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大規模更新など床版取替における設計・施工の現時点の集大成

『鋼道路橋 RC 床版更新の設計・施工技術』が発刊

土木学会 鋼構造委員会 
鋼道路橋RC床版を更新する施工技術に関する小委員会 
委員長

並川 賢治

公開日:2020.06.21

 土木学会鋼構造委員会鋼道路橋RC床版を更新する施工技術に関する小委員会は、2020年6月に『鋼道路橋RC床版更新の設計・施工技術』を発刊した。同報告書は、大規模更新など床版取替における設計・施工の現時点の集大成ともいうべきもので、発注者や設計者、元請など上流に位置するものが、設計・施工計画の立案をどのように為すべきか、交通規制などの制約条件下でどのような施工を行うべきか、合成桁特有の課題に対してどのように対処すべきか、など実務者が直面する課題に応える内容となっている。同委員会で委員長を務めた並川賢治氏(首都高速道路東京西局長)に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

床版更新の設計と施工の最新技術を網羅的にまとめる
 工事の全体構想は必然的に道路管理者や元請が考える案件

 ――『鋼道路橋RC床版更新の設計・施工技術』の委員会設立の経緯と委員会で討議した概要から教えてください
 並川委員長 土木学会の鋼構造委員会内では、鋼橋道路床版に関する調査研究委員会において、松井繁之先生、堀川都志雄先生により多岐に及ぶ床版に関する課題の研究が行われ、次いで性格を少し変えて大田孝二氏、橘吉宏氏が床版の複合劣化に関する調査研究が継続して行われています。これらの研究は大変重要なことであり、我々は実務への橋渡しとして焦点を床版更新工事に絞り施工技術に関する検討を行うために本委員会を立ち上げました。
 前身としては、鋼橋の大規模修繕・大規模改築に関する調査研究小委員会(水口和之委員長)が2013~16年まで行われ、14年前後にNEXCO3社、阪神高速道路、首都高速道路が事業認可を受けた特定更新等工事の内容が討議され報告書としてまとめられています。
 その中でもNEXCO3社は、大規模更新のうち約9割を床版取替に関係する費用として見込んでいます。鋼橋の大規模修繕・大規模改築に関する調査研究小委員会では、床版更新の施工事例を8橋取り上げており、我々は床版更新技術を体系的に整理することはできないかと考えましたが、討議を重ねるうちに体系的な整理は殊の外難しいことがわかり、まずは実務者向けに床版更新に必要な知識と設計を始めるにあたっての留意点をまとめる必要性を感じ、報告書では床版更新の設計と施工の最新技術を網羅的にまとめることにしました。
 委員会で討議した内容は多岐にわたります。最初に各委員が有している話題を提供していただき、興味ある課題を取り上げて、その解決の仕方をどうするか?どのような工夫がなされたか?を、委員で共有するところから始めました。それを行っていくうちに徐々に共通するカテゴリーが明らかになり、床版更新工事の全体像が見えてきました。
 ――委員構成を見ると発注者や元請に属する技術者が多いですね
 並川 そうですね。床版取替に求められる特性を考慮して、広く公募するとともに足りないところは補足して委員構成を決めました
 ――それはどのような意味ですか
 並川 現場では要素技術はもちろん重要ですが、施工条件に直結する迂回路の適切な確保など全体構想も大切です。交通規制の条件、警察協議などで決まる施工上の制約は多く、それを前提に施工計画を作り込むのは専ら道路管理者、次いで元請です。警察協議に1年以上かかることなどはざらにあり、そこで時間を取ると工期は延々と長期化することになります。また、交通規制の方法も、多くの車線が規制できれば少ない制約で工事ができますが、規制できる車線が少ない現場では、曜日や時間帯によって供用する車線を変えながら、または(自治体などが供用する橋梁においては)交互交通をしながら、1車線ずつの施工を余儀なくされるという事案もあります。施工できる空間的制約や時間的制約――時間的制約は、交通量だけでなく騒音を生じる工程は昼間のみの施工に限られるなどの制約も該当しますが――が施工条件となるため、それを理解し、把握しないと施工はスムーズにはできません。工事の全体構想は必然的に道路管理者や元請が考える案件となります。今回はそのようなことも討議できる体制としたうえで報告書ではそのような点もまとめています。

 




施工時の制約条件が大規模更新の施工のしやすさを決める。切断など騒音を伴う工事は昼間に行う
 (上段:早月川橋、中段:小早川橋・弓振川橋、下段:(左)首都高、(右)高瀬橋で活用したロードジッパー)

設計・施工・全体総括等のWGにわかれて活動
 第1章 RC床版の健全度評価と更新の考え方について詳述

 ――よくわかりました。では本の構成をお願いします
 並川 第1章は現在のRC床版の現状、第2章はRC床版を更新するに当たり抱えている問題や課題への対応方法を示すと共に設計や施工を進めるに当たり配慮すべき事項を整理しました。第3章は課題別の解決のヒントになる施工事例を集めて掲示しました。第4章はよりRC床版に関する理解を深めるために合成桁の種類と考え方などの最新の知見と技術を紹介する――という構成になっています。
 委員全体が理解を深めた上で、設計・施工・全体総括等のWGにわかれて活動しました。
 ――どのような損傷状況、供用状況の床版が更新に該当するのか、健全度評価と更新判定の考え方について
 並川 第1章では、RC床版の現況、設計基準の変遷、損傷状況、損傷要因などを丹念にまとめ、RC床版の健全度評価と更新の考え方について詳述しています。
 RC床版は点検と調査による損傷や劣化の状態に基づいた健全度評価が全国的に行われており、各管理者によって補修・補強あるいは更新計画が立てられて対策が行われています。対策の具体的内容は損傷状態や健全度評価だけでなく、予算や施工条件、交通量、周辺環境、重要度、建設年次などを考慮して総合的に判断されています。状況に応じて予防保全がなされ延命化して更新を遅らせることもあり、まさに予防保全、補修・補強、床版更新――上部工の更新を含めて――は常にせめぎあいをしているのだと思います。点検結果の整理や補修・補強計画あるいは更新計画の根拠をまとめ後世に残すことは、今後のRC床版更新の技術向上に欠かすことができません。

 報告書は、高速道路各社や国の健全度評価の事例を紹介し、使用限界に達していないRC床版のコスト比較に基づいた更新の考え方も詳述しました。
 ――具体的には
 並川 NEXCO3社は共通の基準を使用しています。主桁と横桁で仕切られたパネルごとに損傷度を判定し、その程度と多寡で更新の有無や時期を判断するという手法を整えています。また、NEXCOの判定フローを見ると、古い基準で造られた床版、具体的には1988年以前のものは基本的に取り替える方向となっています。塩分総量規制前のRC床版は、床版取替が前提になっているわけです。もちろん塩分だけが問題であるわけではなく、60~70年代に作られた版厚が薄く鉄筋量の少ない床版もその中に含まれてきます。それ以降のものも指標がいくつかあって、凍結防止剤散布量、大型車交通台数、ASRの影響なども勘案して、先ほど話した床版のパネルごとの損傷状況を見て、床版を取り替えるのか、断面修復して床版防水する大規模修繕に留めるのかを判定しています。また、損傷のない床版についても予防保全的に高性能床版防水を施しています。加えてRC床版に対するグースアスファルト防水についても試験施工を開始しています。


損傷判定例(東北自動車道迫川橋、弊サイト既掲載)

 ――首都高速及び阪神高速は
 並川 首都高速や阪神高速はNEXCO3社の寒冷地ほど凍結防止剤を撒いてないためだと考えられますが、砂利化などの極端な床版の痛みはありません。これまでRC床版はひび割れ状況で健全度を判断していますが、予防保全により損傷の進行を食い止めている状況です。

 両高速道路とも1960年代後半あたりから、古い床版で非常に鉄筋量が少なく版厚が薄い床版に対しては、車両荷重への備えとして鋼板接着や縦桁補強を施しています。それがよく効いており、ひび割れの進行を防いでいる状況です。
 水による劣化の進行に対しては、両高速では複合床版防水工で防ごうとしています。
 ――国土交通省や自治体については
 並川 国土交通省(や自治体)は橋梁定期点検要領(やそれを基にした各自治体の要領)に基づき、点検記録をカルテとして収めています。鋼橋RC床版の評価については、橋軸直角方向と橋軸方向のひび割れに分けて、ひび割れの間隔、幅に応じて状態を記録しています。記録は外観上の特徴だけではなく、推定される損傷原因、進行性についての評価、他の損傷とのかかわりなど道路管理者が対応方針を判断するために必要な事項を記録しています。
 ――床版取替に関して、NEXCOは比較的わかりやすくフローを作っており、都市高速2社は、取替の必要が現時点では薄いまたは少ないということですが、国交省や自治体も含めて、今後の取替の判断はどのように考えていけばいいのでしょうか
 並川 修復不可能な程度に損傷した床版の取替は判断に迷うことはないのですが、中間的な状態の判断の一つの方法として、予防保全的な観点から「コスト比較に基づいた更新の考え方」(1.5.3)で触れています。新設から30年が経過したRC床版を補修・補強を繰り返しながら管理し、60年で健全性を失うことを前提にLCCを試算することにより、どの地点で床版を取り替えることがLCCとして優位になるか? また、どの時点が床版機能の限界に達するか? を推定し、更新の判断の目安を掲示しています。構造物は何れも同じだと思いますが、ある領域を超えると管理が難しくなる点があり、特に古い基準で設計、施工された床版に関しては、更新の見極めが大事であるということです。ただ、コストの算出に関しては、施工の実費だけでなく、交通規制や通行止めによる社会的損失も考慮しなければならない場合もあり、注意が必要です。
 ――そういう場合は、床版補強ということで、ここでも触れていますね
 並川 今まで実績のある補強工法について、損傷を防ぐために何を使えばいいかを示しています。縦桁増設、鋼板接着、上面増厚、下面増厚、炭素繊維シート貼付けなどの各種補強工法があります。

次ページ 第2章 床版更新の課題への対応と設計・施工における配慮事項

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