著しい損傷が生じた後に補修を行っているのが実態である。道路橋では図-1に示すとおり建設後50年を経過した橋梁の割合は飛躍的に伸びていく予測となっている。一方、元請完成工事高(公共の土木工事)の統計調査によると、維持修繕割合は増えているものの工事費ベースではほぼ横ばいである(図-2)。



(左)図-1 建設後50年以上経過する道路橋の割合 ※国土交通省HPより

(右)図-2 元請完成工事高(公共・土木工事)の推移 ※国土交通省「建設工事施工統計調査」より


 つまり、これらから急速に高齢化する社会資本に対して、十分な予防保全への投資が行われているとは言い難い。今後、社会資本のストック量および高齢化がこれからますます進む中、同時に買った家電製品のように一斉に不具合が出てくる可能性もある。このような時代を迎えるにあたり、スペシャリストとしての技術系公務員の必要性・重要性はますます大きくなっていると感じる。維持管理というのは、技術的に非常に難しい分野だからである。


維持管理の難しさ

 ここからは、私が感じている維持管理の難しさについて、昨年度まで担当していた橋梁分野を取り上げ、事例も踏まえ少し紹介したい。私が感じる維持管理業務において難しいと感じた点は、①補修の優先度の決め方 ②補修・補強設計の方法 ③架け替え時期の判断の3点だ。 

①補修の優先度の決め方について

 例えば、橋梁定期点検結果において主桁の腐食と床版のひび割れの損傷程度の評価が同一の2つの橋があったとする。限られた予算の中でどちらを優先に補修していくのかといった判断が生じる。判断するためには、2つの橋の重要度や交通量の把握等、一般的事項の把握も必要となるが、それ以外にも各損傷の劣化速度や損傷部材の役割(FCM部材:崩壊危険部材かどうか)等、より専門的な事項も判断材料とする必要がある。

②補修・補強設計について

 補修設計が必要な橋の建設年次はバラバラである。そのため設計基準も使用された材料も異なる。補修とは「損傷した構造物を元の状態まで戻す」ことであるが、建設当時と現在では交通実態も変化しており、補強も含めてどこまで対策を行うか判断する必要がある。また、補修・補強設計は、損傷部材や補強部材、補強・補修方法がそれぞれの橋ごとに異なるため、設計にあたっては解析手法や評価方法が確立されているわけではないので、新設の設計基準などを用いて個別に検討する必要がある。

③架け替え時期の検討について

 補修対応か架け替えかの議論をする場合、必ずと言っていいほど「そもそも橋の耐用年数は?」という話になる。改訂される道路橋示方書において設計供用期間としては「100年を標準」と明記されるようだが、改訂される示方書に基づいて建設された橋も必ず100年で架け替えるわけではないだろう。よく架け替えについて「LCCで比較して」という人もいるが、橋の耐用年数などは管理手法に大きく依存するため、正確な予測は不可能だと思う。この辺りはむしろ、耐用年数というより道路や河川などの将来計画との整合がひとつの判断材料となるかも知れない。

 以上、私が感じる維持管理の難しさについて書いた。当たり前であるが、損傷は時間とともに進行する。③はともかく①と②については、スペシャリスト的な人材に検討させることで、より短期間で望ましい判断が可能となると思う。