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インタビュー詳細

防食と景観を区別した維持管理を

鋼構造物の「適切な防食」とは何か

九州大学大学院
准教授
貝沼 重信 氏

腐食進行性の定量評価手法にも取り組む

 重要部位の塗膜劣化後の状況を把握

 ――どのような方法ですか

 貝沼 先程、お話した小片裸鋼板(60×60×3mm)(図1)を対象部位に貼付し、大気暴露で生じた錆の厚さから塗膜劣化後の部材の腐食深さを推定する現場での実用性に配慮した簡易方法です。錆厚と腐食深さの関係式は、飛来海塩量や雨洗の有無を考慮した4地点で大気暴露した約300体の鋼板試験体から提案しています。小片鋼板は構造物の対象部位の表面起伏に配慮して温度変化と追従させるために、熱伝導ゲルシートを介して両面テープで貼付します。これまでは熱伝導をあまり気にせず、両面テープで鋼板が貼り付けられていましたが、対象部位と鋼板の温度が違うと乾湿挙動も異なり、それにより付着する海塩量なども違ってくることが懸念されます。特に、部材の日射の影響を受ける部位の裏面やその周辺の日陰部などでは、比較的大きな差異が生じやすくなります。

 この方法を使って、吊橋(写真4)や橋梁下のダム建設前後における各部位の腐食進行の経時性などを評価してきました。構造上重要な部位の腐食進行性を定量評価することで、腐食しやすい特定部位については素地調整グレードをあげたり、塗膜の仕様を一部変更するなどの予防保全や効率的な維持管理手法を提案できます。


 ――ダム建設後に水位が上がると腐食しやすくなったのですか

 貝沼 ダム建設前後でそれほど腐食の進行性は変わりませんでした。ダム建設により水位が上昇すると湿度が高くなり、腐食しやすくなる感覚がありますが、ダム建設中に周辺の森林を伐採したため、橋梁周辺の通風性が向上し、腐食進行性があまり変わらなかったと考えられます。こうしたことからも経験や定性評価ではなく、腐食進行性を定量評価することが重要だと思います。


ジョイント部は非排水のみではなく雨洗浄と導水に着目した対策も検討すべき

 雨洗効果と濡れ時間短縮による腐食環境の改善

 ――桁端部防食といえば、非排水型の伸縮装置により相当程度、損傷を抑える試みも一般的になっています

 貝沼 そうしたジョイントも経年劣化などによって、漏水することになると思います。伸縮装置を取り替えたり、補修した場合でも漏水を長期間にわたって完全に防ぐことは難しいと考えています。桁端部の腐食環境を悪化させるのは、少量の漏水が断続的に桁に流れてくる状況(水分と塩分(凍結防止剤散布時期)の供給を繰り返し、かつ付着塩の雨洗効果までには至らない)です。であるならば、伸縮装置を排水構造として、桁端部の雨洗後、雨水を速やかに導水する工夫をして、濡れ時間を短縮することで、腐食環境を改善するような構造に改良することも考えられます。

 崩落した辺野喜橋でも外桁の内側や中桁では飛来海塩が付着・蓄積することで部材を破断するような腐食が生じていましたが、外桁の外側については、降雨による付着海塩の雨洗効果によって板厚がほとんど減少していませんでした(写真5)。このように、飛来塩環境や凍結防止剤を含む漏水環境では、降雨は腐食の進行を抑制する作用があります。

 数年前に都市内高架橋の桁端漏水部の腐食進行性について、小片鋼板を貼付・暴露することで評価しました。伸縮装置の劣化により非排水機能が低下し、僅かな漏水が生じることで、腐食速度が漏水の影響がない部位の6倍以上になりました。


発注、設計、施工の立場で腐食対策への考え方が異なる

 供用後1年間でも腐食進行性をモニタリングすべき

 ――腐食環境の厳しい部位では、本来、設計段階で相当考えなければいけないということがわかりますね

 貝沼 部材の滞水を防ぐために、設計時に排水孔が配置されますが、実際の橋梁では排水孔がほとんど機能していない場合が多々あります。また、橋台上の雨水を集めて排水する設計が,逆に排水溝を詰まらせ、滞水を誘発して橋梁の腐食環境を悪化させるなど、設計で腐食に配慮したが、実際に機能しない失敗事例がいろいろあります。このような工夫は、橋梁建設後に実状に即して行うことが効果的であるため、腐食が深刻になる要因発生の時点で早期に実施できるように発注者、受注者、施工者などの体制を整える必要があると思います。

 昨年の土木学会全国大会(仙台)の討論会でも議論されたのですが、発注者、設計者や施工者などのそれぞれの立場で腐食対策に対する考え方が随分違っています。防食の失敗事例も含めて情報を開示し、様々な立場の方の知見や考え方を共有しながら議論していく必要があると思います。こうした取り組みは、土木分野だけではなく、同じような課題を抱えている他の産業分野ともやっていく必要があると思います。

 設計・建設段階で腐食対策が難しい場合であれば、橋を架けた後に最低1年間だけでも腐食環境や重要部位の腐食進行性をモニタリングする必要があると思います。その結果から、どの部位の、どの範囲に重度な腐食損傷が生じるリスクがあるのかを早期に見極め、適切な予防保全をする必要があると思います。橋梁の架設直後から、モニタリングや滞水・漏水などの腐食要因の観察をしていくことが、維持管理費を大幅に縮減するための効果的な予防保全につながると考えます。