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海峡部の耐震補強は2020年度末までの完了めざす

本四高速坂出管理センター 瀬戸大橋を含む約18kmを管理

本州四国連絡高速道路
坂出管理センター
所長

西谷 雅弘

公開日:2019.12.23

鋼橋塗替え 2018年度は約31,800㎡、 19年度は約30,300㎡施工
 来年度から省工程型塗料の適用も模索

 ――鋼橋塗替塗装の2018年度実績と19年度の予定について教えてください
 西谷 瀬戸大橋区間の塗替塗装は、平成18年度(2006年度)から本格的に実施しており、令和元年度(2019年度)で14年目に達しています。平成30年度(2018年度)は、下津井瀬戸大橋(㊱)の補剛桁約4,100m2(他の吊橋2橋の補剛桁部はすでに完了)、与島橋(㊲)の補剛桁約14,700m2、番の州高架橋トラス部の補剛桁約3,500m2、櫃石島橋の塔部約4,900m2、岩黒島橋の塔部約4,600m2(斜張橋2橋の補剛桁部はすでに完了)を塗替えました。塗替えに期間を要する補剛桁のうち、紫外線や降雨により劣化しやすい部材を中心に塗替えてきており、全体の進捗率は約62%までに達しています。3年前(平成28年度)からは斜張橋の塔の塗替えにも着手しています。
 今年(平成31年(2019年))3月10日には、夜間一時通行止めを行い、路面防護工(㊳)を櫃石島橋の南塔から岩黒島橋の北塔に移設しました。路面防護工は、塗替塗装工事中における通行車両への落下物対策及び塗替用仮設ゴンドラの発進基地となる仮設材です。
 令和元年度(2019年度)は、下津井瀬戸大橋の補剛桁約5,100m2、与島橋の補剛桁約12,300m2、番の州高架橋トラス部の補剛桁約3,500m2、櫃石島橋の塔部約500m2、岩黒島橋の塔部約8,900m2について、塗替塗装を施工しています。岩黒島橋の塔部に関しては、北塔の内側の面(路面上に位置する部分)について、路面防護工を使って塗替塗装を行っています。吊橋の補剛桁の塗替塗装は、今年度(令和元年度(2019年度))にて、全て完了する見込みです。
 ――新しい重防食塗料の採用について
 西谷 平成23年度(2011年度)から、より耐候性に優れる高耐久性ふっ素樹脂塗料を採用しています。現在、中塗りと上塗りを兼用できる省工程型塗料の開発に取り組んでおり、早ければ、来年度(令和2年度(2020年度))から、同塗料を採用した塗替塗装を実施することになるかもしれません。

塗替塗装の素地調整は3種ケレンが基本
  無機ジンク凝集破壊 鋼床版裏などで発生

 ――塗替えに際して、既設塗膜にPCBや鉛などの有害物質が含有されているかどうかは把握していますか
 西谷 旧塗膜の製造メーカーヒアリング及び表面分析の結果、PCBの含有はなく、鉛・クロムは微量ではありますが含有している可能性があることを把握しています。瀬戸大橋で採用している塗装系はエポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料であり、塗替えには上塗り・中塗りのケレンが主となります。PCBは主に塩化ゴム系塗料に含有されており、その点を考慮すれば、瀬戸大橋で使用されている塗料中に存在する可能性は低いと言えます。鉛・クロムは鉛丹さび止めペイントや亜鉛化鉛さび止めペイントなどの防錆・着色顔料として使用されており、確実に存在しますが、3種ケレンが主で、下塗りまでの3層は残置し、中塗り・上塗りの2層を塗替える手法ですので、塗替えに際して、鉛・クロムは基準値以下に抑制できると考えています。ただし、作業環境の測定調査の結果によっては、ケレン工具の研磨ディスクを変更するなど作業環境の改善措置を講じています。また、素地調整作業中は常に防塵マスクを使用しています。
 ――無機ジンクリッチ塗料の凝集破壊については
 西谷 鋼床版の裏で発生している箇所があります。グースアスファルト舗装を舗設した時の熱が酸化させる一要因と推定されています。それ以外の個所でも水や酸の浸入により、損傷した個所が出てきています。損傷メカニズムは未だはっきりわかっていませんが、中塗り・上塗りが劣化ないし消耗し、水・塩分などが入りやすくなっている箇所で凝集破壊が生じているのではないかと推測しています。

新技術 世界標準のケーブル送気乾燥システム
 赤外線サーモグラフィを用いて鋼床版の亀裂を検知

 ――新技術やコスト縮減策は
 西谷 まず、一つ目は、当社が世界に先駆けて開発したケーブル送気乾燥システムです。ケーブル内部の管理目標値は相対湿度40%以下としており、本州四国連絡橋の吊橋10橋全てに導入している他、国内では、白鳥大橋、レインボーブリッジ、安芸灘大橋、豊島大橋、平戸大橋などに導入されています。世界中の相当数の吊橋にも導入されており、すでに世界標準となっています。先ほど申し上げたシール補修の他、モニタリング設備を更新し、相対湿度の自動計測を進めています。
 二つ目は疲労亀裂の検出技術です。
 神戸大学・滋賀県立大学と共に、鋼床版裏のデッキプレートとトラフリブの溶接部の亀裂を検出できる手法を開発しました。
 ――どのような方法を用いたのですか
 西谷 赤外線サーモグラフィを使用した温度ギャップ法を応用した非破壊検査技術(㊴)です(編注:土木学会構造工学論文集 Vol.64A(2018年3月)、溝上善昭、奥村淳宏、大藤時秀、和泉遊以、阪上隆英共著『赤外線サーモグラフィを用いた温度ギャップ法によるUリブ鋼床版のビード貫通亀裂の自動検出と装置開発』に詳しい)。路面が日射を受けて舗装が暖められると、デッキプレートからUリブへ熱が伝わりますが、溶接部に亀裂があると熱の伝わり方が阻害され、健全な箇所と比較して、顕著な温度変化(温度差)が生じます。それを拾うことにより、亀裂の検出を行うというものです。
 瀬戸大橋区間では、平成30年度(2018年度)末までに、走行車線を中心にトラフリブの調査を順次行っており、調査対象パネル総数545パネル中、280パネル、調査対象溶接線総数8,201溶接線のうち、3,961溶接線を調査しており、これまで、亀裂などの変状は見つかっていません。未調査個所も令和3年度(2021年度)末までには完了させるべく進めています。

直下に鉄道があるPC箱桁部でアルミ合金製常設足場『cusa』を採用
 採用延長は4橋:2.2km

 ――新技術の最後の質問です。パネルによるコンクリート桁の表面保護工について
 西谷 今までも鋼桁については鳴門管内の門崎高架橋でチタンカバープレートを用いるなど、防食と管理用通路の機能を併せ持ったパネルを設置してきました。瀬戸大橋区間は上層が道路、下層が鉄道の2層構造になっており、コンクリート橋においては、飛来塩分による塩害の発生が懸念される厳しい環境下にあります。そのため、維持管理の効率化、鉄道への第三者被害の予防さらには塩害対策という3つの観点から、PC橋上部工に対してアルミ合金パネルを使った表面保護工(㊵)の設置を実施することにしました。ここでは、アルミ合金製の常設足場である「cusa」を採用しました。施工にあたって懸念したことは、PC桁に削孔してアンカー定着するという点です。(保護工の落下を防ぐべく)アンカーは全て箱桁のウエブに水平方向に打設し、箱桁の底面に鉛直方向には打設しない構造としています。同区間のPC箱桁にはコンクリートの浮きや剥離といった変状はこれまでわずかであり、むしろ同区間では橋脚のコンクリート部において浮きや剥離を撤去した実績がある程度です。30年経過しているPC橋ですが、非常に良いコンクリートを使って丁寧に施工されたという印象を、このパネル設置の工事を通して、改めて確認できたところです。将来、直下の鉄道に気兼ねすることなく近接目視点検を実施できるという点は維持管理の効率化に大きく寄与すると考えます。
 パネル設置対象橋梁は、PC高架橋4橋(下津井瀬戸大橋のPC桁部、櫃石島高架橋、岩黒島高架橋及び与島高架橋)であり、総延長は2.2kmに達します。平成30年度(2018年度)に櫃石島高架橋から着手し、今年度(令和元年度(2019年度))、HVa1P~4P間(㊶)の0.1kmが完了する予定です。引き続き、HVa4P~16P間の0.42kmを施工していきます。



cusa内部の状況(井手迫瑞樹撮影)

 ――アルミ合金製にした理由は
 西谷 同種の防食兼用常設足場に比べて初期コストが安かったからです。
 ――付言することがあれば
 西谷 当社の経営理念を踏まえ、安全・安心・快適に、200年以上の長期にわたって瀬戸大橋をご利用いただけるよう、万全な維持管理を実施していく所存です。技術開発を行いながら、また、予防保全のコンセプトを基本としたアセットマネジメントに取り組み、LCCを縮減することに努めていきます。また、当管理センターは、道鉄併用区間12.3kmを維持管理していますが、点検・補修のためのアクセスが非常に困難な状況下にあります。一方、瀬戸大橋には代替となる道路がありません。通行止めをできるだけ避けるためにも、適切な維持管理を適切な時期に実施するように努めていきます。
 ――ありがとうございました

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