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長大特殊橋の耐震補強対象は25橋で対策完了は5橋

2021年新春インタビュー② NEXCO中日本名古屋支社 ネットワーク活用と新工法採用で大規模更新を展開

中日本高速道路株式会社
名古屋支社
保全・サービス事業部長

合田 聡

公開日:2021.01.01

耐震補強 優先実施222橋のうち24橋が契約済み
 ロッキング橋脚を有する83橋は2021年度内に耐震性能2(b)の確保完了予定

 ――橋梁の耐震補強の進捗状況、および落橋防止装置の設置状況を教えてください
 合田 高速道路などの緊急輸送道路は、被災後、速やかに緊急輸送が可能となることで、被災地域における救援や復旧に大きく寄与できます。そのため、地震による損傷が限定的なものに留まり、橋としての機能の回復が速やかに行いうる性能(耐震性能2)を確保すべく、今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域にある橋梁222橋の耐震補強を優先して実施しています。
 これに加えて、地震時に上部工が支承を逸脱することで路面に大きな段差が生じると速やかな交通確保が困難になることから、上下線のいずれかを優先して支承の補強や取替えなどを行う対策を来年度に30橋実施する予定です。
 現時点では222橋のうち、24橋について契約済みで1橋(名港西大橋(上り線))の施工が完了しています。
 耐震性能2の落橋防止装置が未設置の橋梁は237橋で、今後計画的に設置していきます。


耐震補強 契約中工事一覧表

 ――管内で震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域は
 合田 南海トラフ巨大地震の関係で名古屋都市圏や伊勢湾、三河湾の沿岸部が該当し、さらに飯田HSCもその地域に入っています。管内北側は26%以上の地域に入っていません。
 ――2020、2021年度の落橋防止装置設置予定数は
 合田 両年度で10橋の予定です。
 ――耐震補強の方針は
 合田 炭素繊維巻立てを標準に実施する予定です。辺長比やせん断スパン比が炭素繊維巻立ての適用範囲を超える場合は、コンクリート巻立てや鋼板巻立てで対応する予定です。
 ――名古屋支社では工事着手前に行わなければならない耐震補強設計業務の不落が多いことから、設計業務の見直しを図りました。現状、どのようになっていますでしょうか
 合田 入札制度の改革では、若手育成型プロポーザル方式を導入して若手技術者を配置してくれたら加点することにしました。さらに、契約締結から履行開始までに3カ月程度の自由度を持たすフレックス工期の導入、技術面では動的解析に手間がかかるので、静的解析の導入も行いました。
 2020年1月の事業者向け説明会開催後、これらの条件で公募しましたが、残念ながら成果は芳しいとは言えず、何度も公募を行って現在ではほぼ契約できています。契約の中では、フレックス工期の採用が多くなっています。
 ――具体的な契約数は
 合田 全77件のうち、74件の契約が完了していて、残りは3件となっています。3件は、伊勢湾岸道の名港西大橋(下り線)と新宝跨線橋、名二環の五条川高架橋他1橋となります。(編集部注:新宝跨線橋と五条川高架橋他1橋は12月末現在契約完了)
(右表:耐震補強事業 契約中調査一覧表/2020年11月末現在 ※拡大してご覧ください)
 ――ロッキング橋脚やロッカー橋脚の路線ごとの対策が必要な橋梁数と進捗状況、また対策方法は
 合田 管内にはロッキング橋脚を有する橋梁が83橋、ロッカー橋脚は8橋あり、ロッキング橋脚を対象に耐震補強を進めています。昨年度までに橋脚のRC巻立てによる落橋・倒壊を防ぐ対策(耐震性能3の確保)は全数完了しました。
 災害時に緊急輸送路としての機能を速やかに回復するための対策(耐震性能2(b)の確保)については、2020度内に72橋を、2021年度内に残り11橋を完了すべく施工を進めています。具体対策方法は、ロッキング橋脚のRC巻立てにより完全自立化させ、橋台部も剛結化していますので、水平力を負担させるために補強を行っています。


ロッキング橋脚の補強概要

 ――対象橋梁すべてで同じ対策を行うのでしょうか
 合田 そうです。
 ――83橋のなかには自治体管理の橋梁も含まれていますか
 合田 すべてNEXCO中日本管理の橋梁で、下にランプが走っている橋梁やランプ橋となります。

名港中央大橋と名港東大橋は2021年度に本体工事着手

 ――長大特殊橋の耐震補強の進捗状況は
 合田 対象橋梁は25橋となります。そのうち、対策が完了しているものは、伊勢湾岸道の名港西大橋(上り線)、日吉川橋、落合川橋(いずれも上下線)の5橋(20%)です。


長大特殊橋の一覧と耐震補強の進捗状況

 ――名港西大橋(上り線)の対策は
 合田 免震支承や制震ダンパーにより長周期化を行い、それでも足りないところは部材補強で当て板補強を行っています。
 ――名港西大橋(下り線)と名港中央大橋、名港東大橋の現況は
 合田 名港西大橋(下り線)は設計準備中です。名港中央大橋は2021年4月に、名港東大橋は2021年6月にそれぞれ本体工に着手する予定です。


名港西大橋

名港西大橋の対策例。免震支承への取替⇒取替前(右)と取替後(中央)/制震ダンパーの設置(右)

 ――それぞれの対策はどのように考えていますか
 合田 基本的には名港西大橋(上り線)と同じです。長周期化して地震力を低減し、それでも足りないところは部位補強する考え方に変わりはありません。
 ――トラス橋については
 合田 重心が上になり橋軸直角方向に倒壊する恐れもあるので、その対策について設計を進めながら検討しています。
 ――今後発注となる対象橋梁はすべて耐震補強のみでの発注でしょうか。それともほかの工種とあわせたものになりますか
 合田 一部は工種を組み合わせた形での発注になると思います。床版取替工事を進めていますが、床版厚が厚くなると下部工にも影響してきますので、そのような橋梁は大規模更新工事のなかで設計をして、下部工補強まで手をつけることもあります。

供用後40年を超える橋梁で評価Ⅲが急増
 塩害対策として桁端部の洗浄を推進

 ――橋梁の長寿命化修繕計画に基づいた対策の進捗状況と補修補強内容について教えてください
 合田 供用後40年を超えている橋梁で早期措置段階である評価Ⅲが急増しています。Ⅲについては、5年に1回の次回点検までに措置をしていくように計画的に実施しています。変状が多く確認されているコンクリート床版や桁では、有害なコンクリート部をはつり取り、断面修復を実施しています。鋼桁は腐食により断面減少している場合が多いので、錆を取って当て板補強をするのが基本的な対策です。


橋梁の健全性診断

 ――鋼桁での疲労き裂の発生は
 合田 それほど多くはありませんが、名神では大垣IC~養老JCT間(上下線交通量約43,000台/日)の杭瀬川橋のように斜橋になっている古い橋梁が多く、そのようなところでは桁端部の支承付近に一部き裂が発生している箇所があります。対策では、当て板補強を実施しています。


鋼桁の疲労き裂事例 名神(大垣IC~養老JCT)杭瀬川橋

 ――疲労き裂はそれほど多くないということですが、ショットピーニング処理のような鋼桁の疲労き裂予防対策は考えていますか
 合田 今後、永久に発生しないわけではないので、例えば塗膜割れがあるような箇所では都度調査をするのではなく、すべてショットピーニング処理をすることも検討中です。実際に、ブラスト時に試験施工的にショットピーニング処理を行った箇所もあります。
 ――試験施工の箇所は
 合田 東名阪の津島高架橋です。
 ――塩害による損傷は
 合田 飛来塩分によるものはありません。凍結防止剤散布による腐食が桁端部を中心に顕著に見られています。凍結防止剤を散布する雪氷期間終了後に、予防保全で桁端部の洗浄を推進しています。


桁端部の洗浄

 ――以前のインタビューでは、洗浄にNEXCO西日本グループのウルトラファインバブル水を使用していると伺いましたが、具体的な使用エリアは
 合田 中央道の飯田HSC、多治見HSC管内、東名・名神の羽島HSC管内、東海環状道の多治見HSC、羽島HSC管内の桁端部の洗浄に使用しています。
 ――効果は
 合田 通常の水による洗浄よりも比較的高い塩分除去効果が確認されています。
 ――ASRによる損傷は
 合田 中央道の飯田・多治見HSC管内、東名の名古屋HSC管内で、一部の橋梁下部工にASR反応の影響が懸念される橋梁があります。現段階では、膨張クラックの進行状況を測定し、経過観察している状況です。
 ――具体的な橋梁名は
 合田 中央道(駒ヶ根IC~松川IC)の矢の沢川橋、東名(名古屋IC~春日井IC)の志段味高架橋などです。


ASRが懸念される橋梁

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