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インタビュー詳細

0.01mm幅の微細クラックにも樹脂を充填

IPH工法協会 加川順一理事長インタビュー コンクリート構造物の強度回復と長寿命化を実現

一般社団法人 IPH工法協会
理事長
(SGエンジニアリング株式会社 代表取締役)
加川 順一 氏

「補強」の分野でもIPH工法を活用する

 ――IPH工法での橋梁補修は

 加川 徳之島や対馬、佐渡島などでの事例となりますが、点検で架け替えの判定をされた橋梁がありました。橋梁を管理する自治体では架け替えではなく補修で人の通行だけは確保したいと考え、IPH工法を採用してくれました。結果的に人だけではなく自動車の通行も可能となる強度回復ができました。コンクリート表面の雨水侵入防止対策と比較すると、IPH工法はコストがかかりますが、自治体からすれば、架け替えよりも経済効果は高くなります。

 長さ10m以上の橋梁を50年経過したらすべて架け替えを行えば、全国で約150兆円かかります。それをIPH工法で補修すれば10分の1の15兆円ですみます。積極的にIPH工法が採用される土壌ができれば、構造物の健全化は進んでいくと考えていますし、老朽化した橋を取り壊すのではなく、直していくという方向に徐々になっていくと思います。

 実際の現場でもIPH工法で試験的に補修し、その検証をしてくださいと提案をしています。一部分だけでも試験施工を繰り返すことによって、必要な対策やその有効性が見えてくると思いますし、私たちもその規模に応じた施工人数や材料量、工程がわかるようになります。

 これまで樹脂注入は補修の分野で活用されてきました。平成13年には日本コンクリート工学会の教書のなかに、補修のあとに補強という言葉が樹脂注入工法の分野で初めて記載されましたが、その点では多少なりともIPH工法が補強工法であることが伝わった結果ではないかと思っています。

 樹脂注入による耐久性向上、強度回復で補強レベルまで達するのは当たり前のことというレベルまで持っていきたいのが私の思いです。そのために、さまざまな橋で施工前と施工後の検証を進めていきますし、京都大学と共同で構造物内部の健全化をAEトモグラフィによる非破壊で確認するという一歩踏み込んだ形での検証も考えています。

 さらに、コンクリート構造物の強度増強においてIPH工法を活用することによって、耐震補強の領域まで到達できるのかということもあります。もちろん、鉄筋の配筋量や断面の鉄筋量によって構造体の耐力は決まりますが、鉄筋とコンクリートを接合形態にすることで、耐力がせん断破壊で約1.5倍増大します。その状態が耐震補強になるという証明が必要で、今後取り組んでいきたいと考えています。


注入孔の穿孔は深さ土木70~100mm、建築50~70mm

 注入ポイントは1㎡あたり36箇所

 ――IPH工法の具体的な施工手順について

 加川 下地処理→穿孔→台座取付→漏れ止め材塗布→注入→加圧養生→カプセル・台座撤去→表面処理となります。

 ――穿孔の深さや径は

 加川 深さは基本的に、土木では70~100mmとしています。ひび割れは粗骨材の周囲をたどって発生します。その粗骨材の大きさが粒度で言えば約25mmという判断をしていて、3つくらいの粗骨材を抜けた位置となります。その近くに鉄筋があれば、そこから鉄筋の長さ方向に対しては部材にもよりますが約2m程度、樹脂が広がっていきます。穿孔径は7mmが一番安定しています。穿孔は、注入孔に粉塵を残さない水循環式のミストダイヤを使用して行います。



穿孔作業


 ――台座(注入ポイント)のピッチは

 加川 実験や施工実績から166mmとしています。それで注入ポイントは1㎡あたり36箇所になります。注入ポイントが多ければ、増強率はあがりますが、コストの問題が出てきます。

 ――台座にカプセルを取付け、樹脂を注入していくわけですが、どのような樹脂を使用しているのでしょうか

 加川 エポキシ樹脂をベースとした特殊混合のものです。コンクリート内部は湿潤状態ですので、その水分と融合できる親和特性を持たせた樹脂としています。

 ――コンクリート内部の空気はどのように抜くのでしょうか

 加川 台座にカプセルを取付けて樹脂を注入する時にリング状に抜きます。カプセルの先端にはスリットが入っていて、カプセルを作動させると注入樹脂が細く注入孔に飛び出していきます。先端部に樹脂があたった時に、注入孔を反転してきた空気をスリットを通して台座の根元から抜いていきます。吸盤作用と一緒で、周囲の微細なひび割れ部の空気も一緒に抜けていきます。そして、樹脂が充填されます。空気と樹脂を置換するわけです。



注入を行うIPHカプセル


注入と加圧硬化養生


 ――樹脂の充填時間は

加川 カプセルで注入を開始して微細なひび割れ部まで充填するのは、約40分となります。その後、加圧状態で硬化させます。基本のガイドラインでは気温15℃/10時間で実用強度に達することになります。


協会の会員企業数は131社、施工者数は1,500人

 土木遺産の橋をIPH工法で補修

 ――平成26年にIPH工法協会を設立されています。現在の会員企業数と施工者数は

 加川 131社で、1,500人の施工技術者となっています。

 ――IPH工法の事業規模は

 加川 協会では会員企業の売上は把握していませんが、1社あたり年間約2~3億円の規模だと思いますから、全会員で260億円ぐらいの事業規模を目指しています。

 ――施工実績を教えてください

 加川 橋梁では、PC橋の宮神橋(富山市婦中町)でのひび割れ注入と断面修復注入、千代富橋(島根県)でのひび割れ注入と豆板等断面修復注入(現在も施工中)、牛田大橋(広島市東区)での床版の補強としてひび割れ注入と断面修復注入などがあります。土木遺産の橋である新佐賀橋(埼玉県)では、大学の先生方や自治体の技術者が補修・補強でIPH工法を採用すべきだと判断していただき、平成27年11月にひび割れ漏水対策注入・断面修復注入を行いました。

 トンネルでは、広島空港本郷線道路の用倉トンネルでひび割れ注入を、沈埋式海底トンネルの衣浦トンネル(愛知県)でひび割れ漏水対策注入と断面修復を行っています。国道2号の岡山と兵庫の県境にある片山トンネルでは漏水対策をしています。愛媛県にある町道面河線関門第2トンネルは漏水がひどく、はく落の可能性があるので通行止めにしていましたが、IPH工法で修復して現在は通行可能にし、観光コースとして蘇りました。



トンネルでの穿孔・注入作業


 ――協会としての現在の取り組みは

 加川 会員企業が34都道府県には分布していますが、まだ15県に会員がいません。従って、未だ全国の都道府県に分布が完了していない状況です。それを全国47都道府県に広げることが今年の目標です。ただ、全国展開をあせってはいません。技術をしっかりと理解して、構造物を健全化しようという認識を持った会社と一緒にできればいいと考えています。もうひとつの目標は、施工者を1,500人から5,000人にすることです。IPH工法を主事業としてビジネスをする会社も少しずつ出てきていますので、しっかりとした施工ができる人を増やしていくことは必要ですし、全国レベルの組織にしていくにはその程度の施工技術者は必要だと考えています。その取り組みのひとつとして、研修所を昨年4月につくりました。

 ――研修所ではどのようなことを

 加川 施工者の養成を行っています。これは会員となった企業の施工者全員が対象です。さらに、その施工者を統括する管理者の養成や、協会を背負って動いてもらう人の養成も考えています。施工指導員は現在7人いますが、全国展開を考えると20人くらい必要になると思います。



広島市にある研修所


 施工者養成は、現在月1回のペースで理論講習と施工技術講習を1日で行っています。道具の持ち方から施工手順まですべてを体得してもらおうとすると1日で15~20人が限度となりますが、それでは足りないと感じていて、もう少し規模を大きくしたいと考えています。さらに、施工者のライセンスを5年としていますので、来年から再講習が始まります。

 樹脂の充填が安定的にできるように講習会を行っていますが、一番重要なのは使命感です。自分の仕事に対するプライドもありますが、コンクリート構造物を健全化することを徹底的に行っていくことが大事であると認識してもらうことが必要です。また、協会をそういう人の集団にしていきたいと考えています。

 ――最後に

 加川 地球上で人間は自然には勝てない現実がありますが、人の作ったもので命を失うことがあってはなりません。そのようなことがないようにコンクリート構造物を健全化するという考え方で、IPH工法を活用できればいいと思っています。

 ――ありがとうございました

(2018年2月28日掲載 大柴功治)