道路構造物ジャーナルNET

3つのLIFEを念頭に置き阪神高速の発展に邁進

阪神高速道路・吉田光市新社長インタビュー

阪神高速道路株式会社
代表取締役社長

吉田 光市

公開日:2020.09.03

年齢構成の是正などサステイナブルな組織運営が必要
 淀川左岸線延伸部は大深度地下に

 ――増員やグループ全体の再編は
 吉田 大きなグループの再編は想定していません。社員の採用については、民営化後、技術・事務含めて採用をかなり絞った時期があり、年齢構成がいびつになっていることもあり、一部キャリア採用を実施しています。多様なバックグラウンドを持つ人材が組織を活性化してくれることを期待しています。体制の充実には限りがありますが、仕事の仕方を工夫したり、また、技術力、ノウハウを若い世代にしっかりと継承し、将来にわたって与えられた責務が果たせるように、サステイナブルでインクルーシブな組織運営に心掛けていきたいと考えています。
 ――2つの大規模プロジェクトについての進め方は
 吉田 淀川左岸線は現在、2期部分を大阪市と共に一生懸命推進しています。淀川の堤防との一体構造で治水機能を保ちながら道路の建設を進めていく必要があります。2025万博のアクセス道路として利用をめざす道路であり、工期もタイトで大変な事業でありますが、しっかりと大阪市と協力し、進めていきたいと考えています。延伸部については、今年の2月に淀川左岸線延伸部技術検討委員会において、トンネルを作る大深度地下の位置を特定され、これからは更に設計をすすめてまいります。引き続き上記委員会において、さらに知見を頂いていくことになろうかと考えています。



淀川左岸線(2期)断面イメージパース

淀川左岸線(2期)の施工状況

 大阪湾岸道路西伸部は既に着工している区間もあります。2箇所の長大橋区間では、一箇所が4主塔の連続斜張橋、もう一箇所が1主塔の斜張橋とすることが大阪湾岸道路西伸部技術検討委員会にてとりまとめられ、2019年12月に発表されました。いずれも世界最大級の斜張橋になるということで、これも技術的には高度なものが要求されます。


着工している区間もある

大規模リニューアル 高密度な都市空間で施工する難しさ
 今秋に1号環状線(南行)の高架橋をリニューアル

 ――大規模リニューアル事業の進捗について
 吉田 1962年の阪神高速道路公団発足以来、建設してきた258kmの都市高速道路ネットワークの次代への継承は重要です。全延長のうち、40年を超える区間が4割に達する等老朽化が懸念されます。
 堺線の湊町付近のリニューアル事業が進んでいますが、その他にも喜連瓜破高架橋の更新や湊川付近の高架橋の大規模リニューアルが具体化しつつあります。


堺線の湊町付近の橋脚基礎損傷状況

同損傷要因説明図

湊川付近の高架橋の損傷状況

同損傷要因説明図


喜連瓜破高架橋のヒンジ部の垂れ下がり(上)と外ケーブル及びサドルによる補強

同損傷概要図

 当社や首都高速道路などの都市高速道路は、都市部の非常に高密度な空間のもとで更新工事を行わねばならないという制約条件があります。多くの交通量をさばきながら施工する必要もあります。新設事業のように華々しくはないかも知れませんが、世界に例のない高密度な都市空間での道路構造物の更新であり、大変挑戦的な事業です。智恵を絞ってしっかりと対応していきます。施工面での制約が非常に大きく、理論的には施工可能でも、実際にはどうか? といった懸念が生じる可能性もあります。そのため契約方式にECI (技術提案交渉方式(技術協力・施工タイプ))を取り入れることも必要でしょうし、ある種のオープンイノベーションと言ってもよいかと思いますが、建設会社はじめ各方面の知見を幅広く活用していかなければならないと考えています。まずは安全、社会的コストを縮減するための工期短縮を重視しながらしっかりと進めていきたいと思います。
 1号環状線(南行)のリニューアルをこの秋に行います。8月27日にお知らせしましたとおり、環状線を通行止めして施工するのは20年ぶりです。一部区間で床版取替が必要な箇所もあります。そのため全面通行止めは従来の10日程度から17日間に延ばしています。これも色々な新しい技術を頂きながら進めて行きます。コミュニケーション型共同研究という取り組みを従来から各方面との間で進めてきていますが、この成果の一つを今回のリニューアル事業に反映しています。
 交通規制下の作業において床版を外すところから始めると多くの時間を要してしまいます。その作業を、供用中の道路に影響を与えないよう、床版下面からできることは事前にやっていこうという技術です。WJ(ウォータージェット)を使いながら、床版を外しやすくするような工事を事前に行い、交通規制下での橋面上での施工期間を極力短くします。こうした技術の開発、お客さまや沿線にお住いの方々への情報公開は重要です。なぜ高架橋のリニューアルが必要なのか、規制を最小限にするため当社はじめ関係者はどのような努力をしているかをお客さまや沿線にお住いの方々にお知らせし、ご理解をいただくことが必要です。こうした活動を今後も会社を挙げて積極的に取り組んでいきます。


WJを使って、床版を外しやすくするような工事を事前に行う


コミュニケーション型共同研究実施例とその成果(UFC床版)

交通量 5月には昨年同月比3割も減少、以後は同1割弱まで回復
 計画を再構築してフォローアップする必要がある

 ――新型コロナの影響を鑑みた中期的な経営見通しは
 吉田 新型コロナの影響は当社の業務全般に出てきています。特に交通量は一番厳しかった本年5月には昨年度比3割も減少しました。最近は同1割弱減と戻してきています。車種別に見ると、5月の大幅減の際、大型車の落ち幅は比較的少なく、普通車の落ち込みが目立ちました。現在はそのうち普通車の減少は1割弱まで回復しましたが、大型車の落ち込みは1割弱のまま戻らない傾向が続いています。これは国際物流が回復していないことや国内外の観光業の不振による大型バスの減少が効いています。このため、関連事業も含めた収入増の模索や、コストの縮減などを図っていく必要があります。
 また、新型コロナにより、現場にも一定程度影響が出てきていると考えます。この際、これまでの計画をフォローアップして、計画の再構築を含め進行管理をしっかりとやっていかなくてはなりません。

保有資産を弾力的に運用
 海外事業 「Made with Japan」でアドバンテージを生かす

 ――関連事業については
 吉田 まず、地方公共団体からの道路マネジメント受託事業があります。地方自治体の技術者不足は無視できない状況であり、構造物の老朽化が進んでいく昨今では人手や予算の不足は、損傷を進行させる要因にもなってしまいます。当社は市街地の道路構造物の管理、有料道路の管理に秀でている特殊なインフラ会社です。その知見を他の道路管理者のお役に立てたいと考えています。大きく儲けようとは考えていません。もちろん赤字にはならないようにしますが、利益はそこそこに、技術者の技術力向上につながる場の拡大でもあると捉えています。
 PAに関しては例えばNEXCOと比べてボリュームが小さいのですが、本線料金所を畳んでPAに切り替えたり、対距離料金制の中でそういう再編も進みつつあります。最近、神戸に行った時に尼崎のPAの前を通りましたが、ここも以前、本線料金所だったところを無くして、PAにしたところで利用が随分増えています。ここだけでなく保有資産を最大限に活用して、お客さまの満足を高めていきたいと考えています。
 海外事業に関しては、モロッコ、ケニア、タイなどで様々に実績を残しています。とりわけアフリカの両国とは長い関係を有し、信頼関係を築けています。今後もこれをしっかりと発展させていきたいですね。モロッコでは、日本における『特殊高所技術』を『ニンジャテック』と名付けて、橋梁点検に役立てています。その御縁もあって、モロッコ出身の方に阪神高速のメンバーとして働いてもらっています。今後はこれを単なる人的交流、技術交流ではなく、資本交流に発展させていけたらと考えています。


ニンジャテックを用いた点検

モロッコ出身の方に阪神高速のメンバーとして働いてもらっている

 ケニアではモンバサ港を跨ぐモンバサゲートブリッジの設計業務にJVの一員として携わっています。
 21世紀はアフリカの人口はさらに増え、高い経済成長も見込まれています。これまで培った関係をさらに深めてお役に立っていきたいと考えています。アフリカで競争相手になるのは英仏などの旧宗主国や中国ですが、旧宗主国は「上から目線」をされるようですし、中国はお金とスピード感はありますが、構造物のメンテナンスや借款のその後に不安が大きい。日本は、基礎的技術力の高さに加え、その国に寄り添って仕事をすることで好感度が上がっています。「Made with Japan」のスタンスで我々のアドバンテージを生かして打ち勝っていきたいと考えています。また、今後はPPP、PFI方式の案件も増えていきます。単にモノを作るだけでなく、モノを維持していく、あるいは交通システムそのものも提供していくことが必要になります。その時に我々が有するノウハウは非常に重要になってくると思っています。他の事業会社やスポンサーとJVを組むことも睨んでいきたいと考えています。

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