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インタビュー詳細

防食と景観を区別した維持管理を

鋼構造物の「適切な防食」とは何か

九州大学大学院
准教授
貝沼 重信 氏

大気中の犠牲陽極防食技術を検討

 桁端部周辺は板厚を増して取替るべき

 ――塗装が悪くても手をかけなくて良い場合とは具体的にどのような橋を想定していますか

 貝沼 比較的規模が小さい自治体などが管理する高度経済成長時に建設された橋梁では、一度も塗装塗り替えされず、橋梁全体の塗膜が劣化・消失している場合があります(写真2)。しかし、塗膜が消失しているにも関わらず、腐食がほとんど進行していないことがあります。このような橋梁で腐食が問題になるのは、路面からの漏水や滞水の影響がある桁端部などに限定された部位のみです。この腐食が早い部位を最優先に対策すれば、最小限の維持管理費で橋梁全体を長寿命化できます。


 ――予防保全とはどのような手法を考えておいでですか

 貝沼 新しい手法の1つとして、従来、海水中の鋼部材の防食方法として、一般に使われてきた犠牲陽極防食を大気中で実現する手法を考えています。これまでの塗装をはじめとする防食皮膜の耐久性や防食性能は、塗替え時の鋼素地調整に大きく影響を受けます。例えば、狭隘部や入隅部ではブラストであっても鋼素地の品質を十分に確保することが難しい部位が多々あります。また、部位によっては、ブラストが一切できないところもあります。このような部位で著しい腐食が生じると、鋼素地調整の品質は期待できません。この問題をブレイクスルーするために、素地調整の品質に左右されない大気中の犠牲陽極防食技術(写真3)を九州大学、三井造船、日本軽金属、東洋紡との4者共同研究で検討しています。この技術は腐食環境に応じて防食電流の大きさが変化します。腐食環境が悪化すれば防食電流が大きくなり、環境が良くなれば電流が小さくなると言うことです。

 最近、電気化学試験などによるラボ基礎研究やモデル試験体の実証試験を終えて、実際に凍結防止剤を含む漏水により桁端部が著しく腐食している橋梁で1年半ほど防食効果の実証試験をしていますが、今のところ、腐食は進行していません。この防食技術ではアルミを主とした亜鉛との合金を犠牲陽極材として使って、この陽極材を繊維シート(高い吸水・保水性を有する架橋型アクリレート繊維)を介して、対象部位に設置します。これによって、乾湿挙動が複雑な大気腐食環境であっても、海水中と同じように防食電流を継続的に発生させる環境を作り出すことができます。

 今後は、これまでのように、部材が腐食で損傷してから補修する対症療法的な事後保全ではなく、重度の腐食が生じやすい重要部位を予知することで効果的な予防保全の実現について検討したいと思います。たとえば、著しい腐食が生じやすい桁端部の支点周辺については、新規部材への取替え時や設計時に板厚を増厚することを提案しています。また,腐食しやすい部位の狭隘部や入隅部を極力なくすような設計を提案しています.これらの部位は一旦腐食すると素地調整が難しいため、塗替え後の早期に塗膜下腐食が発生し、腐食し続けるため、塗装などの皮膜による防食効果は期待できません。

 凍結防止剤を含む漏水や飛来海塩が付着するなどして濡れ時間が長い腐食性の高い環境では、1年間に0.2mm以上の腐食が進行する場合もあります。この場合であっても、従来9mmだった板厚を16mmにするだけで、塗膜劣化後、補修をしないで経過観察するだけで35年程度は延命化できます。増厚に要するコストは少ないため、従来のように、腐食の再発のたびに塗り替えなどの対策を繰り返す場合に比べて、補修コストを大幅に抑制できます。

 腐食部材を補修する際には、腐食による減厚分だけを単に断面補修すればよいのかを十分に検討する必要があると思います。部位によっては、力学的にほとんど寄与しておらず、単なる贅肉である場合もあるからです。また、補修を判断する際には、耐荷力を低下させる部材の断面減少ではなく、断面減少をほとんど伴わない局部腐食についても注意する必要があります。腐食孔の応力集中部から疲労き裂が発生して、部材が破断する場合もあるためです。 

 一般に使われている重防食塗装からの腐食は、面方向ではなく、板厚方向に進行しやすいため、平均腐食深さのみで腐食しろを考慮しても腐食が部材を貫通して、腐食進行を加速させることもあります。そのため、場合によっては、重要部位については増厚するだけではなく、他の防食方法も併用する必要があると思います。

 ――犠牲陽極材を設置した場合、どのくらいの防食領域を想定しているのですか

 貝沼 ラボ試験で検討してみましたが、凍結防止剤など塩化物を含む漏水環境では、犠牲陽極材の端部から30cm程度は十分に防食できます。ただ、犠牲陽極材の設置領域以外に繊維シートを延長して設置することは難しいため、陽極材の設置領域だけ防食することを考えています。

 ――塗装が残存している所に設置しても防食効果は発揮できるのですか

 貝沼 大気暴露した模擬桁では防食効果を確認していますが、構造物ではまだ検証できていません。しかし、これまでの検討結果から、荒い錆を簡単に落とせば、塗膜や塩が残置された状態でも防食効果は期待できると考えています。

 今後は、この技術に工夫を加え,狭隘部や閉塞断面部材内などの部位や橋梁以外の鋼構造物でも展開することを考えています。また、陽極材の設置方法や、さらに腐食性が高い環境でも防食効果を検証していきます。その上で陽極材の寿命を最低10年から30年程度持続できる防食手法に発展させていく予定です。この技術を適用すべき部位を選定するため、重要部位の塗膜劣化後の腐食進行性を定量評価する手法にも取り組んでいます。