道路構造物ジャーナルNET

橋面コンクリート舗装ガイドライン2020も上梓

道路橋床版の維持管理マニュアル2020を出版~同2016を大幅改訂~

土木学会 鋼構造委員会
道路橋床版の点検診断の高度化と長寿命化技術に関する小委員会
委員長

橘 吉宏

公開日:2021.03.22

 土木学会鋼構造委員会 道路橋床版の点検診断の高度化と長寿命化技術に関する小委員会は、『道路橋床版の維持管理マニュアル2020』および『道路橋床版の長寿命化を目的とした橋面コンクリート舗装ガイドライン2020』を出版した。『道路橋床版の維持管理マニュアル2020』は国の様々な法令や制度の変化、4年間で蓄積された知見を基に『道路橋床版の維持管理マニュアル2016』を大幅改訂している。また、『橋面コンクリート舗装ガイドライン2020』は、床版防水+舗装という従来の床版補修が財政的に負担が大きい自治体を中心に普及を図るもので、ニーズに応じた材料・工法を提示している。その内容について橘吉宏委員長に詳細を聞いた。(文中の写真や図表は注釈がないものは全て同小委員会提供)(井手迫瑞樹)

マニュアル2020とガイドライン2020、左は小委員会報告書(井手迫瑞樹撮影)

国のさまざな制度改正に対応
 再劣化事例への対応も充実

 ――道路橋床版の維持管理マニュアルについて、2016年版と比べどのような点が変わったのか、その概略と力点の詳細を語ってください
 橘委員長 道路橋床版の損傷問題が話題に上って以来、長い年月が経過しています。輪荷重走行試験機の開発を契機として、多数の試験体に対する輪荷重走行試験結果の考察から、輪荷重の繰返し走行による床版の疲労損傷進展メカニズムが解明されるに至りました。その後、床版の疲労損傷の進展を促進する雨水の影響や塩害、凍害あるいはアルカリシリカ反応などの他の劣化要因についても研究が重ねられ、その成果から、道路橋床版の点検および調査結果を踏まえた健全度あるいは劣化度の評価判定方法が提案されてきました。そして、これらの成果に基づいて、国土交通省をはじめとする道路管理機関で床版の点検、調査結果から損傷程度の評価、対策区分の判定、健全性の診断を行う手順を示した橋梁点検要領や保全点検要領などとして取りまとめられ、順次公表されてきています。また、2013年7月の道路法改正により、2014年度から国が定める統一的な基準による5年に1回の近接目視による点検を行うことが基本になりました。2018年度に一巡目が完了し、2019年4月から二巡目の定期点検が行われています。さらに、2019年2月には、定期点検における点検支援技術の活用する際のガイドラインと点検支援技術の性能カタログ(案)が示されました。

 しかし、これらの点検要領における床版の劣化損傷に対する評価基準や補修・補強工法の選定フローについては、道路管理機関によってまちまちであり、統一した見解が示されている訳ではありません。損傷要因が種々雑多であり、橋梁の立地条件の違いによる通行荷重の大きさや交通量の相違、あるいは床版を取り巻く気象条件や地理的条件などの環境条件の違いにより、床版の劣化損傷進展のメカニズムが異なるだけでなく、発現される損傷形態も異なるためと考えられます。また、対象とする橋梁の社会的および経済的な重要度や損傷がもたらす第三者への影響度の相違、あるいは交通規制の容易さなども、対策工法選定の影響因子になるためと考えられます。
 我が国の道路橋床版の維持管理における当面の課題としては、地方公共団体をはじめとするより広汎な道路管理者に対し、上記諸条件の相違を勘案し、かつ、それぞれのニーズに対応した対策工法の選定法をより解りやすい形で提示した資料を提供することと思われます。すなわち、損傷要因毎に潜伏期、進展期、加速期、および劣化期の劣化損傷過程と種々の条件を考慮した対策工法選定フローとのリンク付けを行い、予防保全型維持管理と事後保全型維持管理を適切に組み合わせた道路橋床版の効率的な維持管理の実施に結びつけることが重要です。本マニュアルは、「道路橋床版維持管理マニュアル2016」の構成を見直すとともに、最近の課題である点検診断の高度化、省力化、可視化、ならびに合理的な対策工法の選定基準の確立による長寿命化等に重きをおいて大幅に改訂しました。具体的には、道路橋床版に対する点検調査技術の活用とそれによる維持管理の高度化について言及し、将来の維持管理の方向性を示唆する内容を大幅に充実しました。また、対策工法の選定については、床版の健全性区分、橋梁の利用状況、劣化損傷原因、環境、維持管理水準など、種々の要因を考慮して様々な立場にある道路管理技術者が措置方針を決定することに鑑み、補修・補強工法の選定にあたって適切な判断ができるように詳述しました。
 道路橋床版の損傷は、建設時の設計基準によって発現する損傷形態が異なる場合が多くなっています。例えば、1964年以前の道路橋示方書で設計された床版では、配力鉄筋不足や版厚不足によるせん断耐力の不足などにより建設後数年で疲労損傷が発生した事例がありますが、これは疲労損傷のメカニズムが1964年以降の道路橋示方書で設計された床版と異なります。このため、対策工法の選定にあたっては、設計基準の変遷や床版の歴史的な背景なども踏まえた検討が必要です。
 床版の劣化損傷問題も多様化してきており、走行輪荷重による疲労と塩害や凍害などとの複合劣化や、劣化した床版の部分打替え部や部分的な断面修復部における補修部周辺鉄筋のマクロセル腐食による再劣化あるいは床版上面の増厚補強および床版下面からの鋼板接着や連続繊維シート接着など、補強後の再劣化事例なども報告されるようになり、これらに対する対策工法の確立も新たな課題として注目されつつあります。
 一方、我が国における支間15m以上の道路橋約17万橋について、建設年度毎の建設数の推移は、1950年代後半から1970年代前半の高度経済成長期とその後の10数年間に橋梁総数の60%以上が建設されています。このため、建設後50年を経過する橋梁は、今後、急速に増加し、ここ10数年間で全橋梁の60%以上に達するものと推定されます。したがって、我が国における社会基盤の整備において、橋梁の維持管理の重要性はますます増加することは論を待ちません。

本の利用者を3段階に分けた考え方を提示

 ――そうした問題意識を元にして、前回の「道路橋床版の維持管理マニュアル2016」から「道路橋床版の維持管理マニュアル2020」に改定するにあたって大きく変わった点はどこですか
 橘 ページ数は約200ページと2016と2020版で大きく変わっていません。ただ章立てが大きく変わっています。2016版は当時の大田孝二委員長の方針で地方の橋梁を専門としていない方でも理解できるように、前半に30ページぐらいの概略版を入れて、後半に詳細編として技術の細かいところを載せている文章構成にしていました。
 しかし、今回はこうした2編構成はやめて、各章ごとに内容を混交しました。技術者には様々なレベルの方がいらっしゃいますので、必要な個所を読んでもらうのが良いという考えでそうしました。冒頭(同マニュアル5~8P)に本マニュアルの活用方法という項目が記載されているのですが、ここに各章の概略が書かれています。
 特に8ページにメンテナンスレベルのサイクルに応じた活用方法として、本の利用者を3段階に分けた考え方を提示しています。
 ――どのようなレベル分けをしているのですか
 橘 レベル1は地方の小規模自治体が保有する小規模橋梁が対象で、定期点検+健全性の診断+αの情報を与えた上で工法選定を行うもので、最低限保証すべきメンテナンスサイクルと位置付けています。
 レベル2は、ある程度以上の規模を有する自治体や政令指定都市、都道府県が管理する橋梁が主たる対象で、定期点検だけでは不足する情報があるため、床版の特徴に応じて詳細調査を行う必要を記しています。これは都道府県や政令指定都市には、土木技術者をある程度配置する能力を有しており、そのレベルに応じたメンテナンスサイクルを要求するもので、標準的なメンテナンスサイクルと位置付けました。
 レベル3は、NEXCOや都市高速、国交省などを主たる対象としています。詳細調査に加えて、劣化進行の過程の評価を求めています。これは高度な技術を活用した効率的なメンテナンスサイクルを求めているものです。解析的評価手法による既設床版の疲労耐久性の評価事例を参考に解析的評価手法により劣化進行過程を評価した上で対策工法の決定フロー)(後述)に基づいて対策工法を選定することを求めています。

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