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インタビュー詳細

「部分係数設計法」及び「限界状態設計法」を導入

平成29年度 道路橋示方書改定について

国土交通省 国土技術政策総合研究所
道路構造物研究部
橋梁研究室長
白戸 真大 氏

 今次道路橋示方書改定の大きな改定点は、部分係数設計法と限界状態設計法を導入されたことだ。これらを導入したことによって何が変わり、何が変わらないのか。導入した狙いはどこにあるのか、国土交通省国土技術政策総合研究所道路構造物研究部の白戸真大橋梁研究室長にインタビューした。(井手迫瑞樹)


多様な構造や新材料の導入が可能に

 ――今次の示方書改定について

 白戸 部分係数設計法は、外力、抵抗力それぞれに対して、安全率を要因毎に細分化して設定することで、安全性を確保しつつ、きめ細やかな設計が可能となり、構造の合理化がはかせるように導入しました。限界状態設計法は、大地震だけでなく、様々な状況に対して安全への余裕や機能状態を明確に確保することができるなど、橋に求める共通的な性能が明確にできるものです。いずれも、多様な構造や新材料の導入が可能となるよう取り入れました。


改定のポイント(国土交通省公開資料より抜粋、以下注釈なきは同)


 ――現場には大きく変わったのではという戸惑いと何も変わっていないのではという声もあります

 白戸 それはどちらもあり得る反応だと思います。何に重きをおいて見るのかによるのでしょう。

 今次改定は、将来出てくるであろう未知の材料、構造に向けて、基準としてその性能を評価する方法論や枠組みを刷新したものです。これは既設の補修補強、リニューアルも含めます。部分係数設計法の導入は、従来の示方書において「安全率」1つの指標に押し込まれていた、しかし実際には多様な観点の複合である安全率を、部分化しました。即ち外力は車両や車両列、温度、風、地震などのばらつきやその組合せ比率、抵抗力は材料や施工、強度計算式の誤差、部材挙動特性などという風にです。これらを明示して直接的、恒久的に評価できるようにすることで、新しい部材の組合せによる橋、又は、部材構造、又は、材料を評価し易くし、新たに導入し易くしました。


改定ポイントの詳細


設計哲学を変えた改定

 共通編の1章と6章を読み込んで欲しい

 橋梁はすでに単一の材料ではなく、鋼・コンクリート複合構造や耐震補強における炭素繊維の活用など既に新しい構造や材料の組み合わせが増え、当り前の状況になっています。今後はさらに新しい構造や材料の組み合わせがたくさん出てくるでしょう。また、既設においては、構造物自体の初期応力なども当然あります。

 そのため、たとえば、構造全体をきちんと評価し、さらには部材を自由に組み合わせるためには、まず、許容応力度設計では成しえない、実際に橋が遭遇する状況を踏まえた荷重組みあわせ比率で荷重を組みあわせ、与える必要があります。このためには、部分係数の概念を用いて、外力の組みあわせを見直すことが有効です。

 また、抵抗側に目を移せば、原因が何にしろ、突発的に落橋するような橋は望ましくないはずです。そのためには、部材が多少非線形化した時に橋梁構造全体がどのように挙動するのかを意識して設計することも必要になります。つまり、部材を自由に組み合わせるといっても、組み合わせる部材について、部材の非弾性挙動の違い、そこに与える個々の材料の違いが反映でき、また、計算通りに挙動するという再現性、確実性が重要になります。そこで、部分係数設計法や限界状態設計法という考え方が有効になります。部材および構造の限界状態をはっきりさせる、また、その再現性や確実性の確認方法をきめ細かく行い、必要なチェック項目をはっきりさせました。従来の示方書ではそこも設計者が考えなければいけませんでした。その労力を軽減したといえます。


部分係数設計法と限界状態設計法


 そういう点で、新しい示方書を読むためには、設計にあたっての思想、哲学が打ち立てられ、それによって、章構成も変わったり、出てくる用語も変わっていたりだけでなく、荷重の組みあわせが変わっていたりします。実務において、今回のものが前回までの示方書とどう変換されたのかという目で、対応を見つけようとすると混乱するかもしれません。思想そのものが変わっていますから改定前の示方書とはきれいに対応しません。素直に今次示方書の体系を理解するように読んでいただきたいと思います。まず、共通編の1章と6章を読み込んで欲しいと考えています。

 一方で、計算そのものについては、難しく考える必要はありません。基本的には荷重をかけて、断面力、応力、変位を算出し、また、それと比較する値を算出し、比べるわけで、今までとほぼ同じ実作業で設計することが可能です。また、これまで設計された標準的な橋の性能に過不足があったというわけではないという認識であり、改定された今回の示方書を使って設計しても先に述べたとおり、通常の橋梁設計の結果においては劇的な変化はありません。


変化を前向きにとらえて欲しい

 ――新しい材料や工法、構造を入れやすい枠組みを今回作ったということですね

 白戸 そうです。枠組みを変えたということは画期的な改定と言えます。共通編では橋の重要度を示すことを求めるとともに、設計供用期間を100年と明示しています。それに基づいて限界状態や部分係数の枠組みを決め、発注者の求めるニーズを提示することで、提案もし易くなりますし、インハウスエンジニア自身もチェックし易くなります。データが少ない場合には、少ないなりに適用を工夫したり、安全率を高めに設定することで、一定の信頼性を確保したうえで、使えるようにすることも考えています。その意味で、枠組を作ったことで、橋の姿が変化するのは、枠組に沿った形での様々な研究の充実が進んでからになります。

 ――その「安全率」について、部分係数設計法や限界状態設計法の導入によって合理的な構造を追求するあまり、構造物によっては安全上の余裕がなくなってしまうのではないか? という懸念を示す技術者もいます

 白戸 それは示方書改定のイメージが先行し過ぎていますね。今次改定においても基本的には今までと同様に構造物が耐震的にも経年的にも安全性を保つことができるような枠組みを作っています。改定した示方書においては、橋という構造物の限界状態に対して安全性が保つことといった条文があるわけです。限界状態設計法を導入した理由のひとつは、部材を自由に組み合わせるうえで、もし部材単位での安全性の確認だけではなく、また、新しい材料を用いた部材について照査式がない場合など、場合によっては、部材および全体系で再確認もできることを明確化したことにほかなりません。今までは逆に、性能規定化とは言え、橋全体としての性能を確認する方法の切り口が明示されていませんでした。何しろ許容応力度設計法しかありませんでしたから。「合理化」できる余地があるとすれば、むしろ橋梁の限界状態に基づく安全性を証明した上で合理化してもらうわけです。目標を示しているわけですから前向きに捉えて欲しいと思います。