道路構造物ジャーナルNET

大規模更新など床版取替における設計・施工の現時点の集大成

『鋼道路橋 RC 床版更新の設計・施工技術』が発刊

土木学会 鋼構造委員会 
鋼道路橋RC床版を更新する施工技術に関する小委員会 
委員長

並川 賢治

公開日:2020.06.21

第3章 施工事例からわかるRC床版更新の要点
 工事上の制約の緩和を意識すべき

 ――第3章の施工事例からわかるRC床版更新の要点では、様々な施工事例について報告されています。まずは斜角について
 並川 斜角は設計上の課題として、たわみの影響を受けた時に格子解析では計算できない応力が生じる部位があるので、それを見逃すことが無いように取り上げました。
 製作や施工に関わる話としては、標準的な矩形パネルを造ってしまうと、結果的に現場打ちの部分が多くなってしまうので、形状を工夫する必要があります。また、最近は無い場合もあるようですが、フランジと床版の間にハンチを付けなくてはいけない場合は、斜角だと製作時に予め床版パネルに手当てするのが難しくなります。そのような時に工夫する方法を施工事例で示しました。
 ――端部についても現場打ちで対応するのではなく、最近は縦配置のプレキャスト床版を設置するケースも出てきています
 並川 斜角のある橋梁は、設計段階で良く考えておかないと、現場で施工が難しくなるとともにコストもかかります。工夫が必要です。


縦(橋軸方向に長く)配置したプレキャストPC床版

 ――斜角以外にもさまざまな交通規制の事例について言及されています
 並川 そうですね。冒頭に申し上げたように施工計画を組み立てる早い段階で様々な知識が必要であり、例えば剛な車線分離壁を短時間で移動できるロードジッパー(右写真)を紹介しています。車線規制をした状態で工事をしなくてはいけない現場では、現場の安全と施工のし易さが求められており、それを厳しい条件にしてしまうと、工事上の制約が強まり施工は苦労します。前段で道路管理者と元請けの役割の重さを強調しましたが、設計を受託するコンサルタントも意識すべきことであると思います。
 ――機能を向上した施工事例については
 並川 事例を収集している内に、床版更新をする機会に今よりも機能を上げて後世に残すべきではないか、との委員からの声もあり、九年橋や蝉丸橋、美川大橋などの車線拡幅など機能向上を切り口として施工事例を紹介しています。ここでも御幸大橋の事例(非合成化用の補強材追加による振動の低減)を挙げています。更新理由が機能の陳腐化であることもあるので全てを美談として整理できないと思いますが、床版の損傷由来の更新である場合も耐久性向上はもとより他の機能向上についても一考する余地を残したいと思います。


九年橋の床版撤去および架設(弊サイト既掲載)

 玉出入口におけるUFC床版を使用した高耐久性と軽量化の両立をした事例についても記述しています。死荷重が増えると主桁も負担を強いられます。負担を減らすためには、鋼床版やUFC床版のように軽量化できる材料・製品を使うのが良いと思います。

用宗高架橋を標準的な工期として位置付ける
 6つの他事例と比較しながら工程短縮の可能性をシミュレーション

 ――工期短縮の施工事例は
 並川 NEXCO中日本が施工した用宗高架橋大規模更新工事の事例を標準的な工期として位置づけ、6つの他事例と比較しながら工程短縮の可能性をシミュレーションしました。壁高欄や舗装、クレーンの台数及び使い方がポイントになります。






用宗高架橋を標準的な工期としてシミュレーションした

米国のABCプロジェクトを読み解く

 ――米国の『ABC』(Accelerated Bridge Construction)プロジェクトについても触れています
 並川 米国の取り組み事例です。米国はインフラへの大規模な投資が日本に比べて20年先んじており、現在も凍結防止剤を散布する北部を中心に橋梁の更新工事が行われています。更新や保全工事に対する社会的影響を軽減しなくてはいけないのは日本と同じで、その対応のために急速施工が要求されており、その開発促進と実装のために、FHWA(米連邦道路管理局)が中心となって、橋梁部材のプレキャスト化、トランスポーターを用いた橋梁の架設、横取り設備を用いた施工方法などの開発が行われ、プレキャスト化分野では床版を含めた鋼桁やPC桁の高速施工を可能とする標準構造が準備されています。2011年度版が現状の最終版として公開されています。これを読みといたものです。

 目を引いたのは2011年に竣工したアイオワ州で行われた橋梁の更新工事です。橋長約55m、支間長約21m、幅員約13.4mの3径間連続鈑桁橋ですが、着目すべき点ははユニット間に横桁を付けていない点です。横構もありません。主桁は6本ありますが、2本1組(この主桁間はプレキャストであるため横桁を付けている)で壁高欄を含めて床版と主桁はユニット化されていて、鋼桁に合成構造としてスタッドで取り付けられています。床版はPC床版であり、作業ヤードで配筋後にコンクリートが打ち込まれ、撤去から架設までを14日程度で上部工を完成できるようです。床版間の間詰コンクリートには現場打ちのUHPC(超高性能コンクリート)が用いられています。アバットのある桁端部は、延長床版のようなオーバーハング式のセミインテグラルアバットを標準化しています。

 ――とてもシンプルな構造ですね。不安な気もしますが
 並川 床版は剛性があり結構強い部材なので、完成された状態を考えれば地震への備えとして横桁は支点上だけで良く、床版と主桁で橋梁構造として成り立つのだと思います。JIS桁もそんなに横梁があるわけではありませんが、それに近い発想です。こうした先進的な構造が取り込まれています。

第4章 RC床版更新のための知見と情報
 合成桁に紙幅を割く 輪荷重走行試験の際の留意点についても示す

 ――NEXCO西日本を中心に採用が増加しているSCBR工法などにも似ていますね。さて、第4章のRC床版更新のための知見と情報については合成桁に紙幅を割かれていますがその狙いを教えてください
 並川 合成桁については第4章だけでなく、他の章にもちりばめる形で詳述しています。4章1の合成桁の歴史と代表的な建設事例にも記していますが、1953年に建設された神崎橋(大阪市、2代目で現在は3代目に架け替えられており存在しない)を皮切りに経済面で有利であったことから国内で数多く使われました。合成桁には完全合成桁もあれば不完全合成桁もあります。例えば連続桁であれば、負曲げと正曲げがありますが、正曲げのところは合成されているが、負曲げのところは合成されていないのが不完全合成桁です。切断合成桁もあります。合成桁を製作する過程で連続桁を作っていたのを支点上で切ってしまえば、それで合成されるという考えのものです。このように合成桁には様々な種類のものがありますので、その特性に気を付けて安全性を照査しなくてはなりません。受け持つ荷重に着目すると活荷重合成桁もあれば死活荷重合成桁もあります。死活荷重合成桁は、床版を外して除荷しないと合成が無くなった瞬間に構造的に不安定になる可能性があります。その辺を詳しく記しています。
 ――合成桁に手を入れるのは本当に難しいですね。外すときの馬蹄型ジベルの問題もあります
 並川 合理化されている主桁構造なので、床版取替が難しいのは確かです。一番安全なのは下からベントで支えて施工する方法ですが、桁下条件により難しい橋がほとんどです。過去の事例では支える代わりにアウトケーブルなどで桁を仮補強した上で床版を取り替えているものもます。何らかの対策をしないと合成桁に簡単に手を付けることはできません。


合成桁の補強例

合成桁特有の馬蹄型ジベル

 話は少しそれますが、今まで合成桁を架け替える際は、現場にベテランの優れた技術者を配置することができました。今後、合成桁の床版更新の数が増えてくると、ベテラン技術者が配置できなくなる現場もでてくるかも知れません。そのようなことを考えながら、経験の少ない技術者にとって役立ちそうな施工事例として、『3.1.5 鋼合成桁の床版撤去及び主桁補強』や『3.1.6 腹板事前切断仮添接による床版の急速撤去』を3章でも取り上げています。
 ――輪荷重走行試験の際の留意点についても示していますね
 並川 PC床版の輪荷重走行試験を行う場合、製作してからすぐに試験すると、その最中に乾燥収縮が出てくるため、その影響が輪荷重走行試験結果に出てしまうことが最近の研究で明らかになっています。それを考慮しないと評価を誤りかねないということを記述しています。
 ――4章でも疲労フリー鋼床版について言及されています
 並川 ここではさらに構造詳細や試験詳細、その結果について詳しく記しています。詳細は本文を読んでほしいのですが、性能試験は実働荷重と試験荷重のすり合わせも行っておりシミュレーションした結果、平リブ・全周溶接構造の採用によって国内のほとんどの重交通路線で疲労寿命100年を達成できると結論づけています。これを使えば、既存桁や下部工の負担軽減もできますし、拡幅も(既設床版がコンクリート製床版の場合)下部工をいじめずに行うことが可能となります。

 ――炭素繊維による主桁補強について
 並川 設計を進めていくと床版を取り替えた瞬間に桁に影響が出てしまうことがあります。また、床版を更新して現行基準で桁を照査すると主桁が持たないという計算結果が出ることがあるようです。そうした時に従来の鋼板接着よりも省力化できる工法として炭素繊維シートによる補強効果の研究成果を紹介しています。炭素繊維シート補強により終局耐力を上げ、横倒れ座屈や局部座屈を防ごうというものです。
 ――上部工の軽量化・急速施工を目標とした技術開発について
 並川 ここでは玉出入路で使ったUFC床版やワイヤーソーによる既設床版の急速撤去工法について、開発概要や、構造、工法詳細を記しています。切断方法については宮地エンジニアリングと首都高速などが開発した2種類の工法を紹介していますが、その他にも大林組、横河ブリッジ、コンクリートコーリングが開発した工法などがあります。


玉出入口でのUFC床版の架設

 ――支持桁による上部工の負担削減とは
 並川 既設RC床版を鋼床版に取替えることを念頭に開発した工法です。支持桁を軸方向に橋脚に渡し、既設床版の切断中に合成桁を支持する工法です。床版が外れて主桁が安定を失わないように主桁を下から仮設桁で支える方法です。
 路下構築による急速鋼床版更新工法も紹介しています。桁下の架設横梁に製作した新設鋼床版を配置し、既設RC床版を撤去した後に鋼床版を桁ごとジャッキアップさせて新しい床版を架設する工法(『Elevator-deck 工法』)です。


 ――さて、この書籍はどんな層に読まれたいと考えていますか
 並川 道路管理者、コンサルタント、ファブやゼネコンなどの元請に読んで欲しいと思っています。
 ――講習会が行われるそうですが
 並川 新型コロナウイルスの感染拡大により春に予定した講習会は延期しました。状態が落ち着けばガイドラインに沿って講習会は行いたいと思います。同様に出版も遅れていましたが、この6月(2020年)から販売されています。
 ――委員会ができた3年前と比べて事例も蓄積されており、出来たばかりながらバージョンアップは必須ではないでしょうか。NEXCO3社や都市高速各社だけでなく、国土交通省でも郷六橋(仙台河川国道事務所)のような事例が出てきています。後継委員会を設けての議論も期待したいですね
 並川 そうですね。少なくとも更新した床版というのは、事例をきちんと集めておけば、非常に参考になることが今回、報告書の作成過程で改めてわかりました。各現場で採用した床版パネルの種類とか、継手であるとか、交通規制状況やその他の施工方法が記録として残したいと思います。
 ――ありがとうございました。
(2020年6月22日掲載)

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