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水の供給によるコンクリート構造物表面被覆材の剥がれ防止に向けて

国立研究開発法人土木研究所 
寒地土木研究所 
耐寒材料チーム 主任研究員
遠藤 裕丈 氏

■表面被覆材の剥がれメカニズムの把握

 次に、前章で述べた考察を検証する実験を行いました。写真-8に供試体の作製状況を示します。コンクリートの水セメント比は50%で、使用したセメントは高炉セメントB種です。供試体の寸法は10×10×40cmで、材齢7日まで湿潤養生を施した後、脚柱を模した形で、材齢14日に表面被覆材(ウレタン)を供試体の中央に吹き付け施工しました。


写真-8 供試体の作製状況


 図-6は実験の流れです。材齢28日より、供試体を①もしくは②の環境に曝しました。

 ① 塩水に浸漬させ、常温下に294日間、静置する(以下、塩水浸漬と記します)。

 ② コンクリート表面を3mm厚の塩水で覆うことができるゴム製の容器に挿入し、塩水を容器に注いだ後、-18℃で16時間、23℃で8時間の1日1サイクルの凍結融解作用を294サイクル与える(以下、凍結融解と記します)。

 塩水は①、②とも、3%濃度の塩化ナトリウム水溶液を使用しています。①、②の環境に曝した後、表面被覆材端部近傍コンクリート断面のEPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザー)分析を行い、塩化物イオンの浸透状況を調べました。


 図-6 実験の流れ


 写真-9は①の塩水浸漬後ならびに②の凍結融解後の供試体のEPMA分析の結果です。塩水浸漬のみさせた供試体をみますと、表面被覆材で覆われていない部分のコンクリートには塩化物イオンが深さ10~20mmまで浸透しています。表面被覆材で覆われている部分のコンクリートをみますと、表面被覆材の端部から同心円状に広がる形で表面被覆材の下面へも塩化物イオンが浸透しています。凍結融解を与えた供試体をみますと、表面被覆材とコンクリートの付着が失われて浮きが発生し、表面被覆材の端部から下面へ広範にわたって塩化物イオンが浸透していました。

 このことから、表面被覆材の端部から塩水が侵入し、塩水の凍結融解作用によって表面被覆材とコンクリートの付着が失われ、剥がれに至ったと考えられます。これらの結果から、表面被覆材の剥がれのメカニズムとして図-7が考えられます。



 

図-7 実験結果から考察した表面被覆材の剥がれメカニズム


■表面被覆材の剥がれ防止技術の考案・評価

前章の実験結果から、表面被覆材端部からの水の侵入が剥がれの一因と推定されます。そこで、図-8に示すような、表面被覆材端部近傍のコンクリートに吸水抑制機能を有するシラン系表面含浸材(以下、シランと記します)を塗布することで表面被覆材の剥がれを抑制する技術を考案し、実験により、その効果の評価を行いました。


 図-8 考案した技術の概要


 水セメント比とセメントの種類、供試体寸法、表面被覆材(ウレタン)の吹き付け手順は、前章の実験に同じです。吹き付け後、写真-10に示すように、材齢21日にシランを塗布しました。シランは北海道開発局の道路設計要領の規格[3]を満足する無溶剤系を使用しています。塗布後、供試体を切断し、切断面に水を噴霧したところ、シランは表面被覆材端部から約1cm範囲の表面被覆材下面に含浸していることが確認されました。


写真-10 シランの塗布および含浸状況


 その後、材齢28日より、前章の図-6で述べた内容と同様の実験を行いました。

 写真-11はEPMA分析の結果です。写真-9と比較しますと、塩水浸漬のみさせた供試体は、表面被覆材で覆われていない部分のコンクリートにおける塩化物イオンの浸透深さが数ミリ程度にとどまり、また、表面被覆材の端部から下面への塩化物イオンの浸透も殆どみられませんでした。シランの塗布は、表面被覆材下面への塩化物イオンの浸透抑制(塩水の供給抑制)に有効と言えます。次に、凍結融解を与えた供試体をみますと、表面被覆材で覆われていない部分については、塩化物イオンが深さ10~20mmまで浸透していました。水中での凍結融解作用により生じたスケーリングによって吸水防止層が欠損(以前、本サイトで執筆させていただいたコラム「シラン系およびけい酸塩系表面含浸材の適切な使い方」の図-1をご参照下さい)した影響と考えられます。一方で、表面被覆材


の下面をみますと、端部からの距離が長くなるにつれて塩化物イオン濃度は減少している傾向がみられます。吸水防止層が欠損に至るまでの間は表面被覆材下面への塩化物イオンの浸透抑制(塩水の供給抑制)効果が発揮されたことが見て取れます。なお、実験室と現場は環境が異なり、実構造物において吸水防止層が欠損に至る期間を予測する方法はまだ明らかになっておらず、これについては今後の課題と言えます。なお、データの掲載は割愛しますが、プルオフ試験装置による表面被覆材とコンクリートの付着強度試験も行い、シランを塗布した供試体は付着強度が低下していないことも確認しています[4]。


 ウレタンとシランを比較しますと、イニシャルコストは一般にシランの方が低いことが多く、要求性能が遮塩・遮水効果のみでしたら、適切なシランを選定し[3]、部材全面にシランを塗布する考え方もあるかと思います。しかし、写真-3の現場では、写真-12に示すように玉石による衝撃も懸念されます。そのような現場では、遮塩・遮水効果に加えて緩衝効果も期待されるウレタン等の表面被覆材の適用が有効と言えます(もちろん、表面被覆材自体が波圧や流圧に対する十分な抵抗性を有していることが前提条件の一つです)。補修材料は、環境に応じて適切に使い分けることが重要です。なお、供用期間中に表面被覆材が剥がれると緩衝効果も失われますので、その機能を保持させるため、剥がれ防止する対応も大切と言えます。

 また、同じ部位でも、遮塩・遮水および緩衝効果が求められる範囲にウレタン、遮塩・遮水効果のみ求められる範囲にシラン、といった使い分けも合理的と言えます。


 写真-12 玉石の衝撃による損傷を受けた脚柱


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