道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㉗遊具が壊れ子供が落ちた! 管理責任を問われるのか? その1

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.07.01

1.どちらの安全を優先するのが適切でしょうか?

 河川や鉄道を跨ぐ橋梁には、車道と歩道の縦断勾配の違いから取り付け部で構造が異なる事例が多い。ここにあげたような場合、歩道昇降形式が古くは、写真-1のような階段形式を採用するのが一般的であった。その後、時代は移り変わり、経済性よりも利便性を追求するようになると、人に優しい施設づくりの考え方が主流となっていった。
 今回のこれから話す事例、一般橋梁の昇降形式も、評判の悪かった階段から、斜路付き階段、階段と傾斜路併設、機械式昇降施設併設の時代へと移り変わっていった。ここで、図-1を参照して横断歩道橋や橋梁の昇降方法のおさらいをしてほしい。

 この昇降方法の流れには、写真-2のような階段、写真-3のような傾斜路、機械式昇降施設はあるが、今回予想もしなかった事故が起こった斜路付き階段がないので説明しよう。ここで言う斜路付き階段の斜路とは、車いすやベビーチェアーが斜路を使う考えではない。自転車を担いで階段を登り降りするのは困難であることから、その課題を解消し、昇降施設の用地取得面積を少なくする妥協案として考えられたのが、自転車を押して歩行できるような平面を持つ構造、斜路付き階段なのだ(写真-4参照)。


 現在採用される昇降形式は、バリアフリーの観点から階段のみや先の斜路付き階段は少なく、エスカレータやエレベータの機械式昇降施設か、傾斜路を設置するのが一般的である。階段の勾配は、50%程度が一般的で蹴上げ高が15㎝、踏み幅が30㎝、問題の斜路付き階段の勾配は、25%程度、傾斜路の場合、縦断勾配は5%以下が一般的で、止むを得ない場合は8%以下とすると規定されている。
 ここで今回取り上げるのは、斜路付き階段に発生した事故の話だ。傾斜路であれば、グランドレベルから5m上がるのに長さが100m程度必要となり、自転車で利用する場合、勾配の緩さと上り下りの延長を考えると乗車したままの利用者が多い。しかし、斜路付き階段となると、自転車を押して上り下りすることを基本として建設しているが、利用者の中には踏み幅が狭く、急な坂路になっているにも拘らず、アクロバットのように自転車に乗ったまま利用する人も中にはいる。私も、斜路付き階段の下り勾配斜路を脱兎のごとく走り抜ける利用者を見る機会が度々あり、事故が起きなければいいと思っていた。しかし、嫌な予感は的中するもので、その矢先に死亡事故が起こってしまった。

 事故は、写真-5で示す斜路付き階段が桁下で直角に曲がる箇所で起こった。橋の上に繋がる階段を、下から登って踊り場に差し掛かった女子学生に、橋の上から降りてきた自転車が出合い頭に衝突、女子学生は転倒し亡くなられたのだ。それまでは、斜路付き階段の直線部には自転車に乗ったまま上り下りできないように鋼製の支柱や柵、通称『いじわるバー』を設置する場合が多かった。
 しかし、死亡事故が起こった橋梁の昇降施設は、坂路の距離も短いし、降りきるまでに2度直角に折れ曲がるような構造となっている。さらに供用開始してかなりの年月が経過してから追加設置した箇所でもある。当時斜路付き階段か傾斜路とするかの議論はあったが、桁下用地がないこともあって斜路付き階段を採用した。『いじわるバー』の設置については、坂路が短く直角に曲がっていることから事故発生の可能性は低いと判断されたことや、利用者からの苦情が多くなるとの予測もあり、所轄警察との協議を経て見送りとなった。
 不幸にも、試行錯誤したその箇所で死亡事故は起こってしまった。事故が起これば当然、所轄警察の態度は急変。すべてが施設管理者の責任との風向きとなった。それ以降、現場には、注意喚起の看板と写真-6や写真-7で示すような『いじわるバー』を設置した。

 斜路付き階段や傾斜路で自転車の利用者が多い箇所には、降り口に写真-8に示すようなカーブミラーを取り付け、衝突防止対策も行っている。しかし、この『いじわるバー』は評判が悪く、雨の時に傘を差して歩いていてぶつかって転倒したとか、車いすやベビーチェアーが使えないなどの苦情がたえないので全体構造を含め改善の必要性は今でも感じている。

 ここで紹介した事故と同様の事故が平面道路でも起こっている。普通では考えられないような遊歩道における自転車の転倒事故である。親水河川に沿うように設けた遊歩道のセンター部分に鋼製の支柱『いじわるバー』を数本設置したところ、日も暮れかかった夕刻、自転車が『いじわるバー』に接触して転倒、傷害事件に発展した。
 私も仕えたことがある上司が管理瑕疵を問う裁判に被告人として何度も出廷し、管理瑕疵を争った事案である。裁判となった現場は、当初遊歩道でもあり、緩やかな勾配ではあるが、のんびりと散策することを目的とした歩行者道であることから、歩行の障害となるような施設は一切設けないとの趣旨であった。だれが見ても、潤いを実感するような緑豊かな歩行者空間であった。
 しかし、マナーの悪い自転車に乗った利用者がスピードを上げて走行する状態が目につくようになり、歩行者との接触事故が多発。結果的に改善策として『いじわるバー』を設置することにしたと聞いている。

  写真-9はタイプも場所も違うものだが、自転車高速走行を防止するために3本互い違いに同位置に『いじわるバー』を設置したところ事故が起こり、傷害事件となったのだ。つくづく管理者の立場、安全管理の難しさを考える事例である。
 もっとも、道路施設を利用する人々や自転車・自動車利用者のマナーが良ければこのような『いじわるバー』設置の必要性もないのだが。読者の方々は、昇降施設に設置してある『いじわるバー』を見てどう思われますか? どちらの安全を重視すべきでしょうか?
 海外の道路、遊歩道、散策用の通路、人道橋等には、このような『いじわるバー』が設置してある事例を目にすることはほとんどない。写真-10は、英国・ロンドンのテムズ川に架かる著名なミレニアムブリッジ(Millennium Footbridge)の左岸側の入り口部分である。見てお分かりのように、歩行を手助けする手摺はあっても『いじわるバー』にあたるような物は一切ない。
 当然、ミレニアムブリッジの上り口には、写真-11のような施設管理者が設置した注意看板があり、利用者はこれを守るのが当然の義務と理解し、ルールを守れない人はほとんどいないのが実態だ。なぜ、日本の道路には、『いじわるバー』など歩行障害となる、そして景観にも好ましくない施設があるのか不思議に思っている渡航者が数多くいると思う。変えましょうよ、真のマナー重視の国へ。
 さて、次にこれまた予想もしていなかった遊具に関する事故と事故原因調査について2回に分けてお話ししよう。その1は、事故が起こった遊具の管理者からの依頼経緯とその後の調査概要についてである。

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