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⑰維持管理分野は新たにつくるもの

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監
植野 芳彦 氏

3. 実務において

「維持管理において何が重要か?」と良く聞かれる。やはり、一番は人材である。良い人材を如何に育てるか?実はこれが難しい。現在、ここでは「植野塾」と言う形で、毎月第3水曜日の16:00~1時間程度、職員の有志に話をしている。私の経験を話しながら、「考える職員」「新たなことに取り組んでいく職員」を育てていこうと考えているが、これにおいても良く言われるのが、「(植野塾)に出たいんだけど、自分は事務屋だから。土木じゃないから。歳だから。」などである。これでは、「自分の壁」を自分で作ってしまっている。実はたいした話はしていなくて、「失敗してもいいんだよ。それが後の糧になれば。」という事を言っている。世の中で、さまざまな事業に取り組むには、決して順調ではない。いろいろな障壁や、理不尽な妨害にも合う。それで、中断したにしろ、必ず次に役立つ。プロジェクトや事業は、決して短期間、1年では終わらない、先の見えない戦いなのだ。如何にプロジェクトを全うするか?のほうが重要である。

 私は、マネジメントとは、「まとめること」だと思っている。これが意外に技術屋さんには理解されない。さまざまな条件の下、与えられた課題を如何にまとめるか?である。

 今の維持管理の問題に関して、さまざまなかたが、難しいことを言ってはいるが、私は、自分達の持っているものを、どう纏め上げるかと言う壮大な挑戦だと思っている。小手先の技術論は個々の橋梁でやってもらえばよくて、モット大局を見なければならない。役所も、民間もこれまでは、ほとんどが、1件1件の案件しか見てこなかった。これが作る時代のやり方である。しかし、今後の管理する時代になれば、複数、たとえば富山市であれば2,200橋を見なければならない。考えなければならない。設計して、造るのは意外と簡単であるが、「運用と管理」は非常に難しい。1件1件ではすまないのである。単純ではない。俯瞰的に複眼で見なければならない。それを、自分達の能力でやっていくしかないのである。


昨年度に国際航業と行った共同研究テーマ


ステレオ画像解析の研究テーマ


単画像解析の研究テーマ


復元図作成の研究テーマ

 補修技術に関しても、いろいろ新技術を持ってこられるが、その実証が無い。一番重要なのは効果と耐久性だ。しかし、補修材料などに関しては、これまでこれというモノが無かったのも事実であり、現存する技術をどう使うか?というのも、マネジメントである。そのために、富山市ではいつでもフィールドを用意する。しかし、そう言っていても、其れをやりたいと言ってきた企業は数社にとどまっている。さらに、多くの方が「新技術を使えばコスト縮減になる」と言う言い方をされるが、これは誤りである。何らかの条件下で初めてコスト縮減になるのである。たとえば、新薬とジネリック医薬品の違いを考えてもらえればわかるであろう。我々の世界では、積算体系を変えない限りはコスト縮減にはならないのである。かつて、「コスト縮減」の検討は散々行った。結論は、現在の日本では、積算の仕組みを変えない限り、新技術だけではコスト縮減は難しいと言うことである。


4.まとめ

 アインシュタイン語録には、

「何かを学ぶのに、自分で体験する以上に良い方法は無い」というのがある。

 これは、若い人たちに是非、実践して欲しい。私は、未だに実践している。

 なかなか、自分の立場や、周囲の状況などを考えると、自分で経験するのは困難な場合が多い。そういうときには、他人に相談することも重要である。職員の皆さんも、民間の業者の皆さんも、分からないことや迷っていることが有れば、気軽に相談をして欲しいと思っている。一人で悩んでいても、ものごとは進まない。時間だけが過ぎていく。一緒に考えれば解決できるかもしれない。

 世の中にはさまざまな知識や経験を持った人間がいる。最終判断は自分でよいが、相談をすれば何か生まれるかもしれない。そこで、「人脈」が必要である。これまで35年間、其れを意識して仕事をしてきた。人脈が広ければ、相談する相手が広がるということであり、情報量が増える。間違いは正してもらえるし。イザと言う時は味方になる。ただし、この人脈を作るには、それなりの努力や労力がいる。これがなかなか大変である。各企業の役員ですら、これができていないで困っている方がかなりいるものと思うが、それは、努力が足りないのである。ここに書いているのもそうである、なかなか、1ヶ月に1度書くのは大変なのだが、同調してくれる方が居ればよいなと思って書いている。たぶん、普通の方々は、陰で批判して終わりである。それでは建設的でないし生産性も無い。しかし、やることをしないで批判をしているのが、今の世の中である。

 わたしは、維持管理に関しては、今後、失敗する事項も相当あると考えている。其れを、できるだけ知識や経験を本当に持った人間と議論することで出来るだけ押さえたい。さらに、試してみて失敗することも重要で、それを糧として次回以降生かしていけば発展性があると考えている。役所の悪いところの一つは、隠そうとするところである。これまではそうであったかもしれないが、今後は、説明をキチントして、理解を得ることである。しかし、ここで問題なのが、決しって100%の理解を得るのは無理だと言うことである。

 失敗は、放置すれば失敗である。しかし、気づいたり指摘された段階で、手直しが効く。ここで、キチント対処すれば、其れは失敗ではないと私は思っている。「失敗学」というものがあるように、失敗から学ぶ物は大きい。其れも経験であり、実績である。何もやったことが無い者が最近は偉そうに言っているが、其れは認められないし、其のうち本当の失敗をするだろう。

 申し訳ないが、今の方々は経験が足りない方が多い。しかし、それに自分達で気づいていない。もともと、経験が有るか無いか?と言うのは、自分の判断ではなく第三者が判断すべき物である。土木の世界は経験値である。業務だけやっている者は、それだけ。何か新たな物に挑戦していてこそ、技術者であると思う。しかし、企業や組織の中では、業務だけやっている人間の評価のほうが高いのも、現実である。それは、現在の経営者のほとんどがそうだったからなのではではないだろうか? 橋梁の世界は狭い。本物の人の数もあまり居ない。其の人間が何処に居ても、それなりに本当にやってきた人間は、お互いに知り合いである。少なくとも名前を聞けばわかる。これは、どの世界でも通じることである。これが、どうも、それなりの方々には通じないらしい。

 これまでの社会では、ほとんどの場合、単発の事業、たとえば「○○橋」という事業は皆さん経験した方もいるだろう。しかし、維持管理を自治体単位で見ていくには、1橋では、すまないのである。何度も述べるが富山市ならば、2,200橋を視ていかなければならない。造る時は1橋1橋であったが、管理するのは2,200橋なのである。だから、総合的な判断能力が要る。プロジェクトマネジメント能力、それも総合的なものが要るのである。自分はもちろん、同僚や委託業者などの全ての能力を結集し取り組まなければならないのである。

 橋の点検をしても、部分的な損傷は誰でも見つけることは意外と簡単である。それを、橋全体で見極め、路線や地域全体、市全体の橋を総合的に判断していかなえばならない。これは、未知の分野なのである。「包括的維持管理」という事をよく言ってくる方もいらしゃる。しかし、本当に成り立つかどうかと言うのはかなり困難である。特に、民間の方々はそういう経験が乏しいという事実を認識すべきである。これは、日本のコンサルタントやゼネコンの大きな課題である。

 維持管理に関する課題は、新たなことへの挑戦である。その「しくみ」作りから始まって、個々の技術まで、新らしい考えを採用していかねば成らないだろう。私は、新たなことに取り組むことが大好きなので、わくわくするが、新たな取り組みを今年度からも積極的に行っていきたい。

(次回は5月16日に掲載予定です)