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劣化対策技術の劣化対策技術

水の供給によるコンクリート構造物表面被覆材の剥がれ防止に向けて

国立研究開発法人土木研究所 
寒地土木研究所 
耐寒材料チーム 主任研究員
遠藤 裕丈 氏

■施工性検証のための試験施工

 前章で述べたように、シランを活用した表面被覆材剥がれ防止技術について、室内実験では一定の効果が確認されたことから、現場で実施するための試験施工を行いました。剥がれ防止の効果を確認するためには相当の期間を要するため、本稿では施工性の確認結果をご紹介します。


 試験施工は、北海道豊頃町に立地する道路橋のRC床版で行いました。この橋は1983年9月に架設された橋長984m、幅員8.5mの鋼橋で内陸部に位置し、冬期の最低気温は-25℃近くまで下がることもあり、冬期は凍結防止剤の散布が行われています。

 ここでは、床版防水層未施工の道路橋においてジョイントから水平方向20cmの範囲に塩化物イオンが多く浸透していた既往の調査結果[5]を参考に、ジョイントから30cmまでの範囲に、床版での実績を有し[6]、床版防水に対し所要の性能を有する[7]ウレタンを適用し、さらにその下面への水の侵入を防ぐためのシランをウレタン端部のコンクリート(ジョイント部)に塗布しました。


 図-9は試験施工の流れです。この試験施工は、夕方までに基層と仮舗装スロープの施工を終え、交通開放を行うことが条件となっています。施工の手順は以下の通りです。

(1)はじめに、既設舗装を切削・撤去してジョイント近傍の脆弱な床版をはつり取り、その範囲をコンクリート(ジェットセメント使用)で補修します。

(2)ジョイントから30cmの範囲にウレタンを施工します。なお、選定したウレタンの可使時間(材料を混合してからの使用可能な時間)は35分、初期硬化時間(次の工程を開始できる時間)は5時間です。

(3)ウレタンの施工から4時間後にシランをウレタン端部近傍のジョイントコンクリートに塗布します。

(4)シランを塗布してから1時間後に基層と仮舗装スロープを施工します。その際、シランの揮発を抑え、コンクリートへのシランの含浸を促進させるための養生シートをシラン塗布面に貼り付けます。

(5)数日後に仮舗装スロープと養生シートを撤去して、表層を施工します。


 この橋には、ジョイントが4箇所あります。試験施工は、これら4箇所のジョイントのL、R側の起点側と終点側でそれぞれ行いました。なお、試験施工範囲以外の床版には、加熱型塗膜系防水材が施工されています。


図-9 試験施工の流れ


 写真-13は試験施工の状況です。道路橋床版での施工性を検証した結果、大きなトラブルもなく、交通開放に支障をきたすことなく施工が行えることが確認できました。

 写真-14は施工から4冬経過後の路面状況を示しています。現時点においては、路面に変状が見受けられず、状態は安定しています。今後も定期的に観察を継続する予定です。



写真-14 施工4冬経過後の路面状況


■おわりに

 本稿では、表面被覆材端部の剥がれ防止に向けて著者が行っている研究の一例について、ご紹介しました。

 コンクリート構造物の長寿命化を期待して施工した表面被覆材が損傷すると、せっかくの効果が供用途中で失われることになります。構造物を保護するための劣化対策技術はもちろん大切ですが、その効果を長く保持するための「劣化対策技術の劣化対策技術」も必要と言えます。構造物の長寿命化とライフサイクルコストの縮減に向け、表面被覆材のような劣化対策技術の劣化・損傷のメカニズムを明らかにし、その成果を設計・施工にフィードバックさせる取り組みも大切と考えます。

 課題の解決に向けては不明な点も多々ありますが、本稿がそのヒントの一つとなれば幸いです。


【参考文献】

[1] 土木学会:表面保護工法設計施工指針(案),コンクリートライブラリー119,2005.4

[2] 遠藤裕丈,田口史雄,田畑浩太郞:ウレタンで被覆補修した沿岸コンクリート部材の耐久性調査,寒地土木研究所月報,No.703,pp.2-12,2011.12

[3] 北海道開発局道路設計要領,第3集橋梁,第2編コンクリート,参考資料B「道路橋での表面含浸材の適用にあたっての留意事項」

[4] 遠藤裕丈、田口史雄、田畑浩太郞:コンクリート構造物における表面被覆材端部の剥がれ防止法の一提案、寒地土木研究所月報、No.715、pp.11-19、2012.12

[5] 融雪剤によるコンクリート構造物の劣化研究委員会報告書,社団法人日本コンクリート工学協会,pp.5-7,1999.11

[6] 土木学会:樹脂材料による複合技術の最先端,複合構造レポート6,pp.199-204,2012.6

[7] 鹿野善則,大橋岳,中井督介,高橋亮:既設橋に用いる床版防水の検討,土木学会第59回年次学術講演会,6-228,pp.455-456,2004.9


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