道路構造物ジャーナルNET

橋自体の耐久性に大きな疑義

既設ポストテンション橋のPCグラウト問題への対応

公益社団法人プレストレストコンクリート工学会
既設ポストテンション橋のPCグラウト問題対応委員会
委員長
京都大学教授

宮川 豊章

公開日:2015.01.01

 ポストテンション橋の建設が始まってから既に約60年が経過、当初では想定しなかった凍結防止剤の散布などの影響により主に上縁定着により施工してきたポストテンション橋は施工時のグラウトの充填技術状況もあり、一部では劣化が促進されている状況にある。そこでプレストレストコンクリート工学会(PC工学会)は、平成24年に「既設ポストテンション橋のPCグラウト問題対応委員会」を設置し、その実態把握や各種調査手法の把握、診断マニュアル、補修・補強マニュアルの作成を進めている。その進捗状況などについて委員長を務める京都大学教授の宮川豊章氏に聞いた。(井手迫 瑞樹)

 凍結防止剤などの塩害が劣化を促進
 グラウトはPC構造物の死命を制する

 ――委員会の目的からお願いします。
 宮川委員長 ポストテンション橋は、建設が始まってから既に約60年が経過し、道路橋においてはスパイクタイヤ禁止に伴う凍結防止剤の大量散布など、建設当時では想定することができない塩害環境下での使用となり、劣化が促進されている現状にあります。
 既に建設・供用されているポストテンション橋では、建設当時のPCグラウトに対する意識および技術水準の未熟さ、過酷な塩害環境などにより、橋自体の耐久性に大きな疑義が生じている場合があります。
 PC構造物の中でグラウトという工程は最後に行うものですし、非常に小さい部分であります。どうしてもなおざりにされがちであったのではないかと考えています。実はPC構造物の死命を制するとても大事な工程であるわけです。しかし当時の技術者にはその意識が乏しかったように思います。しかもグラウトというのは今まであまり議論がなされていませんでした。全国レベルで資料を収集し、学会レベルでまとめたものは今までありません。
 イギリスのウェールズでポストテンション橋形式のYnys-y-Gwas橋(支間18㍍、桁1本あたりの幅610㍉、桁高910㍉、8セグメント、12φ5×5ケーブル)が1985年に落橋しました。グラウトの充填不良を原因としたPC鋼材の破断によるものと見られ、その影響で同国では1992~96年の間、グラウトを必要とするポストテンションPC橋の建設が禁止されました。日本でもそのショックがあり、新設構造物についてはグラウトの配合設計、グラウト施工時の排気孔の設置などの対策が取られ、PC建協ではマニュアルも策定されました。NEXCOでも一時全外ケーブルでのPC橋の建設がなされていたのは記憶されていると思います。新設橋については心配していません。問題は既設橋をどのように保全していくかという点です。


                       Ynys-y-Gwas橋の落橋

 このため、これまでに建設されたポストテンション橋の耐久性を検証し、さらには補修・補強工法を確立することは、これまでPC橋を建設してきたPC技術者としては責務であり、既設ポストテンション橋のPCグラウト問題対応委員会を設立し、検討を進めています。

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